第19話 宇宙統合エネルギー
「行って来まーす」
と言って清田が家を出ると、子供たち二人を順に学校へと玄関で見送り、そして家事を済ませて美咲がコーヒーを淹れる。隣にはマルセリーノが居る。
「あいつ、最近、笑顔で出ていきよるやろ? あいつ、今は、それで精一杯やねん。分かったってや」
「うん、分かってるよ。マルちゃん、いつもありがとうね」
「ええねん、ええねん、気にせんといてや」
などと、大事なようで、そうでも無いような会話が日課になっている1人と1匹の会話である。美咲は、清田とマルセリーノがどのような会話をしているのか探ろうとしないどころか、マルセリーノに任せきりである。これはマルセリーノを信用しているからでもあるが、清田への優しさでもある。
然し、マルセリーノから言葉を発する時もある。その言葉が清田の事に関わっているのか、そうで無いのかは美咲には分からない事も多い。ただ、じっとマルセリーノの言葉に耳を傾けている。
「なぁ、嫌な思いってあるやん? この仕事が嫌やとか、あの人が嫌いやとか」
「そうね、あるよね」
「突然で申し訳ないねんけど、嫌な思いって頭で解決しよう思ても、どうしようもないもんやと思わへん?」
「そうだね、マルちゃんの言ってること分かるよ」
「美咲ちゃん、さすがやな。ワイらは、これこそを心理って呼んでるんやけど、嫌ってな、心で引き離す必要のあるもんやねんな。嫌な気持ちをどうしたらええのんか考えるんやなくて引き離さなあかんねんな」
「それって、無くす、って言うこと?」
マルセリーノは軽く頷くと、更に話を続ける。
「うーん、ちょっとちゃうねんなぁ。嫌な思いって、多分、無くならへんもんやって思うねんな。せやし、心から切り離してしまう? 心からどっかへ飛ばしてしまう? まぁ、そんな感じかな。それは結局はな、心から無くなる事になるんやけど、いきなり無くせ! 言うても分からんやろ? せやし、切り離す、とか、飛ばす、とかいう言い方が丁度ええと思うねんけどな。まぁ、言うたら無くす準備みたいなもんかな。でやな、準備も終わって、やっと無くなったら? ほんならな、別のもんが帰ってくるねん。ワイらは、これを全宇宙の統合エネルギーやって仮説を立ててるんやけど、この国で言うたら光明みたいな感じかな? まぁそんなもんが帰ってくるねんな。話はちょっとズレるけど、ワイの友達で宇宙哲学の教授が言うてるねんけど、闇は闇を食う無形のものの餌になり闇と共に生きる事になる、ってな。まぁそれがどこまで正しいんかはワイは凡人やから分からへんらしいねんけど。で、話を元に戻すとやな全宇宙の統合エネルギーの存在はもう少しで立証できそうやねんな。で、この統合エネルギーはな、生命の成長を促すことができるねん。これは分かってることやねんけど立証する方程式は現在も研究段階のままや。で、ワイが言いたい事やねんけどな、生命が一段階成長するとな、例えば嫌な仕事が嫌で無くなる方法が見つかるねん。嫌や嫌やって思てた時と違ってな、何んやこんなええところもあるやん、って思えるようになるねんな。でもそれと同時に、また別の嫌な物も見つけてしまうねんな。そしたらまた、思いを飛ばす必要があるねん。で最後に行き着くところは二つの安定のどちらかや。安心してその仕事を続けれる事実を掴むんか、自分はこのために生まれたんやないから別の仕事をするべきやって平常心で気持ちよく迎えられるか、やねんな。まぁ、これは人と人との関わり合いにも言える事やねんけどな」
「マルちゃんの言ってる事は分かるよ。でも実際にやろう、となると難しそうだね」
「うん、せやねん。せやしな、あいつ今、その段階で必死になっとんねんな。で、現実を受け入れるどころか逆走してもうて家族にも愛されてるんかよう分からんようになってもうとんねんな」
「ありがとう、マルちゃん」
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