1-9

 次の日の朝、階段教室での社会学の講義で会った時には、ふたりとも、普段と変わらず、おはようを交わしたが、私はVサインを送った。でも、会った時の感じが、今までよりも、もっと近くなったのを感じていた。


 今夜は、お店が休みなので、皆で外食しようとおじさんが言っていた。私は部活があるので、帰りは8時になる。お姉ちゃんも、それぐらいかなって、8時からってなった。7時半頃家に着いたら


「もう、私達はお風呂済ませたんだけど、絢ちゃんも入る?」


「うーん ちょっと、せわしいので後にします。シャワー学校でしてきましたし」


「そう 澄香も、もう帰って来ると思うし、着替えたら、リボン結んであげるね」


 着替えなさいってことだよね。私は、ローズピンクのフレァーワンピースに襟元には、お母さんからもらったアメジストのネックレスをした。行くのは、歩いて10分足らずの所にある『やましん』のステーキハウスなんだけど。着替え終えて、下に降りて行ったら


「なんて、可愛いらしいのかしら こっちに来て リボンはえんじ色でいいかしら 澄香のものなんだけどね。あとで、写真撮りましょ」と、言って髪の毛に結んでくれた。


「そうだ絢 うちの宣伝ポスターに出てくれないか 今は澄香がモデルしちょるが、割と人気あってな 絢と二人で出ていると、もっと話題集めて、テレビ局も来るわいな もっとも、澄香は先生になったから、もう、駄目かも知れんが」


「私、そういうの、駄目なんです。恥ずかしいから」

 

 澄香お姉ちゃんは、少し遅れるらしくって、3人で先にお店にいった。お店は古くからあるお肉屋さんの隣に白壁造りで建てられていて、中に入って行くと、テーブル席が幾つもあって、3組の夫婦らしき客が居て、壁側の通路を通って行くと奥には、鉄板の周りに10席ほど円形に配置されていた。その真ん中あたりに座ったら、男性のウェイターさんが飲み物を伺いに来た。


「わし等はビンのビールがいい、グラス2つ、絢はどうする?」


「私、お水がいいです」


「そうか、じゃー ぶどうのジュースでも持ってきてくれ」


 コックさんがお肉の塊が入った竹ザルのお皿を見せて「これになります。土佐のあかうしで」と言ってきた。


「おう、いいぞ その前に鮑を頼む」


「申し訳ございません。今日は大きいのがなかったので入れておりません。とこぶしなら大きいのがございますが」


「それは、味がもうひとつでなぁ。じゃー 帆立と車海老あるか?」


「はい、知床の帆立と車海老は対馬の天然物がございます」


 おじさんは、やり取りした後、私に


「この男は『やましん』の社長が東京のホテルから引っ張ってきたんだ。腕は良いし、客の身になって、よく考えてくれちょるから・・、重友君だ。わしは、いつも指名するんだ」


 その時、黒のダブルのスーツ姿の人が寄ってきて、おじさんとおばさんに挨拶してきた。


「いつも、ご贔屓にありがとうございます。奥様もいつもお元気そうでいいですね。こちらのお美しいお嬢様は初めてでございますよね」


「あぁー 社長 これは、わしの下の娘だよ 4月に生まれたんだ」


「えぇー そうなんですか オーナーの永田でございます。お嬢様はこちらのご出身でございますか」


「社長もしつこいな わしの娘だから、ここの出身にきまっちょるよ」


「遅れて、すみませーん。ごめんなさいね」と、その時、澄香お姉ちゃんが入ってきた。


「おぉー こんな美しいお嬢様お二人もお持ちなんて、うらやましいですな。どうぞ、ごゆっくりしてください。私は、ここで失礼いたします」とオーナーは笑顔で去って行った。

お姉ちゃんが席に着くと、コックさんが話しかけていた。


「いらっしゃいませ 髪の毛を短くなさったのですね そちらも素敵です」


「ありがとうございます うれしいわ この前はお世話になりました」


「おいおい 君達は知り合いなのか」とおじさんが少し慌てていた。


「そんなことじゃあ無くてょ ただ、卒業前にお友達と食事に来ただけよ その子、卒業旅行に一緒に行けなかったから、記念にと思って、その時、重友さんにお世話になったの」

「あっ そうだ この前、一緒だった璃々ちゃんが、とてもおいしくて、楽しかったので、いい想い出になりましたと、重友さんにお会いしたらお礼言っておいてと言われてたのよー あの子、島の先生になると言って志願して行っちゃったけど」


 コックさんは、黙ったまま、うれしそうに頭を下げていた。

 

「そうなんか わしはいろいろと考えてしまった すまんのー」とおじさんは、ひとり、ぶつぶつ言っていた。

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