#19 仕掛けるヴェロニカ



ようやく帰ってきた我が家。

新年あけましておめでとうの挨拶をしてから帰ってきたけど、なんだかモヤモヤする。



結局……ヴェロニカとは変わらずの関係。

あいつ、なんであんなことしたのか一切教えてくれねえし。

俺、あいつのなんなんだろうな。



って……やっぱり……俺のこと……なのかな。

自意識過剰になるのはよくねえよな。少し……考えないでおこう。

ああ、モヤモヤしまくるぜ〜〜〜〜。




そうして週末。




場所は都内某所。ヴェロニカに「STAFF」と書かれた吊り下げ名刺をなぜか渡されて、会場の裏口から入って……は?

俺たちって関係者じゃないよな?

あ、待て。今すれ違ったのって……あああああッ!!



大好きな声優の。



「サクラちゃんだッ」

「キッ!! ハルくんッ!! 今日はあたしのマネージャーなんだから大人しくしててっ!」

「……ああ、そうそう俺がマネージャー。うんうん、打ち合わせして円滑にイベント進めるように——って違ッ!! せ、説明しろッ!! どうやったら裏方に入れるんだ? ヴェロニーは声優でもなんでもないだろっ!?」



ん?

んんんん?



「声優じゃないけど、大人気Vtuber……。まさか?」

「うん。P・ライオットのヴェロニカですが出演させてくださいって言ったらあっさり通った。配信するっていう条件付きだけど」

「……は? じゃあ、何? 顔出しするってことか?」

「まさか。あたしは座席にモニター置いて別室から音声だけ。映像は今頃、リオン姉がセッティングしてると思う」

「……ならいいが。ま、待て。そもそも目的はなんなんだ?」

久米夢実くめゆめみを引き込むこと。今回はクズ男の相手をしている場合じゃないから」

「……夢実ちゃんっ♪」

「皮を剥いで塩水に漬けた挙げ句、天日干しにしてやる……あたしのハル君をッ!!」

「ん? なにか言ったか?」

「なんでもないッ!! さて、ハル君。あたしが出演している間に、久米夢実の控室に忍び込んでこれを置いてきてほしいの。できればバッグの中とかに忍ばせてくれると助かるかな」

「……ん? スマホ?」

「そう。あたしのスマホ。手紙では捨てられたら終わりだし、名刺も嘘っぽいでしょ。だから、スマホ。例えかばんの中に入っていてもその場でゴミ箱に入れる人はいないはずだから。パスコードは外してあるの。だから、スマホをかばんとかに入れたら、そのスマホのホーム画面にバナー表示されるようにメッセージを入れておいて」

「なんて?」



『打ち上げは華麗に。仕返しは華やかに。

キャンディにお任せを』



「い、意味分かんねえぞ。こんなのたちの悪い悪戯って取られないか?」

「大丈夫。久米夢実が見ればすぐに分かるから」

「わ、分かった」



用意周到だよな。それに何考えているのか全然分かんねえ。



お、はじまった。俺も客席から観たかったけど、裏方に入るっていうのも夢だったから、願ったり叶ったりってトコか。

夢実ちゃんの控室は……っと。

扉をそーっと、そーっと開けて。

うんうん、誰もいな——え?



「あ、あなたは……?」

「夢実ちゃん——ッ!?」

「……な、何の用ですか?? 記者の方はお断り——」

「あああ、違う、違う」



そういえばスキャンダルか何かで週刊誌の載っていたなぁ。そんなのどうでもよくね?

声優だって人間だし、人並みに恋愛だってするだろ。

それを受け入れるのがファンの宿命だぜ?



「……?」

「キャラメル・ヴェロニカのマネージャーをしている蒼乃春輔あおのしゅんすけっていう者で、えっと」



荷物に、内緒でスマホを忍び込ませろって言っていたけど、こうなっちまったら仕方ねえじゃん。



「これ、ヴェロニカから。渡せって言われていて」

「……ヴェロニカさんって、あのヴェロニカさんですか?」

「ああ、うん。どのヴェロニカだか分からないけど、多分そう」

「や、やっぱりキャンディチャンネルのキャンディさんと知り合いなんですか?」

「……なにそれ? キャンディチャンネル?」

「……マネージャーさんなんですよね? キャンディチャンネルってパーティーライオットチャンネルの姉妹チャンネルだって公言してますけど……?」



な、なに……そんなバカなぁァァァァァァァァァ!!

急いで検索、検索っと。あった。



——ッ!?



ク、クソ可愛い……。な、なんなんだこのキャンディちゃんは。

あ、やばい。ニヤッた顔見られたか。

絶対にドン引きだよな。



っていうか完全にノーマークだった……その他大勢としてしか見ていなかったんだろうな。っていうか言えよッ!! ヴェロニカッ!!



「ああ、そうそう。このスマホと、『打ち上げは華麗に。仕返しは華やかに。

キャンディにお任せを』ってワケの分かんねえ言葉をメッセージに入れろって言ってたな」

「……分かりました。では、『華麗』に行きます」



華麗に行きますって。アニメのセリフかな。

マジメな顔して何言っちゃってんのかな。

ちょっと痛い子だったのかな?



「あ、あれ。そういえば出演しているとばかり思っていたんだけど」

「しゃ、社長が……急遽内容変更して……あたしだけ一人で後から出ろって」

「隆介…‥何考えてんだ?」

「? 社長と知り合いですか?」

「いや。なんでもない。あ、あの……もしよければサインいただけませんか?」

「……あ、はい」



よし、ハンカチにサインもらったぞ。もう洗濯できないなこれ。



「夢実さんおねがいしま〜〜〜〜す」

「は〜い。では行ってきますね」

「あ、ああ。がんばって! 俺、夢実ちゃんのファンで、ずっとこれからもずっと応援しているから」

「ありがとうございます!」



こ、これで俺の役目も終わりだよな。ってことは、夢実ちゃんのトークショー見てもいいよな。



ってことで、こっそりと裏からステージを観よう。舞台袖から観ることなんて絶対にないからなぁ。



あれ……出演者は二人……久米夢実ちゃんと……え。




萌々香の奴かよ。いったい何考えてんだ。



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