二十七、オーガキング

 オーガキングは俺を掴もうと腕を伸ばしてくる。それに対して俺は、ギリギリで攻撃を躱しながら剣で斬りつける。


 俺は一撃で斬り落とせると思っていたのだが、切り傷を与えるまでしかできなかった。


「硬いな~、いくらオーガキングだと言っても、これは少し硬すぎるぞ!」


 低下の魔眼で能力を下げているのにこの硬さ、もし低下の魔眼を使っていなければ俺のこの剣は通らずに弾かれていたかもしれない。


「流石に武器強化を使っているとは言え、最低ランクの剣だな。このクラスのモンスターを相手にするとなると力不足か」


 いくら俺がAランク冒険者と言っても元はただの荷物持ち。そんな俺にまともな武器が与えられるわけがない。最低限自分の身を守れる程度の武器すら与えられてなかったのだ。それでも、当分の間は武器強化のスキルを使ってやっていけると思っていたが、まさかこんなタイミングで低ランクの武器の限界を思い知らされるとは思わなかった。


「まあ今はこいつで叩くしかないんだけどな」


 覚悟を決める。それに、攻撃自体が通らないわけではない。今もそうだが、ダメージを受けてオーガキングが唸っている。これを続けていれば倒せるがそれでは時間がかかりすぎる。かと言って魔法を使うにも後使えるのは三回程、それもファイアーボールなどの消費魔力の少ない魔法に限っての話になる。もしも、一撃の威力がデカイ魔法を使おうとするなら、ギリギリ発動できるか、発動せずに魔力を無駄にして終わるかのどちらかになるだろう。


 俺はオーガの攻撃を躱しつつどうするかを考えていた。時間を掛けず、魔法を使わずに勝つ方法。一つだけ思い浮かんでいることがある。ただしこれは賭けになる。もし失敗した場合俺はかなりのダメージを受けるか、一撃で死ぬかのどっちかだろう。まあ、どちらにしろ、戦闘復帰は無理だろうがな。


「やるだけの事をやってみるしかないよな」


 戦う前に持っていたワクワク感は今はない。正直今の自分の状況でよくワクワクなんて出来たなと少し前の自分に感心してしまう。


「初めて試すことだけど、この戦いの間だけでいいから耐えてくれよ」


 俺は武器強化のスキルをもう一度武器に掛ける。ただし、強化時間を延ばすためでなく重ね掛けとして。これにより武器の攻撃力は大幅にアップする。そしてもう一つ、属性付与エンチャントを使い火属性、それに重ね掛けで雷属性の計二属性を付与。今までにこんなスキルの使い方をしたなどと言う話は聞いたことがないため少し賭けになってしまったが、何とか成功した。


 ただ、


「この武器がこれに耐えられるのは十分ってところか」


 鑑定の魔眼で武器を見たときに残り時間が表示されたのだ。その時間で、オーガキングを倒して、他のモンスターを全滅させてこの戦いを終わらせないといけない。数は既に四分の三が倒されて残すところ二百五十体となっている。既に戦闘を開始してから一時間、皆にも疲れが見え始めていた。負傷者も出始めているため、これ以上戦闘の時間を延ばすことも出来ない。


 俺は、縮地のスキルを使いオーガキングの背後へと移動する。一瞬で移動したことで、オーガキングから見たら俺が消えたように見えただろう。スキルを持たないオーガキングが俺を見つけるのには数秒かかるだろう。そして、その数秒が命取りになる。


 武器強化を重ね掛けして、火と雷の属性を付与した剣でオーガキングの首目掛けて剣を一閃、跳ね飛ばして倒した。手ごたえとしてはここまでしても硬かったと言える。


 何とか武器も持ってくれてもう少しは戦える。そして、数も一気に減っていき後一歩と言うところまで来たところで、空の色が変わったことに気づく。真っ黒い雲が空を覆う。


「何が起きているの!」


 不安そうなアリスの声。他の冒険者も皆空を見ている。


「どういうことだ」


 真っ黒い雲によって空が覆われたと同時にモンスター達の攻撃が止まった。何が起きているかは分からないが今が絶好のチャンスであることも間違えではない。そしてそのチャンスを見逃すようなギルドマスターではない。


「今がチャンスだ! モンスターを全滅させろ!」


 ギルドマスターの掛声に合わせて冒険者達が次々にモンスターを倒して行く。そして最後のモンスターをアリスが倒したところで、俺達の町は救われたと、ここにいる冒険者全員が思った。俺以外の者達は、


「ウソだろう」


周囲を探る鑑定を常時発動していた俺はその異変にすぐに気づけた。だが、ありえない。なぜなら、俺が感じた反応はBランクのモンスターともAランクのモンスターと違う、それ以上の強さを持つモンスターの反応であった。今はまだ姿が見えていないが故に他の者達は気づいていないのだ。


「マイルさん終わりましたね」


 後ろに居たアリスが声を掛けてくるが、俺は返事を返すことが出来なかった。今はこの相手にどう対処すべきかと考えていた。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「凄いなあいつ。一人であれだけのモンスターに魔眼を使った上に、オーガキングを倒しちまったぜ!」


「そうですね。流石はあの子が選んだ候補ですね」


「でもよ! あいつの傍にはついていないみたいだぜ!」


「そのようですが、あの子は我々がこちら側に来ることをよしとはしていませんのでそれも当然かと」


「そうなのか。お前らにもいろいろな考えを持つ者がいるんだな」


 遠くからマイルたちの戦闘を見ていた者二人が何かを話している。


「でもよ、鑑定の魔眼と低下の魔眼ってあんなに凄いのかよ」


「ええ、一、二を争うほど強力な能力ですね」


「まじかよ。それに比べて俺の能力は平凡と言うか、何と言うかだな」


「ですがあなた様はその能力を百パーセント使いこなしています。ですからこそ、あそこまであの少年を追い込んでいるのですよ」


「そうだな。そしてこれが最後の仕上げとなるわけだ」


 今回のモンスター襲撃を仕組んだ黒幕であろうこの二人は一体何者なのだろうか?

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