第4話 分岐点
「じゃあ、そういうわけだからアラン。荷物を全部返してくれるか……?」
俺は、なるべく優しくそう言った。
最初はこのジャスティスの身体に慣れずに、思ったことと違う言葉が出たが、だんだんそれにも慣れてきて、自分の口調で話せるようになってきた。
アランのアイテムボックスに、俺たちのアイテムも入っているということだから、それは返してもらわなければならない。
そうじゃないと、俺たちがあとで困ることになるからな。
無能な癖にアイテムだけ持ち逃げするなんて、許されない。
「え……? で、でも……」
だが、アランはそれに抵抗した。
まるで予想外の事態が起こったかのように、狼狽えている。
え? 俺、そんなに変なこと、言ったかな?
「いや、アランの分は残しておいていい。新しいパーティーを見つけるまでの生活費も必要だろうから、それも補償する。だから、せめて俺たちが預けているものは、返してくれ」
これは妥当な要求だと思う。
まあ、たしかにアランの追放は、俺としても気の毒に思う。
だが、俺たち勇者パーティーはこれから、さらなる強敵と戦っていかなきゃならない。
それに、アイテムボックスも既に手に入ってしまっている。
この状況で、アランをパーティーに残しておく理由は、どうしても見つからなかった。
お情けで付き合いを続けるのも、お互いのためにもならないだろう。
アランとしても、俺たちといないほうが成長できるはずだ。
俺たちについて来ても、けがをさせてしまうだけだろうしな。
「どうした? アラン、荷物を返してくれるだけでいいんだ」
俺は、できる限り笑顔で、やさしい口調でそう言ったつもりだ。
ジャスティスは勇者らしい威厳のある声だし、顔も無表情で高圧的な感じが、どうしてもしてしまう。
だが、その中身である俺は、それをなるべく感じさせないように、気を使って話した。
しかし、アランは俺を疑ったような目で、怯えて見ている。
あれ……? おかしいなぁ。
「う、嘘だッ!!! ジャスティス、君はそんなことを言って、また僕を騙す気なんだろう!?」
「は……? いや、そんなつもりはないが……」
またって、どういうことだ……?
過去に俺は、っていうかジャスティスは……そういうことをしたのか?
でも、勇者だし、主人公だしなぁ……。
なにかの間違いか?
アランの一方的な思い込みとか。
それか、なにか事情があったのかも。
「ジャスティス、君はそう言って、僕にアイテムボックスを開かせて、荷物を根こそぎ奪い取る気なんだろう!? 君の考えそうなことだ! それで、僕を一文無しで追放しようってことなんだろう……!? わかってるんだからな! その手にはのらない!」
などと、アランは一方的な勘違いで、俺を糾弾し始めた。
えぇ…………?
これにはさすがの俺も、ドン引きです。
こいつ、なよなよしている上に、被害妄想にも取りつかれているなんて……。
いったい今まで、どんな悲惨な人生を送ってきたんだろうか。
まるで前世の俺みたいにネガティブな奴だなぁ。
まあ、今の俺は自分が勇者で、主人公であるという確信があるから、こうやって堂々と自信をもって話せるというのもあるけど。
「なあ、アラン。お願いだから落ち着いて聞いてくれよ。話し合おう?」
俺はそう言いながらアランに恐る恐る近づく。
まるで奈良公園の小鹿に近づくように。
「ち、近づくな! 力づくで奪おうったって、そうはいかないぞ! 僕だって、やるときはやるんだ……!」
「えぇ…………?」
まるで俺がなにか危ない殺人犯かのような怯えようだ。
俺はなにもするつもりはないのに……。
思い込みの激しい奴だなぁ。
「うおおおおおお! 僕は、負けないぞ! もう君のいいなりになんかならない!」
アランは、そう叫んで、勝手に盛り上がり始めた。
おいおいこいつ、大丈夫かよ?
まるで物語の主人公かってくらいに、熱くなっちゃってる……。
主人公は俺なのに……。
勘違いって怖いなぁ……。
「いや、マジで落ち着けって……」
俺はアランの肩に触れる。
すると。
「うわああああ! やめろやめろ! 僕を殺そうっていうのか!?」
「は……?」
ちょっと触っただけなのに、大げさな奴だな……。
「ジャスティス、君にはなにも渡さないぞ……!」
「いや、待て待て……暴れるな!」
俺はそう言って、アランをなんとか止めようとした。
このままだと、ヒートアップして何をしでかすかわからない。
アイテムボックスを開かないまま、逃げられでもしたら敵わないからな……。
俺は転生したばっかで、なにもわからないのだし、せめて今あるアイテムくらいは回収させてもらいたい。
「ジャスティス! 僕に触れるなああああああ!!!!」
「え…………?」
――グサ。
暴れるアランの手には、なにやら武器が握られていた。
小型の短剣だ。
それが、俺の腹に刺さった。
「え…………あ…………ジャスティス…………ちが…………僕は、そんなつもりじゃ…………」
刺した本人が、一番驚いていた。
震えながら、アランは短剣をその場に落として、逃げていった。
「あ、ちょっと……! 待ちなさい!」
マチルダが追いかけようとするも、アランはすごいスピードで逃げていった。
なにか逃げるようのスキルでもあるのだろうか。
そうでなければ、ありえないスピードだ。
逃げ足だけは速い奴だ。
まあ、荷物持ちとして行動を共にするには、敵から逃げるだけの速さがいるんだろうな。
そんなことを考えながら――。
「う…………」
俺は、刺された腹を手で押さえる。
「大丈夫!? ジャスティス……!」
聖女ユリシィが、俺に駆け寄る。
そして、ヒールをかけてくれた。
「あ、ありがとう。ユリシィ……」
肩を貸してくれて、俺を大事に大事に治療してくれるユリシィ。
まるで、天使みたいな子だなぁ……。
それに、胸も当たってる、というか押し付けているかのようにぐいぐい来る。
マジで、ユリシィたんマジ天使だ……。
「もう、ジャスティスったら……。アランに甘いですね……」
「え…………?」
「ジャスティスなら、アランの攻撃なんて簡単に防御できたはず……。それを、魔力をまとわないでアランに近づくなんて……ほんと、お人よしですね……。アランを怯えさせないように、無防備を貫くなんて……さすがは勇者です。そういうところがますます、好きになっちゃいます」
「えぇ…………?」
どうやら、本来の俺であれば、あの程度の攻撃はなんともないらしかった。
だが、俺は転生したばっかだし、魔力のまとい方とか全然わからない。
まあ、好意的に受け取ってもらえたなら、それでいっか……。
「もう、アランったら最低ね。ジャスティスがあれだけ優しく譲歩しているっていうのに……。今度会ったらただじゃおかない……!」
と、マチルダも俺の味方をしてくれる。
なんだ、いいパーティーじゃないか。
俺は、転生してどうなるかと思っていたけど……。
この仲間となら楽しくやっていけそうだ。
それに、役立たずの荷物持ちは追放――っていうか逃げたし……。
「あ、アイテムボックス結局そのままじゃねぇか……」
これで俺たちは、アランにまんまと持ち逃げされた訳だ。
はぁ……それだけは、不幸な出だしだなぁ。
「まあ、仕方がないです。また集め直せばいいんですよ。ジャスティスなら、それができます」
と、ユリシィたんが慰めてくれる。
やっぱ、この子は天使だ。
「ああ、そうだな。これからもよろしくな!」
「はいです!」「こっちこそ!」
こうして、俺たちは三人でパーティーを再スタートさせた!
こっから、俺の転生冒険譚が始まるわけだな!
次回も、はっきし言って、おもしろかっこいいぜ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます