第49話 [怪奇譚①]
「……強谷が言ってた罠ってのは、あの時に張ってたんだな」
互いにガンを飛ばしながら話を進める。
「ああ、そうだよ。本当にが朔かかるとは思わなかったけどな」
「いつから気づいてたんだよ」
「最初っからだ。確信したのは、今朝だけどな。いつも俺について話すのに、今日は自分のことを話してた。まるで言い訳をするかのようにな」
「はっ、よく見てるこった」
鼻を鳴らしながら、手に持っていた狙撃銃を虚空にしまっていた。
(なんだあれ……? 魔法を一切使っていないし、朔は魔力を少しも持っていない……。じゃあ、あいつは何を使ってるんだ……)
俺の疑問を尻目に、朔は再び虚空から物を取り出していた。それは黒く、細長いものそう、ショットガンだった。
「〝ベネリM3〟ねぇ……。いいショットガンをお持ちだな、朔」
「……詳しいな」
「銃刀法違反のこの日本でそれを持っているとは、感心しな――」
刹那のうちに、朔が持っているその銃の口が俺の額にぴったりとつけられていた。そして迷いなく引き金を引いていた。
「――ッぶねぇ!」
クンッと首を傾けて、銃口から放たれる銃弾を避けようとしたが、耳に風穴が開き、そこから血がだらりと出てくる。
右手の握力を強め、鉄パイプを朔に振るう。ショットガンでそれを受け止め、『ガギィィン!』という金属の音が鳴り響いた。
「おいおい朔……銃が悪くなったらどうするんだよ」
「安心しろよ強谷……! このショットガンは特注品で、耐久度半端ねぇからなッ!!」
互いの武器を押し付け合いながら、俺は口を開いた。
「なんでこんなことしてんだ……なんで俺を殺そうとしてんだ! お前がこんな奴だなんて思ってなかったぞ!!」
「『なんで』だと……? んなもん自分の胸に聞けよゲス野郎が! 今まで何人の無実の一般人をこの街で殺してきたと思ってんだ!!」
「はぁ!? 俺はそんなことしてない!! お前の勘違いも甚だしいぞ、朔!!」
火花を散らしながら、一旦距離を取る。
互いに、こめかみに血管を浮かして鬼のような形相をしている。
……当たり前だ。俺はこの世界に来てから人殺しなんか一度もしていないから、そんな冤罪で殺されそうになって怒らないはずがない。
「……強谷、お前とは仲良くやっていけると思ってたんだけどな」
「こっちのセリフだ。どこで情報握らされたか知らないけど、まんまと信じて『はい、殺します』だなんて奴だとは思ってなかった」
「何も知らねぇくせに語るんじゃねぇよ。怒りゲージがさらに上がったぜ……」
「奇遇だな、今、俺もキレてる」
ベラベラとくっちゃべっている間に、色々と自分の魔法をかけさせてもらった。これは本気で行かないと殺されるからな。
朔の実力を舐めていた。おそらく近距離戦だと、ソフィや唯花よりも強い……!
「ふッ!!」
距離を詰め、鈍い金属音と銃声を轟かせながら攻撃をする。全てガードされているが、逆に俺も全てガードし、銃弾は【
だが、一瞬の隙を突かれて俺の鉄パイプが手から離れ、宙に舞う。負けじと俺も、地面を隆起させて朔のショットガンを宙に舞わせた。
「「ッ!!!」」
武器を持っていないそのコンマ一秒、互いの右脚で蹴りを入れる。その衝撃は凄まじく、近くのビルの窓ガラスが割れた。
――力の差は互角。
それがおかしかった。俺は身体能力を数倍高めているのにもかかわらず、朔はなぜ動ける? なぜパワーが同じ?
そんな疑問を抱きながら、宙から戻ってくる鉄パイプをキャッチし、一閃。
「……やっぱ防がれたか」
「そっちもな」
……この世界に転生して、一番の〝強者〟且つ〝未知〟が、まさか朔だとはな。
「朔、お前……何か持ってるだろ」
「それはお互い様。……そして、お前はやはり、何も見えていないんだな」
「なんだ……と……」
な、なんだこれ……。体が一気に脱力してくると同時に、重力が何十倍になったかのように体が重い……!?
「冥土の土産に教えてやろうか? 強谷」
「ガハッ!」
朔は一切動いていない。それなのにも関わらず、目の前から頰を殴られた感触がする。
見えない何か……なんだ……? 何か引っかかる感じがする……!
「っ……」
その時、俺の脳裏にとあることが浮かび上がった。
「質問させろ……朔。テスト一週間前の月曜日の朝……誰に呼ばれていた……。いや、違う。そいつは人間だったか?」
俺がそう問うと、朔はニヤリと笑みを浮かべる。
「強谷、やっぱお前頭いいな。そうだよ、俺が呼ばれたのは人間じゃなかった。人ならざるもの――〝妖怪〟と呼ばれているものだ」
朔は前髪を止めているヘアピンと、首にかけていた勾玉を外す。すると、朔の茶髪はみるみる変色し、空色の髪色になり、左首から左半顔にかけて紫色の字が浮かび上がった。
「そして俺は、その妖怪を統べる者……本名は――
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