第25話 市木清田
私、市木清田は、マルセリーノさんとの長い会話を得ることができ、破壊と再生を行う事を決定をいたしました。
と言っても大した事はいたしません、と言おうと思っていたのですが、過去を捨て去る事、それは簡単なようで、とても難しい問題になりました。
嫌な過去を全て捨て去る事、分かっていても眠れない夜や、朝起きた時から始まる現実を目の当たりにすると、急に襲いかかって来る嫌な経験が私から生きる努力を奪おうとします。
なので、現実の生活にしがみついていた今の会社も辞めることにしました。
美咲との出会いを作ってくれた会社です。
良い思い出ばかりじゃなかったけど、悪い思い出ばかりでもなかったなと実感しております。
良い人は少なかったように思いますが、会社と言うシステムの中でなかったら、そんなに悪い人ばかりでもなかったのではないかと、今は思っています。
経営の為の戦争は、社外で繰り広げられているだけでなく、社内でも存分に争われていたのではないかと思います。
自由に。
全てを捨て去って、自由に。
出来そうで出来そうにない生き方。
だから決めた事は、まず最初に、嫌な思いをさせられてまで残る必要は無いと判断した会社を辞めます。
嫌な思いをさせられて?
違います。
嫌な思いを作ったのは、選んだのは、私なのでしょう。
どれもこれも私自身なのですから。
会社を辞める事を話した時も後も、美咲は、何故か?とても喜んでくれています。
不思議です。
妻は、将来の不安などないのでしょうか?
私はと言えば、将来の不安ではなく、しがみついていた現実を手放すことが出来て人間らしいといえば良いのでしょうか? 当たっているようで適切ではない言葉のように思えます。
そう、たとへば、生命の尊厳、しっくり来そうな言葉ですが、大袈裟なようにも思えます。
兎に角、人生の休息を選んだ今、次の仕事も探さなければなりません。
マルセリーノさんは、好きな事に挑戦してみろ、と言ってくれています。
ある日、突然やってきて、生きるとはどういう事か? 愛情の答えは何処にあるのか? そんな事を話してくれたマルセリーノさんの気持ちには揺るぎない精神? いえ、何か次元の違う答えを知っているのではないかとさえ思わされる時があります。
多分、マルセリーノさんにそんな事を話したら、お前の心の中にも精神や答えがあって、それに気付かんどころか見ようとして来ぇへんかっただけやろ、などと言われそうです。
やっぱり、マルセリーノさんは、また星に帰ってしまうのでしょう。でも、誰の?どんな願い?のために私の所へ来てくださったのでしょうか?
いえ、分かります。
でも具体的な内容は分かりません。
いえ、分からなくても良いものなのでしょう。
愛情を信じているなら、言葉で作られた願いの内容よりも、その言葉を作った心を信じるべきなのでしょう。
美咲ちゃん、ありがとう。
そして、マルセリーノさん、今夜も飲みましょう。
せめて、あなたが星へ帰ってしまうまでの間だけでも。
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