08
***
しばらくそんな生活が続いたある日のこと。
「奈津、すまないが一月ほど家を空けるよ。神戸に来る外国商人とようやく会える目途がついたんだ。大きな商談になると思う」
「わかりました。いってらっしゃいませ」
成臣を笑顔で送り出し自分もいつも通り学校へ通う。学校では勉学の傍ら小夜たち同級生と談笑し、いつもと変わらない時間に帰宅し食事を取る。夜着に着替えて寝室へ行くことだって、普段と何ら変わらない。それなのに、ベッドに潜り込むとひどく背中が凍えた。
「寒い」
奈津はいつも以上に身を縮こまらせてシーツを手繰り寄せる。いつもは背中越しに成臣がいる。触れなくとも、その気配や温度は知らず知らずのうちに奈津に安心感を与えていた。
「成臣さん」
呼んでみるも当然返事はない。
一人の夜はこんなにも冷たいものかと奈津はひしひしと肌で感じたのだった。
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