第25話 [静音の謎と、桜の気配]

「昼休みか……」


 授業と授業の合間にある10分休憩の時、静音が毎回俺の教室にやってきてソフィとバチバチやっていたが、とうとう昼休憩になった。

 もはや静音が来ない方が普通じゃなくなってきている。


「ん!」

「ちょ、静音、手を引っ張るな……」


 教室に来るや否や、問答無用で教室の外まで引っ張られる。


「ちょっとシズ〜? あたしも一緒にお昼食べたいんだけど〜」

「チッ……」

「舌打ちされた!?」


 俺の手を引く静音と、後ろから追うソフィ。そして群がる傍観者。

 視線の集中豪雨に耐えながら、俺たちは屋上についた。


「最近蒸し暑くなってきたな……。もうそろそろ梅雨か?」


 青い快晴の空を見ながらボソッと呟いた。


「強谷、ちょっと待ってて」

「ん? どうした?」

「おトイレ」

「ああ、いってら」

「……ソフィアと変なことしないでよ……」


 ジトーっとした視線を俺たちに送ったあと、パタパタと走り、扉を開けて立ち去る。


「……にしても、静音は謎なんだよなぁ」

「モガミんどしたの?」

「いや、ソフィは静音に必要以上に付きまとわれたりしてる?」

「いいや?」

「だよな。だからなんだよ」


 ソフィも俺と同じ魔力を持っていて、魔法も使える。さらには人間じゃない。

 だというのに、興味はソフィではなく俺の方に向いている。一体全体、どういうことなのか。

 そのことをソフィに話してみた。


「ん〜〜。もしかしたらモガミんにはまだ隠された何かがある……とか?」

「うーん、そういうことになるのか? 思い当たる節がないんだよなぁ……。しかも、前世で知らないことなかったから、自分のことも限りなく知ってると思うし……」

「はへー。そーいえば、モガミんって前世で何者だったの?」

「最強賢者」

「カッケェー」


 静音が戻るまで考えたが、いい答えが出なかった。

 静音が屋上に戻ってきて、早速昼飯を食べようとしたのだが……いつも以上に距離が近い。俺の腕にぴったり肩を付けて黙々と弁当を食べているのだ。


「あのぉ……静音さん?」

「ん、何」

「距離が近い気がするんですが……」

「いつも通り。気にしない。敬語、禁止」

「気にするんだが……」


 ソフィと関わりを持つようになってから、静音のボディータッチとかが増えた気がする。


「強谷、ん」

「え? また弁当の具くれるのか?」


 首を縦にコクコクと、無言で振る静音。

 静音の厚意に甘え、彼女が箸で掴んでいる弁当の具をパクッと咥えた。


「やっぱ美味いな」

「ん、もっとあげる」

「え? いや、もういらないぞ? 逆に俺の弁当の具いるか?」

「……! ほしい」


 すると、アホ毛は俊敏に動き出す。静音は目を閉じて、雛鳥が親鳥から餌をねだる時のように口を開けてきた。

 ……なんだかイケナイコトをしているような感覚に襲われてるが、気にせずにしよう。


「ほい」

「ん……。おいし」

「それは良かった」


 表情筋は死んでいるが、アホ毛は喜んでいたので良し。


「むむむ……。モガミん! あたしにもちょーだいちょーだいちょーだ〜い!!」

「自分のあるだろ……まあいいけどさぁ」


 こっちは鳥というか、おやつをねだる犬だな。フェンリルってプライド高い狼だったはずだが、そのプライドはどこの質屋に売ってきたんだ。

 減って行く自分の弁当を眺めながら、渋々ソフィに具をあげた。


「うっ!? うんまァァ〜〜いッ!! ……あたし、これからモガミんの料理毎日食べる」

「やめてくれ。面倒だ」


 やれやれと、息を吐く。スマホをポケットから取り出し、ニュースを見ながら俺も弁当を食べ進める。

 すると、吸い込まれるようにひとつの記事をタップしていた。


「〝剣道世界大会優勝者――桜路さくらじ唯花ゆいか〟……へぇ?」


 桜路唯花。俺はこいつは知っている。なぜなら、同じ学園で同じクラスだからだ。


「あ〜、そーいえば大会行くから学校休むとかなんとか言ってたね〜」

「じゃあ明日にでも帰ってくるのかもな」


 できればでいいが、手合わせ願いたいね。

 そんなことを思いつつ、俺たちは弁当を食べ進めた。

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