第6話 [いじめっ子どもを成敗]
「んー……。眠れねえ」
夜ご飯を食べ、風呂も入り終えた後、ベッドに転がって眠ろうとしたのだが、全然眠気がやってこなかった。
眠ろうとすればするほど目が冴えてくる……。この負のスパイラルにはまってしまったが最後だ。全く眠れかなる。
「……ちょっと散歩するか」
〝深夜徘徊〟。記憶を取り戻す前の俺は、眠れない時によく音楽を聴きながら夜の街を練り歩いていた。
ジャージ姿に前髪隠していて、よく通報されなかったな、俺。
多少の小銭が入ったポーチをポケットに入れ、ヘッドフォンで音楽を聞きながら夜の街へと繰り出した。
街は眠っており、月と街灯の明かりだけが地面を照らしている。
「あ、コーヒー買お」
ブーーンという機械音を鳴らしながら立ちすくむ自販機。そこに小銭を放り込み、缶コーヒーを買って飲む。
壁にもたれながらゆっくりとコーヒーを啜り、それを全て飲み干したら缶をちゃんと捨てて再び歩き始めた。
「――!」
「ん? 今なんか聞こえたような……」
その時ヘッドフォンをつけていなかったので、気のせいではないと思う。複数人の声が聞こえた気がする。
気になった俺は、声がしたであろう方へと向かった。
するとそこには――
「なぁ、いいじゃ〜ん!」
「ちょっとぐらい俺たちと遊ぼーぜ? 絶対楽しいって!」
「ほんとにちょっとだけだから! ね!?」
見覚えのある三人もとい、俺をいじめてくる三人が誰か一人を囲んでいた。その三人の中心のいる人物はなんと、あの九条静音であった。
彼女はずっとポーカーフェイスを貫いていたが、どこか困っているように見えた……というか感じた。
(風呂に入ったけど……ま、もっかい入ればいいか)
スタスタと近づき、三人に話しかけた。
「おい、困ってるだろ。そろそろ帰らせてやったらどうだ?」
声をかけると俺の方へ視線を飛ばし、明らかに不機嫌そうに俺を睨み始める三人衆。だがいつもの嘲笑的な感じではなく、不快感ばかり感ぜられる。
「はぁ? テメェ何者だよ。ウルセェなぁ〜」
「イケメソ君には用はないんだよ」
「なんならコイツぶっ飛ばして、この子に俺らの恐ろしさ教えちゃったりする?」
……あれ? 俺だって気づいてないのか??
ジャージもあの学院のものだし、ヘッドフォンだって首にかけてるんだぞ?
ヒントをあげてやるか。
「ついこの前、俺からこのヘッドフォンを取ろうとしただけじゃなくて、女の子もいじめる趣味あるのかよ、お前ら」
何言ってるんだコイツ? みたいな顔を一瞬したが、俺の胸元にある〝最上〟という文字を見て驚いた表情をし始めた。
「はっ!? コイツあのクソ陰キャ!?!?」
「いや、ぜってぇー嘘だろ!」
「いや……でもあの陰キャ、地味に身長高かったし声も一緒だし……」
やっと俺だと認識したようだ。さっさと帰ってほしいから、話を進めることにした。
「さっさと帰ったらどうだ? 多分、この子はお前らに微塵も興味ないと思うぞ。お前たち、面白くないし」
悪気は一切なく、思ったことをそのまま言葉に乗せてぶつけた。
「ハ……? テメェ……ちょっと顔がいいからって調子乗んな。俺らの恐ろしさ思い知らせてやらァァ!!」
三人の中で爆発ヘアー(笑)をした、一番髪型が奇抜な奴が俺に殴りかかって来ようとする。
……やばい。手加減できるかなぁ? なるべく力を抑えて……相手を爆散させないようにっ!
「グバァァッ!!!!」
「お、なんとかうまくいった」
相手の拳が俺に当たる前に、みぞおちに手加減して拳を叩き込んだ。するとカエルが踏まれたような奇声をあげながら後方に吹っ飛び、白目を向いて気を失った。
死んでないから安心だ。
「てっ、テメェッ! あいつが今日蟹に当たって腹の調子が悪いのを知っての上のみぞおちかッ!? 仇は取らせてもらう!」
「ボコボコにしてやる!!」
残りの二人も俺に襲いかかってくる。一人は頭に向かって蹴りをしてきており、もう一人は普通に殴ろうとしている。
「はぁあ、なんだかなぁ」
思わずため息が出るほど貧弱な攻撃だ。
蹴りをしてくる奴の足を掴み、もう一方に向かって投げた。断末魔をあげながら地面に転がる二人。
「そろそろやめた方がいい。弱すぎて手加減がむず痒い」
悪気一切なし。相手を心配して放った言葉だ。
だが、二人には煽りにしか聞こえていなかった様子で、眉間にしわを寄せ、こめかみに血管を浮かしながら再び襲いかかる。
蹴り、殴り、二人から繰り出される攻撃を蝶のように軽やかに避ける。
「くそッ! なんでッ! 当たらねェ!!」
「こんの野郎――ッ!!」
一人が一気に間合いを詰めてきたので、俺思わず足を振り上げ、顎にクリティカルヒットさせてしまった。
男は格ゲーのように宙に舞い、地面に倒れこむ。
「ふ、二人ともォォ! くそっ! 覚えとけよこの野郎が〜〜!!」
唯一気絶していない男が二人を背負い、そんな言葉を言い残してこの場から立ち去った。
なんというか……この世界の人間は弱いな。強者はいるのだろうか?
「――あ、あの……」
「ん?」
消え入りそうなか細かったが、透き通るような美しい声が隣から聞こえてきた。
九条静音だ。
とりあえず救出成功だな。
「大丈夫か?」
隣にいる九条静音にそう言った。
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