第6話 シンとの出会い
突然私の目の前に現れ出た人間に見えるソレは、酷く怯えてる様に見えた。
私が少しでも動いたら走って逃げ出してしまう気がして、私は身動きせずにその人間を見つめた。
まだ幼さの残る、たぶん服装から言って男だろうソレもまた、私を驚きの眼差しで見つめた。
「…誰?」
少し掠れた耳に心地よい高めの声が私に届いた。
「ふむ、こちらも問おう、お前は誰だ。なぜここにいる。」
ソレはキョロキョロと辺りを見回して焦ったように呟いた。
「…ここって、日本、じゃないですよね…。え、どうゆうこと?」
ソレは困惑というより恐怖を感じたように顔を青ざめさせて私の方をもう一度見た。
真っ直ぐ見つめてくるその瞳はこの国では見られない黒々としたもので、その珍しい肌の色と合わさって非常に麗しい顔立ちに思われた。
私は、まだ14、5に思われるソレが動揺している様が、何とも哀れに思えた。
「まだ子供とみえる。先程の現れ方といい、その珍しい姿といい、調べて見ない事には始まらないだろう。
言葉が分かるのならまずは落ち着いて話を聞こう。こちらで茶を飲みなさい。」
私が召使いに茶を持って来させると、私は手ずから二つのカップに茶を注いで好きな方を選ばせた。
先に私が飲むとこちらを警戒しながらも、安心した様に茶を飲んだ。
その茶を飲む一連の動作が美しくて、私は思わず聞いていた。
「お前はどこか地位のある者か?随分洗練された物腰だ。」
「…いえ、僕の国では特に階級はありませんでした。ただ、僕の家は弓を扱う特殊な家でしたので、動きも多少関係するかもしれません。」
私はソレが男で、家名がタチバナ、名はシンである事、この世界に文字通り飛ばされてきた可能性がある事、18になる事などを聞き取った。
何処にも行く当てがなく、どうしたらいいか分からないとの事だった。
私はこの男の貴族の中に居ても遜色のない振る舞い、教養のある青年を野に放つなど考えていなかったし、私にしては執着を感じて側に置いておきたいと思った。
「…お前は弓を射ると先程言った。一度射ってみせなさい。」
私たちは鍛錬場に移動すると護衛に準備をさせた。護衛達は騒めきながらも私たちを見守った。
「僕はもっと長いものを使っていましたので、勝手が違いますが、やってみます。」
シンはそう言うと、ゆっくりと背筋を伸ばして何か儀式の様に美しい残像が残る様な動きで矢を放った。
聞いたことのない鋭い音と共に、的には僅かに逸れたものの奥の木の幹には強く矢が刺さっていた。
護衛達のどよめきの中で、シンはこちらを省みることなく次々と矢を放った。
次第にその矢は的に当たりだし、最後には的の中心を貫いた。
見守ったもの達が騒ぎ立て手を叩いて称賛したせいか、我に返ったシンはじんわりと汗を滲ませながら、顔を赤くして困った顔で立ちすくんだ。
私はしばらく声が出せなかった。シンの矢を射る姿の残像が瞼の裏に感じられた。
あの矢にはこの世界では見た事がない魔法の様なものが感じられたからだ。
「シン、お前を私の従者にしよう。慣れたら従騎士に引き立てよう。」
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