第18話 フォーカス様のお願い

「それがシンの馬か。」


フォーカス様が僕の側に佇む風雅を眺めて言った。


「はい。フーガです。僕の国の言葉では、気高く美しいという意味です。」


「…フーガか。良い名前だ。シンとも波長が合うようだ。お前をよく守ってくれるだろう。」


フォーカス様は少し不思議なことを言ったけれど、確かに風雅は一目見た時から僕と仲良くなったから、相性はバッチリだろうな。

僕が嬉しくなって風雅を撫でてるとフォーカス様が話し出した。




「ひとつシンにやってみてもらいたい事がある。


シンの射る矢には、この世界では無い魔法が感じられるのだ。

シンは意識してないと思うが、その魔法の力をもっと強める事が出来るか試してみよ。」



僕が弓引く矢に魔法が?僕はびっくりして持っていた矢を見つめた。


「もちろん今持っている矢は普通のものだ。思うにシンが弓引くその動きというか儀式めいた所作に力が籠るのではないか?」


そう言われて、僕は思い当たるフシがあった。



「僕の国では矢には魔を祓う力があるとされていました。…我が国が戦っている夜の国は、確か魔の力が強かったのではないですか?」


「そうだ。夜の国では魔神を信仰してるので、勢いその手の力が強くなかなかに手強い。

もしシンの矢が発する魔法が、それに相対する魔法なら戦況にも影響があるかもしれん。やってみる価値はある。」



僕は自分の矢にフォーカス様の言う力が有るとは感じなかったが、ここは別世界。

フォーカス様が言うなら試してみる価値はあるかも知れないと思ったんだ。


僕は弓の弦をはじき鳴らした音で魔を祓う昔からの方法を思い出した。鳴弦(めいげん)の儀式だ。


子供の頃に面白がってよくやっていたんだ。母方の実家が神社で、僕もよく駆り出されて弓を弾いたり、的に射ったりと手伝っていた。


神社での儀式のように弦を弾いてから念を込めて矢を射掛けたらどうだろう。



僕は急にやってみたくて堪らなくなった。もしそれで効果があったら、僕もこの世界に飛ばされた甲斐があるってものだ。


フォーカス様は自分の側に居ろと仰ってくださったけれど、ここは戦場だから…。

戦場を離れたら、僕がフォーカス様のお側に仕える理由は無くなってしまうのでは?


僕はどこかで自分がこの世界にいる事の意味、飛ばされた理由を無意識に探していたのかもしれない。



「フォーカス様、僕、やってみます。」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る