第29話血統魔法
「ま、魔法……ですか?」
よくよく考えてみたら、オレがこっちの世界にくるようになってしばらく経つけど魔法らしきものにお目にかかったことはまだ1度もない。
魔道具を取り扱ってる店はあったけど、値段も凄かったしお試しで使ってみていいか聞くのも怖いレベルだったから触ってもいない。
でも、そうかー魔法かー。
異世界に来た以上、憧れるのはやっぱり魔法だよね。
なのにオレもサエちゃんも魔法は使えない。というより、使えるのかどうか分からないというのが正しいのかもしれないけどね。
「タケシさんサエさんは、魔法はご存知ないのですか?」
「話や本で見聞きしたことくらいしかないですね」
「あとアニメね」
アニメは通じないだろうサエちゃんよ。
「そうでしたか。この国では、大きく分けて2種類の魔法があるのですが……」
エリシャさんの説明によると、主に王家や貴族の間に伝わる門外不出の血統魔法。その他に、冒険者や騎士、魔道士たちが使う属性魔法というものがあるんだそうだ。
魔法を使うには魔力が必要でうんぬんっていう話は長くなるから割愛するけれど、ゲームやラノベでよくある魔法と大差はないっぽい。
血統魔法は、属性魔法では説明することが出来ない特殊な魔法。
たとえ貴族であろうと、他家の魔法の秘密を盗もうとしただけで取り潰しになるくらいの重罪なんだそう。怖いね!
「まあそんなに緊張することもないさ。それに贈り物とエリシャは言ったが、用意したのはきみたちのほうだからね」
アルフォンスさんが視線を動かした先にあるのは――ドラゴンとフェニックスの氷像か。
片付けが進む中、最後まで残されていたから不思議には思っていたんだ。
「あの見事な彫刻を、このまま失ってしまうのは実にもったいないと思ってね」
「私もです。なので、なんとか残すことができないかお父様に相談させていただいたところ、魔法で解決するのが良いだろうということになりましたの」
「は、はあ?」
「店長であるタケシさんには父が。それと……ポーシャさん」
「ひゃ、ひゃい?」
「あなたも、もうすぐ私と同じく成人を迎えると聞いています。なのでこれは、私からあなたへのプレゼントですね」
アルフォンスさんがドラゴンに。そしてエリシャさんがフェニックスにそれぞれ両手を翳して呪文を唱え始める。
すると、氷像が内側から輝き始めた。
ドラゴンは幾色もの光が体内で激しく渦を作り駆け巡る。
フェニックスは、深い深い青……それでいて澄んでいて一点の濁りもない光がその体内を満たしていった。
やがてその光が消えた時。
「「「え、ええええ!?」」」
水晶のように透き通ったドラゴンと、碧いフェニックスがそれぞれの翼を広げながら、産声をあげた。
「驚いたかね? これがオルシャー家の血統魔法。受魂魔法だ。人型や生き物の像で、血が通っているように見えるほど素晴らしい出来のものに魂を与える魔法だよ」
アルフォンスさんがそんなことを言っているけど、オレたち3人はしばしのあいだ揃って口をあんぐり開けてマヌケな顔を晒していたのでした。
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