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質問を挟みながら、会話は続いていく。きょうだいや従妹について話す慎一は幸せそうだったし、彼らのことを知ることができて、ジンも嬉しくなった。
魔界について慎一が尋ねてきた。答えられる範囲で話す。様々な種類の魔物たちが行き交う賑やかで大きな街、めぐる季節に折々の楽しみ。壮麗な宮殿に王子としての務め、優しい使用人たちそして家族――。家族のことを考えるとき、ジンの胸は痛んだ。
けれども慎一は聞き上手で、人があまり話したがらないことはよくわかっていて、そこに不作法に足を踏み入れたりしない。ジンはいつの間にか、よい気持ちで魔界のことを語っている自分に気づいた。
二人の間に和やかな空気が流れる。
ほんの少し、雲が薄くなったような気がした。風が、これもまたほんの少し和らいでいる。話が途切れ、ジンは思い切って、言った。
「あのさ、他の四人のことなんだけど」
「そうだよ。それ! うっかり別の話に夢中になってたけど……みんなどこにいるんだよ」
「あの……閉じ込められてるんだ」
「閉じ込められてる?」
慎一が驚いた顔をする。ジンが慌てて、
「あ、でも、大したことない……たぶん大したことないんだ。ほら、海がさ、泳ぐに相応しい感じじゃないだろ。天気があまりよくなくて」
「まあ、そうだな」
浜辺に目をやり、慎一が言った。
「もう少し、楽しい海になるといいんだ。そうしたらみんなやってくる」
「でも……どうやって?」
「ここは慎一、君の夢なんだよ」
明るく、元気づけるようにジンが言った。「だから、君が望めば変えることができる!」
「望めばと言われても……」
「手を出して」
ジンに言われ、慎一は素直に手を差し出した。その手に、ジンが触れる。
「明るい海を想像するんだ。太陽が照って、砂浜が暑くて、人々の笑い声が聞こえて、空が青くて海も青くて……」
小さな、柔らかな光がつないだ手から溢れてくる。それは次第に、二人を呑み込むように大きくなっていった。
――――
「ああーもうおしまいだよー」
そう言って耕太が机につっぷさんばかりに嘆いた。
女性に言われるがままに、トランプで遊ぶことになったのだ。大富豪をやる。何度かやったが、耕太はとてもよく負けるのだ。今回も最下位だ。
「僕は一生、底辺から上がることはできないんだよ……」暗い目で耕太は言った。「現実でもきっとそうなんだよ……。大貧民のまま、一生貧しい、日の当たることのない、辛い生活をすることになるんだよ!」
「これはゲームよ」
平民の芽衣が冷静に言った。
「そう。ただのゲーム」
貧民の翔が続けた。「俺たちはちょっとゲームが不得意なだけ」
富豪の祐希は何も言わず、大富豪の女性はころころ笑った。
「あなたって、かわいいわね」
「……。でも家の中で飼ってはくれないんでしょ?」
「やきもちやいてるの!? かわいい! そうね、室内にいれてあげないこともないわ」
いや、別にお屋敷とやらの中に入りたいわけじゃないんだけどさ、と耕太は思い口をとがらせた。
「……もう十分にゲームも楽しんだし、そろそろここから出たいな」
祐希がぽつりと言った。女性が少し目を細め、冷ややかに祐希を見た。
「どうやるの? 出口はないのよ」
「出口はないけど……さっきから、気になってることがある」
「何?」
女性が片方の頬でわずかに笑う。祐希が椅子から立ち上がって、女性に手をのばした。
「そのネックレスだよ」
そう言って、祐希はネックレスに手をかけ、ひっぱった。不思議なことに、もろくもネックレスが崩れる。女性が悲鳴を上げる。
と、悲鳴とともに、大きな音がした。窓ガラスにひびが入り、そこから水が、押し寄せてきたのだ。驚きのあまり耕太たちも大きな声を出してしまう。
たちまち周囲が水に囲まれた。溺れてしまう、とあまり泳げない耕太は思ったが、すぐに、水中でも息ができることに気づいた。身体は浮いている。けれども呼吸はできる。パニックにならなくてもよさそうだ。
濡れている感じもしないので、ひょっとすると水ではないのかもしれない。耕太は懸命に手足を動かした。兄弟と、芽衣の姿が見える。女性の姿は消えていた。
「みんな!」
聞きなれた声がした。振り返るとそこにいたのは慎一だった。耕太は慎一のほうへ、もがきながら進んだ。
「慎一兄さん!」
「みんな大丈夫か!? ジンから、閉じ込められてると聞いて……」
しっかり者の、長兄の声だった。慎一の周りに全員が集まる。慎一のそばにはジンもいる。
「大丈夫だよ」
ほっとして、耕太は笑った。
「一体何があったんだ」
尋ねる慎一に芽衣がそっけなく言った。
「美人と遊んでたの」
「美人?」
「そう。性格のめちゃくちゃ悪い美人」
慎一がよくわからない、というような顔をしている。
「……ともかく……いったんは帰ろうか」
慎一は申し訳なさそうな顔で言った。「海につれて行けなくてごめんな。これは俺の夢なんだよな。俺が、海に行きたい気持ちに、今一つなれなくて、それでこんな変なことになったんだと思う……」
「いいのよ、別に。美人と遊ぶのも楽しかったから」
芽衣があっさりと言った。
「じゃあ、帰ることで決まりだな」
ジンが宣言した。
――――
無事、元の世界に帰還となった。慎一は疲れたので少し横になると言って離れへ行った。座敷には他の五人が残る。
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