十字路の交点にて空を見る

池田春哉

プロローグ

 白いスニーカーの爪先とその少し先を見ながら歩く。

 通い始めて三年目になる登校路はいつも通り平坦で灰色で何もない。整えられた真っ直ぐな道を一歩ずつ進んでいく。

 しばらく歩くと、道路に『止まれ』の白文字が現れた。僕はその『ま』の文字を同じ色の足で踏みつける。

 白く盛り上がる地面の感触が足裏を通して伝わってくる。


 ――おはよう。

 

 頭上からの声に、はっと僕は顔を上げた。

 しかしその先には誰もいない。見慣れたいつもの狭い十字路があるだけ。

 ……当たり前だ。

 ゆっくりと視線を地面に戻して、あえて大きくため息を吐く。

 そんな声聞こえるわけないのに。

 彼女はもうここにはいないのに。

 未練がましい自分に呆れながらも「まあそうだよな」と開き直るような気持ちにもなる。

 だって、できるわけないんだ。

 あんなに天気のいい日々を忘れるなんてさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る