第15話 [煽り力MAX]
静音に見つかる前にそそくさと学園を立ち去ったのだが……別の奴につけられているようだ。
スーパーで買い忘れたネギとその他諸々を買った後、駅に向かって家に帰ろうとしたのだが、例のつけてきていた奴が立ち塞がってきた。
こいつは静音と話している時によく俺を睨んできていた田辺狂吾だ。金髪に鋭い目、邪悪なオーラが伝わってくる。
仁王立しながら俺を睨んで黙っていたので、俺は話しかけてみた。
「俺に何か用か?」
「ああ……」
「なんだ?」
「それは一体、どういうことだ」
指をさしながらそう言ってきた。
『それ』とはなんのことだろうか。……あ、このビニール袋から飛び出てるネギのことか?
「いや〜、実は買い忘れちゃっててな。今日の夜ご飯の具材として使うんだ。ちなみに今日の夜ご飯はだな――」
「ネギのこと聞いてんじゃねぇよ! テメェのその髪型とか運動神経のことを言ってんだよ!!」
「なんだ……夜ご飯には興味なしか」
残念だな。自慢しようと思ってたのに。
「容姿のことは教室でも言っただろ? イメチェンだって。運動神経は……今まで本気を出してなかっただけだ」
「……チッ、まあいいぜ。お前に忠告しにきたんだよ」
「忠告?」
俺、なんかやっちゃいました?(マジでわからん)
身に覚えがないうちに何かをやらかしてしまっていたのかもしれない。
「俺の静音ちゃんに手を出すな」
「『俺の』? あ、婚約が確定してるとかなのか?」
「そんな必要ないんだよ。アイツが俺のこと好きだってのわかってっからよぉ」
なんというか……悲しいやつだな。静音にスルーされてたし、煙たがってる感じがしたしな。
「それを決めるのは俺でもお前でもない。静音が決めることだろ? というか、手を出すなって言われたが、静音が勝手についてきてるだけだ」
「黙れ! お前みたいな根暗陰キャがいきなり陽キャになって俺の静音ちゃんと仲睦まじくしやがって!! 一生陰で生きてろクソ野郎が!!」
「は〜〜、ダッル……」
聞こえない程度の声量でボソッと呟く。
イライラ度が増してきたので、少し現実を伝えてやることにした。
「本当は好かれてないのに好かれてると勘違いして、勝手に嫉妬して、勝手に嫌悪感を抱いて……。はぁ、そんなんだから静音に嫌われてるんだと思うけどな」
「〜〜ッ!! ふっざけんなテメェ!!」
顔を真っ赤にしながら俺の胸ぐらを掴んでくる田辺。
「あ〜やだやだ。お前と話してると耳が腐りそうだ。音楽聞いていいか? さっき好きなボカロPさんの新曲でたんだよ」
「舐めた口聞きやがって! 誰に歯向かってるのかわかってんのか!?」
「ただのクラスメイトだろうが」
「違う!! 俺は超金持ちの家の田辺家の長男なんだぞ!!」
本当に面倒くさくて、醜い奴だな。
よく帝王学園に入学できたものだ。
「俺が本気を出せばお前なんか一捻りだぞ!? やばい組織のやつを手配することも、社会的に潰すこともでき――」
「つまり、〝お前は何もしてない無能〟って解釈でいいんだな?」
「は……?」
意味がわかっていない顔をしているな。やれやれ、一から説明してやるか。
「だってそうだろ? 自分では何もせず、ただ自分の親が成したことをまるで自分がしたかのように言いふらし、ましてややばい組織を手配する? ふっ、少しは自分で戦ったらどうなんだよって俺は思うね。これじゃまるで〝虎の威を借る狐〟のようだなぁ?」
嘲笑うかのような口調でそう言いながら、ニヤニヤとした顔をした。
「テメェエエエ――ッ!!!」
怒りに任せて俺の顔面めがけて拳を振るってくる田辺。俺はピッチャーフライを取るかのように軽々とそれを掴んで見せた。
「だから嫌われるんだよ。静音に好かれるには……そうだな、輪廻百億周ぐらいしてからじゃないと無理そうだな?」
「グギギィ……!!」
やり取りをしていて数分経っていたようで、周りには人が集まっていた。
「何、喧嘩?」
「やぁねぇ」
「あれって金持ちの家の……」
「田辺って人だったっけ」
「野蛮だな」
それに気がついた田辺は「チィッ!!」と舌打ちをして俺の胸ぐらを離した。
「話は終わったのか?」
「テメェ! 明日覚えておけよ……!!」
「楽しみにしておこうか」
脱兎の如くこの場から田辺が立ち去った。
「さて……俺も帰るか」
首にかけてあったヘッドフォンを耳に当て、帰路を辿った。
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