第42話 [弟子の修行]
とりあえず、体に武器をなじませるために撃ち合いを数分した。
「やっぱり師匠強いですねぇー!」
「…………」
俺は顎に手を当て、黙り込んでいた。
「どうかしましたか?」
「いや、唯花に質問なんだが、昔からずっと続けてる趣味とかあるか?」
「昔からですか。そうですねぇ……やっぱり剣道ですね。あと野球観戦です! ストライッ! バッターアウトッ!!」
「他は?」
「んー……。特にないというか、僕三日坊主なのですぐ辞めちゃうんですよね……」
「やっぱりか」
仙気について少しわかった気がするな。唯花は知っているだろうけど。
「唯花、仙気は集中力によって放出しやすいってことはわかってるよな?」
「え、そうなんですか!?」
……知らなかったようだ。
「じゃあ今学んだということで、唯花が俺に負ける理由を述べて行こう。
一、単なる体格差。二、そして大雑把になるところ。三、バランスを崩されると弱い。最後に、唯花は集中力が長続きしないということで、長期戦が苦手だ」
「なるほど」
「ということで、今いい修行方法を思いついたから、それを実践してもらう」
俺は【
「これは……」
「ご存知の通り、これは習字セットだ」
紙、筆、墨汁、文鎮などなどだ。
「これを使って、唯花には文字を書いてもらう。と言っても、ただ文字を書くんじゃなくて、足の指で筆を掴んでやってもらう」
一つ目の体格差は牛乳を飲んでもらうとして、その他の問題点はこの修行で多少改善できるだろう。
大雑把なところは、紙に文字を書くということで矯正。バランスは、片足を浮かすことでクリア。集中力の長続きは何回も書かせることでクリア。
「えぇぇ!? ……無理そうです」
「やる前から諦めるな……」
「一応習字はやったことありますけど、なんの文字を書くんですか?」
「うーん……」
簡単すぎるのはダメだな。修行の意味が無くなってしまうし……。あ、そうだ。
ピコーんと頭に閃いたものを書いてもらうことにした。
「〝画竜点睛〟にしよう」
「ひぇぇ〜〜! 四文字もあるじゃないですか!」
「強くなりたくないのか?」
「っ……」
すると、ピシッと石化したかなように動かなくなる唯花。そして勢いよくこう答える。
「やりますッ!!」
「よく言った。じゃあ後は継続あるのみだな。稽古をつけると言ったが正直ここからは続けるだけなんだよなぁ……」
「ふっふっふ、見ておいてください! こんな試練、すぐにゲームセットさせてみせます!!」
ふんすと鼻息を鳴らしながら靴下を脱ぎ始める。硯に墨汁を入れ、筆に染み込ませた後に足の指に挟んだ。
「ふ、んぎぎぎ……!」
「めちゃくちゃ震えてるけど大丈夫か?」
「なんの……これしき! っど、どぅわっ!!?」
――ベチョッ。
唯花が転んだと同時に、不快な音で俺の顔に冷たい感覚が走る。
「…………」
「あ……す、すみません師匠……」
俺の顔と服ににべっとりと墨汁がかけられたのだ。
「【
狂気を孕んだにこやかな表情で唯花に死刑宣告を言い渡した。
「嫌ぁああああ!!!」
この後めちゃくちゃ修行させた。
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「も、もう足が……攣りそうです……」
「まあよく頑張ったよ」
床に散らばる紙の数々を眺めながらそう答える。最初は甲骨文字でも見ている気分だったが、今では五歳児の文字にまで成長していた。
「さて、さっき温かい緑茶いれてきたから、どら焼きを食べるか」
「わ〜〜い!」
おぼんに乗せた湯気を立てる緑茶とどら焼きを床に置いた。
そしてどら焼きを一口。
「…………」
「あれ、師匠美味しくなかったんですか――って泣いてる!?」
美味すぎて声が出ないとはこのことか……。
あれよあれよという間にどら焼きはなくなる。お菓子休憩が終わったら、再び唯花に修行をさせた。
「――……あれ、もうこんな時間か」
スマホの画面に目を向けると、18時になっていた。
「今日はここまでにしますか? それともナイトゲーム突入……いや、やっぱ嫌です」
「まあこれだけ頑張ったんだし、今日はもうやめにするか」
「来週テストもありますしねぇ」
「…………あ」
やべっ。すっかり忘れてた。
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