06
成臣の仕事に着いていくようになると学校で勉強する以外の社会のことがたくさん見えてきて、奈津は楽しくて仕方がなくなった。奈津の貪欲に学ぶ姿勢は見習うべきものがあり、他の従業員にも良い刺激を与える。成臣にもらった万年筆と雑記帳を携え、逐一書き記す姿は見ていていじらしくなるほどだ。
「うわぁ、すごく綺麗」
テーブルに並べられた品物の中で、ひときわ目につくもの。細かな細工が施され、宝石が付いている指輪があった。
「奈津、手を出してごらん」
「はい」
成臣に言われるまま手のひらを上にして差し出すと、その手を反転させられる。
成臣の大きく節張った男らしい手に触られて、奈津は一気に体温が上昇するのがわかった。
「あ、あの」
「巷では結婚指輪が大流行しているらしい」
「はい」
「これは俺から奈津への贈り物だ」
スルスルと指にはまっていく指輪をスローモーションのように見ながら、奈津は胸のときめきが抑えられなくなってくる。薬指に嵌められた指輪は、細かな細工と装飾が相まってまるで夜空の星のようにキラキラと輝いていた。
「気に入ってくれるといいが」
「はい、もちろんです。とっても嬉しいです。ありがとうございます。流行するのがわかる気がします。これはもうどんどん宣伝すべきかと……」
真っ赤な顔で訴える奈津に、成臣はクスクスと笑い出す。
「な、何か変なことを言いましたか?」
「いや。奈津は本当に向上心があるね。教師よりも商人に向いているよ」
「そうでしょうか?」
「うん、そういうところが俺は気に入っている」
「気に入って……え?」
「好きだという意味だ」
「ひゃっ」
顔がボンっと音を立てたかのように、奈津は口をパクパクさせて驚く。そんな初心な仕草に成臣はまたクックと笑いながら奈津の頭を優しくポンポンと撫でた。
「期待しているよ、奈津」
「……はい」
何に対して期待されているのか、よくわからないまま奈津は小さく返事をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます