第4話 [今の実力]

 ――ピピピピッ、ピピピピッ


「う、う〜ん……?」


 何かが鳴いている……いや、鳴っている? 襲って来ている魔物か??

 寝ぼけながら音を発しているものを探す。その正体は金属の板……ではなくスマートフォンだった。


「あ、そうか……。転生に成功してんだった」


 スマホの画面をスライドし、アラームを止める。

 まだ前世の記憶が戻ったばかりなので、意識が混濁しているようだ。ボロを出さないように気をつけなければいけない。


「朝か〜〜!」


 ぐぐっと両腕が引き千切れんばかりに天井に伸ばす。カーテンからは陽が差し込んでいた。手を伸ばしてそれを開けると、光が入り込んできて一気に視界が白くなり、思わず目を細めた。


「えーっと、今日はとりあえず今の実力がどの程度なのか、だな」


 おそらく……というか、絶対に俺の力は前世より衰えているだろう。記憶が戻ってからあまり魔法は使っていないから、どの程度の実力が残っているかを調べたい。


「でも……ここではダメだよなぁ」


 そう、こんな街中で魔法をバンバン使ったら大惨事だ。魔法なんて無い世界だろうし、使ってたら面倒ごとに巻き込まれそうだ。


「どうするか……――そうだ! 〝海上〟だ!!」


 海上ならば、人なんか周りにいないし、多少の範囲ならば魔法を発動させても壊れるものはない。

 あくまでも〝海上〟だ。海に使ったらそこにいる生き物が死んでしまうからな。


 海上に【空間転移テレポート】する予定だが、座標がわからない。そこで、俺はスマホの地図アプリを使って確認する。


「んー、ここら辺でいいか」


 スマホの画面をスイスイと触り、いい感じの場所を確認する。


「早速行くか。【空間転移テレポート】!」



###



 魔法は昨日と問題なく発動。だが、早速問題発生。


「よし、着いた――って、わぁぁ!!」


 場所は。俺は真っ逆さまに海に向かって落ちているのだ。


「ぐっ……【重力操作グラビティ】!」


 髪の毛の先端が少し海に浸かってしまったが、重力を操作する魔法を使ってその場で静止し、なんとかずぶ濡れになるのは避けられた。


(この【重力操作グラビティ】……前世では山一つ余裕で浮かせられたが、どの程度まで落ちたかな)


 俺はくるっと起き上がり、ちゃんと水平線を確認する。そのまま空に向かって上昇し、ある程度まで来たら魔法を発動させた。


「【範囲結界はんいけっかいハイド】。……うん、ちゃんも魔力遮断も気配遮断も機能してるな」


 この結界は、俺を中心に半径500メートルほどの球体にして発動させた。

 【範囲結界はんいけっかい】には様々な種類があるが、この〝ハイド〟は隠蔽に特化した結界である。なので、他にも魔法を使える者がいると仮定し、かなり大きな魔法を発動させたとしても、そいつにバレることはないということだ。


「さ〜てと、それじゃあ早速試し打ちして行くか。【蒼ノ帝門あおのていもん開羅かいら】」


 俺の手の甲に、一つの雫を囲む雷の柄をした水色の紋が現れる。それが輝き出すと同時に、手から滝のように大量の水が溢れ出す。

 溢れ出た水は結界内に溜まり、約半分が見で埋まった。


「お次は――【紅蓮飄風スカーレット・テンペスト】」


 結界内に五つほど、燃え盛る炎を纏う竜巻が発生し、溜まっていた水が全て蒸発した。


「ぶわっ! 水蒸気がすごい! 〝気体の出入りを許可する〟!」


 充満した水蒸気が外へ放出され、新しい空気が結界外から入り込んでくる。


「ふぅ……。どんどん行くか!」


 その後は、魔力が枯渇する寸前まで魔法を使用した。

 大抵の魔法は使えるが、己の肉体や魂に干渉する魔法などはまだリスクがあるようだった。

 他にも、魔力量は前世の三割程度といった具合で、だいぶ減ってしまっていた。


「ゔっ……流石に魔法を使いすぎて頭痛がして来そうだ。【空間転移テレポート】」


 もう魔力が砂漠の砂のようにカラッカラなので、今日はもうやめとし、自宅まで移動した。とりあえずリビングまで移動し、冷蔵庫からお茶を取り出して一気に飲み干した。

 まだ昼下がりなので、これから夜ご飯を作るための材料を買いにスーパーまで行くとしよう。


「財布の中身は……五千円ぐらいか」


 所持金を確認した後、俺はいつものジャージに着替えてスーパーまで向かうことにした。

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