第2話 私の従騎士、シン
少し緊張した顔でこちらを見るシンは、いつ見ても私を惹きつける。
ここでは珍しい真っ直ぐな艶のある美しい黒髪を頬で切り揃え、表情の見えない黒い瞳が何かを言いたげに、あるいは何も言わずにこちらを見つめる。
歳の頃は15、6に見えるが、本人曰くは18だと言う。18であればここではもう少し雄々しくなっていてもおかしくないが、シンの国では華奢な身体が多いのだとか。シンは華奢と言うよりは、しなやかな若木のそれだ。程よくついた筋肉はなぜか美しく感じる。
肌の色が至高の宝、海で滅多に見つからないという真珠色のせいだろうか。私はシンのなめらかな肌の触り心地を思い出した。今までに触ったことのないあの感触。女人でもあの肌には負けるだろう。
下僕が持ってきた食事を、シンが毒味して用意している様子を眺めていた私は、無意識に頬が緩んでいたようだ。シンはこちらを見ると口元を僅かに持ち上げて言った。
「フォーカス様ご用意が出来ました。どうぞ召し上がり下さい。」
「ああ、シンも一緒に食べなさい。」
シンは私の顔を一瞬じっと見た後、ほのかに笑って礼を言って食べ始めた。
私はシンの食べる姿を見るのが好きだ。シンは所作が美しい。
立ち振る舞いもそうだが、食べる時の美しさは下手すると王族より美しいかもしれない。指先の使い方、小さめの口にどんどん入っていく食べ物。
時々指先を赤い舌でペロリと舐める様が妙に刺激的で、私はいつも美しさに癒されながら、一方で身体の奥の熱が上がっていくのを感じる。私は食事を味わう所ではなくなって、妙に気がはやる落ち着きのない心持ちになっていた。
シンと食事をするとこうなるのが、最近の悩みではある。
ふと周囲を見ると、誰もがシンを気にしているのがわかる。興味、好奇心、羨望、欲望。シンにまとわりつく多くの色はシンを緊張させるのだろうな。
私がシンを心配気に見ていたのが分かったのか、シンはふわりと微笑むと指でサインを出した。他の者には分からぬように親指を立てて、大丈夫のサイン。これもシンから教えられたものだ。
シンが出来ること、知ってる事が明らかになったら、私の側にはいられないだろう。それこそ王族に囲われるのは必至だ。
シンがそれを望まないのだから、私はこれからも彼を側に置くつもりだ。
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