第23話 [ナニカに目覚めた]
「スゥ――ッ…………。まじでごめん!!!!」
俺は頭を深々と下げてソフィアに向かって謝罪した。
「ちょ、謝らなくてもいいって!」
「だって意識が朦朧としてたとはいえ、テイムしてしまうとは……。すぐに戻すから!」
「いらないらない! 本当に大丈夫だから、ね?」
ソフィアの家の決まりというやつか……。
けど、その首輪は問題大有りだろう。クラスメイトが突然首輪をつけて登校してきたら大問題だ。
「とりあえず、その首輪だけは変えさせてくれ」
俺が指をパチンっと鳴らすと、ソフィアの首についている首輪はシュルシュルと変化して、青色に金色のラインが入ったチョーカーになった。
これなら『おしゃれ』といっても怪しまれないだろう。
「あぁ……。別にさっきのでも良かったけどなぁ……」
「ん? すまん、今耳鳴りで聞こえなかった。なんて?」
「なんでもな〜い」
ユラユラと尻尾が揺らしている。犬が尻尾を揺らす時は嬉しい時だった気がするが……チョーカーが気に入ったのだろうか?
チョーカーをさわさわしながら表情を綻ばせてるし。
「それで、あたしはなんて呼べばいい? ご主人様? 飼い主様??」
「マジでやめてくれ。普通で頼む」
「むぅー……。じゃあ〝モガミん〟で」
「モガミん」
……まあいいか。
「えーっと、ソフィア。この後はどうする?」
「ソフィでいいよ? あたしも強谷の事モガミんっで呼ぶし」
「わかったよ、ソフィ」
「んふふ〜♪」
尻尾を振るスピードが上がった気がする。俺は気にせずに話を進めることにした。
「この後だが……ソフィの家に挨拶とかいったほうがいいのか? ほら、家の決まりみたいな感じがあったり……」
「全然大丈夫だよ! あのー、ゆーてそんな厳しい決まりとかはないからネ〜、アハハ〜〜」
なんだか片言で、視線を逸らしてきたが……どうしたんだろうか。
「そうか。……まあ、魔力欠乏症になった俺にも非があるから責任は取らせてくれ」
「へっ!? い、いきなりそんな……」
「ソフィの家の決まりとやらを取り消して、テイムを解除するんだッ!!」
ずっとソフィに嫌な思いをさせ続けるのは俺の心が痛むしな。
「ま、マジで大丈夫だから! 本当に本当に大丈夫だから!!」
「え、でも――」
「ほんっとうにっ! あっ、もうこんな時間ダァ〜、あたし帰らないト〜〜!!」
「ちょ、ソフィ……」
時計を見るや否や、ソフィはガバッと立ち上がって玄関に向かった。
「モガミん、じゃね! また明日!!」
「え、あ、おう……」
玄関の扉をバタンと閉め、ソフィは帰ってしまった。
(本当にいいのだろうか……? まだ頭痛むし、明日ゆっくり考えるか……)
頭をポリポリと掻きながらリビングに戻った。
###
「ただいま〜〜」
「お帰りソフィア。今日は遅かったじゃな〜い。何あったのかしら?」
あたしは家の玄関の扉を開けて、中にいるお母さんに声をかけた。ちなみに家は、代々伝わら歴史ある民家――とかではなく、ただのマンション。
――そう、あたしはモガミんに嘘をついた。
『家の決まり』? そんなのない。
門限とかは連絡すればいつまででもオッケーだし、進路も進みたい方へ進みなさいって言われてる。
テイムは……あたしがされたかったからだ。
「それでぇ? 何かあったのかしら〜ん?」
おたまを持ちながらあたしのほっぺをツンツンと突いて質問してくる。あたしと同じ色の髪と目で整った顔をしたこの人があたしのママだ。
「別に……ただの友達、と、一緒だったヨ?」
「……本当にただの友達なのかしら」
「エ?」
「ソフィア。あなたが嘘をつく時、語尾が片言になるのを忘れたのかしら?」
「はっ!?」
しまった……。
「それでそれで? 誰と一緒にいたのよう!」
「う…………。お、男友達……」
あたしがボソッとそう答えると、ママはおたまを落としてスマホで誰かに急いで連絡し始める。
「パパ大変よっ!? あの男嫌いのソフィアが彼氏作ったらしいのよ〜〜!! キャ〜〜!!」
「ちょ、ママ!? 彼氏なんて一言も言ってないんだけど!?!?」
「このチョーカーはその彼氏くんからのプレゼントかしら〜? 早く合わせて〜〜!!」
「も、もういいッ! お風呂入いってくる!!」
「今夜は赤飯に変更しようかしら〜♡」
全く! ママは勘違いしすぎ!
ぷんぷんと怒りながらタオルなどを用意し、溜めておいてくれたお風呂に口元まで浸かり、ぶくぶくと息を吐き始めた。
「ぶくぶくぶく……」
ママが言っていた通り、あたしは男の人が嫌いだ。昔色々あって、嫌いになってしまったのだ。
モガミんのことも、最初は魔法使って調子乗ってるんじゃないのかな〜って思って、懲らしめようとしたのが戦いの発端。
でも戦っていくうちに、モガミんは他の人と違うと思い始めた。戦いの後も、すごく優しかった。
でもそれだけがテイムされたいって理由じゃない。その思いが強くなったのは、モガミんの最後の一撃と首輪だった。
あたしはモガミんに叩かれた左頬に手をそっと添え、ボソリと零す。
「あれ……結構良かったかも……♡」
そう、あの時の感覚を思い出したり、首輪をつけられてることを想像したら……なんか、ゾワゾワしていい気分になるようなっちゃったのだ。
アレをずっと味わってたい。だから、あたしはモガミんにテイムされることにした。
「明日から楽しみだなぁ……♪」
――ナニカに目覚めてしまったソフィアであった。
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