二、過去
この世界に生まれた者は皆スキルを持っている。それがどのような物で、何個持っているかは人それぞれであるが、スキルを持って生まれるということに変わりはない。ただ一つの例外もなくと言われていた。俺が生まれるまでは。
この世界に生まれるとすぐに能力鑑定が行われる。その際に自分がどのようなスキルを持っているかを知るのだが、俺は鑑定でスキルなしと言われたそうだ。両親は鑑定をしてくれた神父に間違いではないかと、もう一度鑑定をしてもらったそうだが、それは間違えではなかった。その時両親は俺の将来を心配して泣いていたと聞いた。
それから五年が経ち俺は五歳に。年の近い友達も出来、毎日のように夕方まで遊んでいた。そのことを両親たちも喜んでくれていたのだが、それもあの日までだった。何処からかは知らないが、俺がスキルを持たないと言う話が広がっている。それを知った村の大人達は俺の事を「この世界の異物」や「化け物」などと言ってくる。友達だと思っていた者達からは石を投げられたり無視されたりと虐めを受けはじめた。
でもそんな中、俺の事を友達だと言って遊んでくれる者達も。それが、ケイル達三人である。俺を虐めてくる他の子ども達から守ってくれたり、毎日のように一緒に遊んでくれたりした。そしてその頃に、四人で冒険者パーティーを組んで強くなろうと約束をしたのだ。
そんな楽しい日々を過ごしていく中で、俺は十歳になりある夢を見た。普段と違う夢。その中は真っ白で何もない。そんな世界にある人物が現れた。きれいな女性で、今でもはっきりと覚えている。真っ白い長い髪に白い服、背には白く美しい翼を生やしていた。この世の者ではないと思うくらい美しい女性。
「君もとうとう十歳になったんだね」
女性は俺を見るなりそんなことを口にした。その言葉が俺は理解出来ずに頭を捻ると、
「そうだね。君は私の事を知らないよね」
また意味の分からないことを言ってくる。正直頭の処理が追い付かない。これはどう言う夢なのか俺は必至で頭を回転させる。
「少し自己紹介をしようかな。私はレーネ、あなた達人間が言うところの女神に当たる存在かな? でも緊張しなくていいからね」
そんなことを言われても困る。
女神と言えば、この世界を生み出した存在。生きる者全てを生み出し、世界のルールを作った者である。それが俺達人間が持つ女神様のイメージである。そんな者が夢の中とは言え、俺の目の前に現れた。スキルも持たない俺の前にだ。
「どうして女神様が俺なんかの元へ?」
「女神様なんてかしこまった呼び方はやめて、君は私の……なんだから」
大事な部分が聞き取れなかった。
「はあ~、やっぱりまだダメか~、そうだよね。でも今はそれでいいかな」
一人で理解しないで欲しい。
「どう言うことなんでしょうか? どうして俺は、このような場所にいるのでしょうか? スキルも持たないこんな俺なんかが」
「そうだね。君のスキルの事について話さないといけないね」
「俺のスキル、ですか?」
「ええ、そのためにここに君を呼んだんだからね」
俺のスキルとは一体何のことなんだろうか。
ただスキルを持たずに生まれてきた出来そないが俺だ。そんな俺に女神様が何を説明すると言うのだろうか。
「正確に言えば君はスキルを持っていないわけではないんだよ」
「……え?」
女神様の言葉が理解できないでいる俺。
「確かに君の住む世界にいる者が使う鑑定で、君の事を見ても何のスキルも表示されないでしょうね。でもね、本当は違うんだよ」
女神様はある物を俺に見せてくる。
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マイル=マイヤー 10歳 人族 LV1
スキルなし
右目:鑑定の魔眼 左目:低下の魔眼
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そこに表示されているのは俺のステータスである。確かにスキルは持っていない。だが、その下に聞いたことない物が書かれている。
「魔眼?」
スキルでない物、一体何なのかと思っていると、
「これが君の持っている能力なんだよ」
「能力ですか、ですが今まで何か変わったことが起こることはありませんでした」
「そうだね。今日までは魔眼がまだ君の体に馴染んでいなかった。だから何の能力も発言しなかったんだよね」
「では、これからは」
「君にも使えますよ。その魔眼の能力が」
魔眼の能力、右目の鑑定の魔眼は何となく分かる。対象のステータスを見る物だろう。だが、左目の低下の魔眼がよく分からない。一体何をする物なのだ?
「女神様、低下の魔眼とはどのような物なのですか?」
「そうだね。一つずつ説明しておこうかな」
女神様から両目の魔眼について説明を受けた。
右目の鑑定の魔眼は、その名の通りで相手のステータスを見ることが出来る、鑑定のスキルと同じ物であった。ただ少し違うのは、鑑定よりも出来る事が多い。まず相手のステータスを見る事が出来るのと同時に、そのスキルをコピーして自分の物にすることが出来る。正直これだけでかなりやばいことがわかる。
だが、それに加えて周囲を探ることが出来たり、相手の次の行動を詠んだりと様々なことが出来るとのこと、かなり強力な物であった。
そして俺が気になっていた左目の低下の魔眼。これは、対象の力を一時的に百分の一まで下げる事が出来ると言う物。それが人であろうとモンスターであろうと、攻撃であろうと関係ないそうだ。
俺はその説明を聞いて、あまりにも強力な能力だったために放心状態になってしまった。
「ただし一つだけ注意して欲しいことがあるんだよね。まあ、注意と言うよりもお願いかな」
真剣な目で俺を見てきた。それにより放心状態が解ける俺。
「この二つの能力、特に能力をコピー出来る事と左目の低下の魔眼の事について他言無用でお願いしたいだよね」
「どうしてですか? 確かにこの能力は強力ですが、それも他の皆が持っているスキルとさほど変わらないように思います」
「本当にそうかな? この世界にあるスキルは様々な形で取得できる。それこそ努力すればするだけね。でも、ごくまれに生まれたときにのみ得られるスキルが有るよね」
この世界に存在するスキルの殆どは努力次第でいくらでも取得することが出来る。だが、ごく一部のレアスキルと呼ばれているスキルに関しては、生まれたときにのみにしか得られないと言われている。
「まさかそのスキルも」
「その通り。右目にある鑑定の魔眼のコピーの能力を使えば取得可能なんだよ」
「確かにそうですね。そのことが知られてしまえば、俺を取り込もうとする者などが現れるでしょうね」
「それに左目の低下の魔眼も同様で、どんな力であろうと、百分の一まで落とすことが出来る。それが攻撃であろうともね」
全てを理解した。
「女神様の言いたいことは理解いたしました」
「そうか、じゃぁ」
「この能力については秘密にさせていただきます。ですが一つだけお願いがあります」
「何かな?」
「俺は友達と冒険者パーティーを組もうと約束をしております。ですので鑑定の魔眼のコピー以外の能力に関しては話してもいいでしょうか?」
「いいよ。それくらいならね」
優しい顔で答えてくれた。
「ありがとうございます」
俺は女神様に頭を下げる。
「また君に会える日を楽しみにしているね」
そこで俺は目を覚ましたのだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あの時の夢以降、俺の見ている世界は変わったんだよな」
と、宿で荷物を片付けながらつぶやく。
「鑑定の魔眼に低下の魔眼。この二つがあったからケイルにパーティーから追い出されても絶望せずにすんだんだろうな」
俺は、この三年間お世話にあった宿の部屋を見ながらつぶやく。いろいろな思い出のある部屋。少し名残惜しいが仕方がない。
俺は部屋へと一礼して宿を後にするのだった。
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