#06 強く握った手は決して離さない
結局……駅でヴェロニカを見たっていうだけで、後は萌々香の創作じゃねえか。
秋田新幹線に乗ったのもどうだかな。信憑性は低いだろうよ。
本当に嘘つき野郎だな。
半グレにきつく叱ってもらって帰らせたけど……まさかまた漏らすとは思わなかった。
結局……俺の服貸してやるとか……どんだけ迷惑掛けるんだよアイツは。
ヴ~~~~ヴ~~~~ッ!!
ん? スマホのバイブか?
「ああ、すまんシナモンちゃん、今から出かける……」
「ハルさん……ヴェロ姉に何したんですか?」
「え? な、何って……」
「ヴェロ姉たった今帰ってきたんですけど……口を聞いてくれなくて。唯一発した言葉が……『ハル君……あたしはいらない子なの』って」
「……は?」
「とぼけないでください。ずっと部屋で泣いていて、ご飯も食べてくれないんです」
「ま、待て。俺は……ヴェロニカと会っていな——ん?」
捨てられた?
捨てられたのは俺じゃなかったのか?
俺に愛想を尽かして出ていったのはヴェロニカの方だろう?
どうなってるんだ?
「とにかく……ハルさん……どういうことなのか説明を——」
「……すぐに行く」
「……分かりました」
電話を切って……もう、ため息しか出ねえよ。
シナモンちゃん怒ってたなぁ。
ずっと振り回されっぱなしだよ。
まあ、仕方ねえけど……。
切ないのはこっちだっつうの。
ヴェロニカ邸にやってきたものの、シナモンちゃんの視線はとにかく冷たい。凍りつきそうなほどひんやり。
リオン姉は……「ハル殿見損なったぞ」と言わんばかりの顔。口も聞いてくれない。もう俺ダメかもな。
見限られている。いや、慣れっこだよ。そういうの。
でも、せっかく仲良くなれたのに、辛い。
泣きたい気持ちをグッと堪えて。耐えろ俺。
ここで泣いたらカッコ悪いだろ。
それに……俺、なにか悪いことしたっけ?
いや、そ、そりゃあ……ヴェロニカの胸は揉んだかもしれない。
だが、アイツを捨てた、とかよく分からない認識を持たれるようなことをした記憶なんてないのに。
ヴェロニカの部屋の扉の前に佇んだのはいいけど……いったい、なんて声掛ければいいんだ?
まず、問題がなんだったのかを理解してないんだから慰めようがないよな。
もし俺が悪いとして、土下座して許してもらえるのだろうか。
「……ヴェロニー?」
ダメだ。全く反応がない。無音だ。
あいつのことだから、布団被って寝ているんだろうな。
「……美羽。俺だ」
「出ていってッッッ!!! もう二度と顔見せないでッ!!!」
耳を
その怒りのもとはなんなんだよ。
「分かった。そうする。でも、その前に理由を教えてくれないか?」
「……」
だんまりか。せめて理由くらい教えろっつうの。
俺の豆腐メンタルはもう崩壊寸前なんだからな。
ずっと、心臓バクバク言っているし。
手汗はヌメヌメで、膝はガクガクだし。
口はカラカラで頭が痛い。
吐きそうな気持ちをグッと堪えてこうして立っているっていうのに……。
「話す気がないなら……俺、帰るからな。いいのか? もう二度と来ないからな」
そんなのツライ。自分で言っていて切なくて頭かち割りたくなる。美羽と二度と会えないなんて……。
イヤだ。絶対にイヤだ。
「いいよ。じゃあ……な」
不覚にも涙声になってしまった。
訳も分からないまま嫌われて、俺が悪いことになっていて……何がなんだか分からないままお別れとか、ツライにもほどがあるって。
ここからは振り向かずに、玄関を出て、家に帰ったら……引っ越そう。
地元に帰って……すべて忘れて、新しい人生を……。
もう女なんて信じられない。
悔しいよ。
シナモンちゃんもリオン姉も何も言わないでじっと
もう……ダメだ。
顔がグチャグチャで声を我慢できない。
この扉を開けたら……‥もう。
さようなら、だ。
俺……楽しかったよ。
最後は嫌われちゃったけど、それでも思い出したらすげえ楽しかった。
こんな俺に構ってくれて、救ってくれて……‥ありがとうな。
みんな。
美羽。
扉を開けて、振り向かずに…‥…きつく
「……待って」
袖を引っ張られて、出ていくことができずに扉が閉まった。
まるで油圧のアクチュエーターが作動するようにゆっくりと扉が閉まった。
振り向くと………美羽。
なんだよ。俺と同じじゃねえか。真っ赤な目して。
顔がグチャグチャだぞ。
「俺、なにか悪いことしたのかよ……俺、朝からずっとお前のこと心配して、振り回されたけど、ずっと気にかけて。ようやく見つかったかと思ったらコレで。ひでえよ、お前」
「……ひどい? ひどいのは……ハルぐんじゃない……あだじ……もう……」
「なんで俺が……うぅ……」
「だって……さっき萌々香ど……」
萌々香がどうした……って。
——はっ!?
まさか。
「美羽……もしかしてお前……勘違いしてないか?」
「……え?」
「俺が萌々香とキスをしたって思い違いしていないか?」
「……やっぱりしていたんじゃない」
「してないって。あいつ、キスを条件にお前の居場所を教えるって言ってきやがったんだ」
「……どういうこと?」
事の
朝の手紙から今に至るまでの話しを。ただ七家六歌さんの話は省いたけど。
萌々香が偶然にもヴェロニカを新幹線のホームに向かうところを目撃していたことも。
いなくなった美羽が死ぬんじゃないかって案じていたことも。
それで、萌々香が憎たらしくもキスを交換条件に美羽の行き先を教えるなんて言ってきたことを。
ただ、キスをしたのか、しなかったのか。
それを証明する
していないのに。
浅はかで。もう
「もうばかぁぁぁぁッ!!」
「信じてくれなくてもいい。だけど、俺はしていない。寸前で……お前が引き止めたんだ」
「あたじが?」
「……ほ、ほら。なんだか……美羽の顔がチラついたら、たとえ気持ちがなくても、交換条件だとしてもできなくて」
「……ぐすん。信じるよ……信じないわけないじゃんっ!! ハル君が嘘なんてつくはずないもん。ハル君の目見れば……嘘じゃないって分かるもんっ!!」
うおッ!!
いきなり飛びついてきて抱きつくなって。
まじで後ろに倒れて危ねえから。
「それよりも……美羽はどこで何してたんだよ。それにあの意味深な手紙ッ!! 心配ばっかり掛けやがって」
「ごめんなさい……でも、手紙は……普通に魅音姉を探すってことと、ハル君と離れることが悔しくて切なくて死にそうって書いただけだよ……? それがどうして?」
「うぐ……そうだったのか。すまん。俺がコーヒー零したばかりに」
「スマホを忘れたあたしも悪いの……ごめんなさい」
この場の雰囲気よ……沈黙が痛すぎる。後ろで黙って聞いているシナモンちゃんとリオン姉がどんな顔をしているのか……大体想像はつくけど。
「な、なあ……そろそろ離れて……」
「イヤ」
「そ、そこをなんとか。ほ、ほら、俺……」
「イヤ」
はぁ。振り回されっぱなしの一日……ん?
そういえば?
「み、美羽……ところで魅音さんは見つかったのか?」
すっと手が離れて、膝から崩れ落ちて……大号泣……。今度はなんだ……?
両手で顔を覆って……もうワンワン泣いて。
振り向いたら、シナモンちゃんとリオン姉が首を横に振って
泣き止むまで話すのは無理ってことか。
仕方ない。
ほら、美羽を立って。ソファに座らせてと。
背中を擦ってやるから。な?
辛かったのか?
悲しかったのか?
美羽の気持ちを分かってあげられないけど。
俺じゃ頼りないかもしれないけど。
傍にいることくらいしかできないけど。
寄りかかる胸くらいは貸してやるから。気が済むまで泣けよ。
弱々しく……こんなに震えて。
可哀そうに……。
「すまない。ハル殿……疑ってしまって」
「ごめんなさい……わたしも……ハルさんがヴェロ姉を見限ってどこぞの馬の骨を部屋に連れ込んだのかと思っていました」
「……俺ってそんなにモテると思う? それが出来ていたらNTRなんてされてないような気がするんだけど」
「「ああ確かに」」
納得するんじゃねえ。
そんな
マジで痛いから。心が痛いからな?
俺だって必死に生きているんだからな。くそっ。
「魅音姉は……もうあたし達は必要ないって。だから二度と顔を見たくないって」
で、そう言ってまた大号泣。
それって、魅音さんの本当の真意なのか?
到底信じられないな。
だって、あの魅音さんだろ?
それからヴェロニカが泣き止むまでに2時間を要した……。
俺は……
ヴェロニカの、その細い手を強く握った。
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