第194話二度もあるなら

 魔界の街はその全てが例外なく転移魔法を阻害している。

 理由としては様々あるが、最も重大な理由はやはり防衛の観点から必要であるからであろう。

 転移魔法を使用しての絨毯爆撃が一時期魔界では大流行したらしく、それの対策として都市部付近では転移魔法を使えないようにしているとのことである。

 だがそれは所詮ある程度の力を持つ魔物などに向けた対策でしかない、ニルの転移魔法陣を防げるかどうかは別の問題であった。

 一応村出立の準備も含めて一日の時間を空けたニル達は、そうして長い道のりを転移魔法で移動して魔界の街へとやってきたのである。


「ここはどこだろ?」

「アルヘオ家の魔界用の家ですね。私もここには何度か来たことがあります」


 転移魔法でエルピスの魔力を辿って近くの空き地に飛んだはいいが、一度も訪れたことのない土地のことはさすがにニルも分からない。

 だが隣にいたヘリアはどうやら既にここに来たことがあったようで、特に何をするでもなく自然に屋敷の中へと入っていくと流れで他のものもその後を追いかけていく。

 見てみればたしかにどこか見慣れた内装だ、ニルも何度かエルピスの部屋に遊びに行くためにアルヘオ家の本邸に行ったことはあったが、どうやらそこの作りと殆ど同じようなもののようである。

 状況を訪ねてくると別れてしまった執事達を見送りながらレネスと共にニルが向かうのは、かつて本邸でエルピスの部屋が存在した場所だ。

 入り組んだ室内の中を歩き回りながら部屋の扉へと近づいて行くほどにニルの足取りは軽くなり、最後には飛ぶようにして廊下と部屋を隔てる扉を開ける。


「はろ~、元気してる?」

「ニル! 大丈夫だった……って師匠。もう大丈夫ですか?」


 扉を開けて中を見てみれば、ベットの上で本を読みながらゴロゴロしているエルピスの姿が目に入った。

 エルピスもすぐにこちらの存在に気がついたようで、本をベットの上に投げ出すと飛び込んできたニルの体を強く抱きしめる。

 その感触にニルが身体を預けている間、隣で黙って着いてきていたレネスにようやく気が付いたのかほんの一瞬エルピスは警戒したような顔を見せる。

 だがいまの状況でも暴れないレネスを前にして、どうやらどうにかなったらしいと判断したようだ。

 抱きしめられたまま視線を横にずらしてみれば、第一声をどうしようかと迷っているレネスの姿がそこにはあった。

 昨日から随分とナヨナヨしているとは思っていたが、これもまた感情を取り戻したことが原因であると考えると可愛さが先行してくる。


「あ、ああ。迷惑をかけたなエルピス」


 なんとか声を絞り出したであろうレネスは、たったそれだけの言葉で顔を赤くしてしまう。

 初めて恋心を自覚した状態でその好いている相手の前に立ったのだ、その気持ちも分からなくはないがニルがふとこんなことを考えてしまうのも仕方がないだろう。


(ちょろ! ちょろすぎるよレネス!)


 自分の事は棚に上げ倒してそんなことを思うニルだが、嫉妬ではなく恋心を持って好きな相手と対面しているのだからそんな初心な反応もおかしくはない。

 それにレネスはまだ最も緊張するだろう告白をしていない、そう考えると今のレネスの緊張はまだまだ序の口なのである。

 そんな事を考えているニルの前ではレネスと話せたことが嬉しいのか、満面の笑みを浮かべてニコニコしているエルピスがいた。


「いえいえ、師匠ならどれだけ迷惑かけてくれても良いんですよ?」

「そういう訳にも行かないだろう。それにまだ負けたままだ、君の師匠を名乗るのは忍びない」

「──となるとやっぱり再戦ですか?」

「話が早くて助かるよエルピス」


 いきなり突拍子もなく始まる試合開始の雰囲気は、エルピスとレネスの関係性をよく表してくれているだろう。

 言葉で語り合うのが苦手だから剣で語り合う、なんともまぁ素晴らしいことではないか。

 ニルにもその感覚は理解できる、ニルだって元はそうやって創生神との絆を深めてきたのだ。

 常人ならば到底理解できない感性であるが、この場所にまともな人間はどうやらもういないようで自然な流れのままにエルピスとレネスの戦闘は決まる。


「そうなると戦う場所が必要だね、僕の方で用意した方がいい?」

「お願いするよ、庭で良いかな?」

「うん。今日は剣だけで師匠と戦うよ」


 刀を取り出して考えを固めたエルピスは、レネスに対してそう伝えた。

 魔神であるエルピスにしてみれば手加減ともとれるような発言ではあるが、だがエルピスも考えがあっての事である。

 レネスを相手にして使える魔法の階級は精々が国家級といったところだ、神級以上の魔法を個人相手に使用した場合殺さない程度に手加減できる自信がない。

 だからこその判断であり、レネスもそれを分かっているからこそ嘲られているとは感じることはない。


「魔法を使わなくていいのか?」

「肉体強化くらいはしますよ? 魔法は使いませんけどね」

「手加減、だとは思わないさ。そもそも魔法を私が使わせないしな」


 場所を決め外へと出て行く最中でセラに声をかけたニル達がそのまま外へと出ると、先程転移してきた場所へと向かう。

 エルピス達が戦闘するにしては少々手狭と言わざるおえない程度の広さではあるが、ニルとセラによる空間拡張と結界によってそれらの問題は無理やりに解決される。

 エルピスは愛刀である黒い刀を取り出し、レネスはかつてエルピスの腕を切り裂いた愛刀沈丁花を取り出して上段に構えた。

 戦闘は既に始まっている、切りかかったその瞬間からがスタートである。


「戦闘前に一つだけいいだろうか?」

「ええ、構いませんけど。どうかしましたか?」

「この試合に私が勝ったら願いを一つ叶えてほしい、もちろんエルピスが勝ったらエルピスの願いを一つ叶えよう。いいかな?」

「良いですよ。緊張感があった方がいいですしね」


 エルピスが要求されて叶えられない望みは何かを殺す事くらいで、そうでないとすれば万能に限りなく近いいまのエルピスであれば、レネスの望みを叶えるくらいそう難しい話ではないだろう。

 会話を終えて意識を切り替え改めて刀を構え直した二人はお互いの隙を探り合う。


「戦闘準備は整ったかな?」

「いつでも良いですよ師匠。ごめんセラ、悪いけど魔神の権限全部譲渡するから身体能力だけ全部もらうね」

「ええ良いわよ」


 今回の戦闘で使用する魔力的な身体強化はエルピスが元から扱える程度のものであり、わざわざ魔神の権能を使用しないでもどうにかなるレベルのものであった。

 魔神の権能を全てセラに譲渡しセラとニルから身体能力を貰うことで、ようやくエルピスは100%己の力を全力で振るうことができるようになる。

 #祝福__ギフト__#にもあった身体能力の弱体化を無理やりに解除したエルピスの今の膂力は途方もないものになっていることだ。


「勝負は一度だけ、一太刀浴びせた方の勝ちだ。頭部への攻撃は禁止、それ以外だったらどこ切っても死にはしないから大丈夫だよ」

「どこ切っても死にはしないって……痛いんだよ?」

「私と戦うんだ、それくらいで済むだけ凄いことだと思うぞ?」

「褒められてるのは嬉しいんですけどね」


 会話をしている間も常に両者は互いの隙を窺い合う。

 戦闘開始の合図は無しだ、訓練ではなく実戦形式の今回では相手を殺せると判断した瞬間が戦闘開始の合図である。

 剣先がほんの少しでも震えてしまえばそれを隙と思われても仕方がない、そんな中でレネスは驚くことに構を解いた。

 それに即座に反応しかけ出そうとしたエルピスだが、あまりにも隙だらけのその格好に罠ではないかと一瞬前に出るのを戸惑ってしまう。

 エルピスの失敗はまさにこの瞬間でだ。

 その瞬間、レネスは仙桜種としての全力の力を発揮する。

 桜の様な魔力を舞い散らせながら刀を再び構え直したレネスを前にして、エルピスは己の判断が誤りであった事を反省するしかない。

 先程見せた隙は確かにただの隙だったのだ、エルピスにとってレネスに攻めてこないと読み切られてしまった事が問題なのだ。

 考えを読まれているとしか思えないニルとの戦闘に比べればまだましだが、それでも考えを読まれているのではないかと思えるような相手と戦うのはできれば避けたかったことである。


「それが仙桜種の全力ですか」

「ああ、これが新たな可能性だ。凄いだろ?」

「変身待つんじゃなかったなって後悔してますよ」

「話してる間に君も変身してるじゃないか」

「そこはほら、仕方がないですよ──ッ!」


 会話をしている間に龍神へと完全に変化したエルピスは、その力を存分に使って前へと向かって走り出す。

 レネス級の敵を相手にしてエルピスが出来ることはそう多くない、そもそも出来ればレネスを相手にする事は避けたいところだし、いままでの戦績が五分なのが奇跡でもある。

 だが勝つことだけを見据えて矢の様に一直線に駆け出したエルピスは止まることなくそのままレネスへと駆け出して行くと、レネスは上段に刀を構えて迎撃の意思を示す。

 本物の仙桜種へと変化した事によってどの様な変化が起きているのか、それが分からないままに前に出たエルピスは手痛い一撃を喰らう事になる。


「──痛いじゃないですか。もうちょっとで負けですよこれ」

「いまの状況から一太刀浴びせられなかったのは残念だな」


 エルピスが確かに切ったと思ったそれは、レネスの体から溢れ出した魔力によって作られた桜の葉。

 仙桜種の力はレネスが既に把握できているものと出来ていないものを合わせて幾つか存在する。

 たとえばいまエルピス相手に使用した桜を使っての防御はニルとの戦闘中に既にその存在に気が付いていたが、レネスはまだ認識の変換という仙桜種最大にして最強の能力を扱えていない。

 この世界において幾つか存在する神の権能、それらは世界のルールを変換させこの世にあってはならない新たなルールを作り上げる特性を持つ。

 たとえば龍神の息吹、あれは当たった瞬間にその生物の死を確定させるという不可逆的な能力を所有している。

 仙桜種の能力はその確実な死を別の物事に変換させる事であり、神の権能を無効化させるその能力は神殺しの異名も持つ創生神にはピッタリの能力だといえよう。


「行きます」

「こい、我が弟子」


 桜は常にレネスの体から円状に放出されているので無視する事はできない、ならばレネスが攻撃する瞬間にほんの僅かの間だけ無防備になる腕を狙うのが今回のエルピスの勝機であろう。

 レネスが不審がらない様ほんの一瞬だけ隙を見せたエルピスに対し、袈裟懸けに刀を振り下ろしたレネスを迎え撃つ様にしてエルピスも下から刀を振り上げる。

 お互いにお互いの行動を読み合っているからこそ刀は体に届く事はなく、頭部がぶつかるほどの近距離で全力の鍔迫り合いが起きる。

 その瞬間、びしりと鈍い音がどこかでなったような気がした。


「はぁぁぁぁぁッッ!!」

「うぉぉぉぉぉ!!!」


 吠える両者の間で金属音を上げ続ける刀にかかっているのは、相手に負けたくないというただそれだけの思いである。

 地面が陥没しかねないほどの圧倒的な膂力と鍛治神によって鍛えられた刀がありながら、それでも超えられない壁にエルピスは自らの全てをかけて一太刀を浴びせに向かう。

 それはレネスとしても同じ事である。

 新たな力を手に入れ、友人から貰ったこの世界でも有数の刀を手にし、圧倒的な技能を持っているはずの自分が競り勝てないのはそのエルピスの底力である事にも気がついていた。

 だからこそレネスは勝敗を決める為にこの勝負を挑んだ、そしてこの勝負に勝ったなら口にしようと思っていた言葉もある。

 その全てを己の刀に乗せて、レネスは刀にさらに力を込める。


「おお! 頑張れレネス!」

「珍しいわねニル。貴方がエルピス以外を応援するなんて」

「愛の女神としてここはレネスを応援するよっ! 頑張れー!」


 そんな呑気な声がレネスの耳に入る事はなく、だがどこらから湧いてきた力だけが不自然に身体を動かしてくれる。

 目の前で苦痛に歪んでいくエルピスだが、余裕がないのはレネスも同じ事。

 決めるならばこの一瞬。


「────ッ!!」


 エルピスが押し返そうと力を入れたその瞬間、鍔迫り合いをやめ半身だけ後ろに下がったレネスの鼻先は空間を割くだけの力を持つ刀が通り過ぎていった。

 振り切ってしまって確かに生まれた大きな隙、レネスはそれを見逃さずそのまま横凪にエルピスの体に向かって刃を向ける。

 水平にエルピスの身体に侵入しようとするその刃は、もし見過ごせば致命傷は必須。

 己の身体を全て曝け出しているのでもしこの一刀が避けられてしまえばレネスの敗北は必須、だが力を込めて刀を逃してしまったエルピスにはもはや攻撃できるほどの余裕はない。

 受け止められてもその上から叩き切る──ッ! そう意気込んで放たれたレネスの刃は確かにエルピスの腹部を一瞬だけ捉えた。


「なっ──!」

「えぇ! そんなのってある!?」


 初めに驚きの声を上げたのは切られた側のエルピス、そして次に驚いたのは外から見ていたエラである。

 見れば確かにあと少しでエルピスの身体を両断せしめんとしていたレネスの愛刀は中程から折れてしまっており、エルピスに傷をつけるという役目は終えているものの致命傷を与えるまでには至っていない。

 残念なことに鍛治神の作った武具相手に何度も戦闘をしてしまっただけに、武器の寿命がおそろしいまでの速度で減ってしまっていたのだ。

 最後にとどめになってしまったのは邪神の障壁と龍神の鱗、その二つの鎧を切り裂くのにはもはや刀の寿命は足りていなかったのである。


「私の刀が……」


 折れてしまった愛刀はレネスにとって力の象徴でもあった。

 鍛治神の剣相手に撃ち合えていた辺り仙桜種の鍛治師も極まった腕を持っていたのだろうが、残念なことにそれで超えられないのが神の力である。

 もしこれが鍛冶神が作り出した刀であれば、たとえどの代の鍛冶神であっても折れてしまうことはなかっただろう。


「試合前のルールに従い勝者はレネスね。エルピスもそれで大丈夫?」

「もちろん大丈夫だけど──これ……」

「いや、仕方がないさ。鍔迫り合いの時から手元の感覚がおかしかった、寿命が来ているのは分かっていたさ」


 中程で折れてしまった刀はきっとレネスにとって大切なものであったはずだ、それをこうしてへし折ってしまったことにエルピスも申し訳なさを感じる。

 だからと言ってはなんであるが、エルピスは一つの提案をする。


「その刀、俺が直そうか?」


 鍛治神であるエルピスならば元通りどころかそれ以上に良いものを作れるだろう、そう思っての提案であったがレネスは首を横に振る。

 彼女の内心からしてみればせっかく勝利したというのに、それを刀の修理に当ててしまうのはきっとよくない事である。


「いやそれには及ばないよ。この刀は私の友達が作ってくれたものだ、彼女にもう一度作り直してもらうよ」


 確かに刀は作った本人がその特性を何より理解している、エルピスだって治せるのであればできれば他人の作品には手を出したくない。

 レネスの言葉に納得したエルピスは素直にそれから手を引くと、ならばとこの試合が始まる前に決められていた事を聞く。


「なら良いけど……それでお願いは?」


 勝者は敗者に対してなんでも一つだけお願いをしていい。

 それがこの戦闘が始まる前にエルピスとレネスが取り決めた約束であり、それを守るためにエルピスはレネスに対して言葉を投げかけた。

 レネスはたとえ負けたとしても願うつもりであった願いを、勝者の特権という大義名分を得たことで軽くなった口でエルピスに大して伝える。


「私のお願いはただ一つ、エルピス。君をもらおう」


 真っ直ぐな双眸がエルピスの目を見つめながらそう言うが、とうの本人であるエルピスにはそれほどの衝撃はない。

 こう言ってしまってはなんだが仙桜種の村で既にエルピスはレネスの感情に対して気がつく機会を与えられていた、言わばあの瞬間こそがはじめての告白であるとも言える。

 男として告白をするつもりで居たところを出し抜かれたのは少々驚きではあるが、レネスがこうして想いを伝えてきてくれたことはエルピスにとっては嬉しいことだ。


「これはまた凄い愛の告白ですね」

「私はこれくらいしかやり方を知らないものでね。欲しいものは自分で手に入れろと教えられて居るんだよ」

「それはまた随分と素晴らしい教育です」


 にっこりと笑みを浮かべたエルピスは直接的な答えを口にしない。

 それに対して痺れを切らしたレネスは逃がさないとばかりにエルピスに詰め寄ると答えを口にさせる。


「──それで、どうなんだ答えは」

「こんな俺でよければ。是非よろしくお願いしま──って師匠!?」


 答えをエルピスが口にした瞬間、レネスはエルピスの事を抱きしめる。

 感情が溢れたのもそうだが、何よりも今の自分の顔を弟子に見られたくないと言うのが本音だ。

 心臓の音がいまだかつて耳にしたこともないほどに暴れ回るのを聞きながら、レネスはただそんな時間を心地よく感じる。


「良いだろう抱きしめるくらい……それともダメなのか?」

「ダメってわけではないですけど…」


 そう言いながらエルピスの視線はレネスの少し後ろに注がれる。

 そこに居たのは確か──そこまで考えてレネスは自分が誰の前で戦っていたのかを思い出した。

 レネスをして恐怖を感じさせるに十分な二人、それがいる事を思い出してレネスは咄嗟にエルピスから手を離し両手を上げて出来心であったのだと言外に弁明する。


「まぁ僕の事は気にしないで二人でイチャイチャしておいでよ。みんなのことはこっちでなんとかしておくからさ」

「こう言ってくれていることだ。それならば甘えようじゃないか」

「師匠いまビビってましたよね? それじゃあごめんニル、行ってくるよ。明日一緒に街に行こうね」

「もちろん待ってるよ」


 目の前でいま正に自分の男になった人物が他の女性をデートに誘っている訳だが、ニルからしてみれば後からやってきたレネスが自分より先にデートに行く訳だからレネスとしてもそれを口出しすることはない。

 こういうのは気の使い合い、両親から送り出される前に教えられた事が早速役に立ったとレネスも喜ぶ。

 とりあえずはこのまま早速街へと向かい、他の者に遅れを取った分を巻き返す必要があるだろう。


「それじゃあ行くぞエルピス」

「分かりましたからちょっと待ってくださいよ師匠!」


 首根っこを掴んだままレネスと共に街へと消えていくエルピスを見送りながら、ニルとセラは戦闘によって荒れ果てた庭を整える。

 二人の間に会話はない、仲が悪いわけではないただ愛の神として目の前で生み出された新たな愛をみて感傷に浸っていただけだ。

 数分して、完全に元どうりになった庭でニルは小さく口を開く。


「──行っちゃったね。姉さん久しぶりに僕と一戦やる?」

「あら、感化されたの? 別にいいわよ」

「姉さんも乗り気じゃん。権能は半分こだよ」


 お互いに武器を構えながら、先程のレネス対エルピスよりも明確な殺意を持って相対する。

 そんな事が起こっているとは梅雨知らず、エルピス達は楽しく過ごす。

 更に荒れ果てた土地を治すためにせこせこと働く羽目になるとはこの時のエルピスは思っ

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