第11話 聖女様、世界の仕組みを知る

 あたしの願望はさておき、ミーニャの方はダブルブッキングにも挫けず、後からやってきた二人組と仕方なく手を組むことにした。要は分担作業である。

 ランクCの仕事は基本的にソロ向けではない。


 修行目的で選んだ依頼。

 ソロでどこまでやれるかと言う趣旨には反するが、人手が欲しかったのは事実だ。

 あたしはこの二人の実力を知っているが、今のミーニャは知らないもんな。

 でも、あの二人はあたしに出会わなかったらどの様な成長を遂げるのか気になるところもあった。


 なんせ男憎しで動いてるのだ。

 ファルがより狂犬のように前に出るスタイルを貫いてるなら危険なことになりそうである。

 なんせミーニャと言うアタッカーが欠けた状態で今のいままで来てるからだ。


 今回の依頼はモンスターの駆除。

 駆除なので街に影響が出なくなるまでなので際限がない。

 報酬は一律で変動なし。

 原因となるモンスターを駆除しない限り後金は受け取れない仕様だ。

 前金は金貨二枚。

 ランクDには結構な金額だが、内容に対して普通に割に合わない。主にかかる日数によって宿代だけで消えかねないからだ。


『それで、どうなさるんですの?』

「あの二人を情報集めだけに徹してもらうにゃ。流石にDに討伐まで任せられにゃいし」

『わたくし、ランクに疎いのですがそこまでランクで対応できるモンスターの脅威は変わりますの?』


 あたしの情報は古い。

 もといパーティ前提での情報だ。ソロやバディでの情報はない。

 ベルウッドくらい強かったら別だけど、あれは例外だからなぁ。そう言えば最近ベルウッドの顔見てないな。

 外に出ない限り出会えない人なんだろうか?

 ミリーも見てない。

 祝福は絶対あたしに回ってくるので見ない訳ないんだけど、もしやイカロスが裏で手を回して排除したか、既に仲間に加えたかだろうな。

 クトゥーラの影響が強く出過ぎて一時期悪影響を与え兼ねないって噂だし。


 とまあ話が脱線したな。情報を戻すぞ。

 問題点は一つ。

 バラバラになったこの三人で依頼の達成が可能かどうかである。肝腎要のヒーラーの不在。

 これがどう出るかが問題だ。

 

 ミーニャはなんとかソロで回る力を得たけど、あの二人に対してはまだ何も掴めていないのだ。

 


『それでなんとかなるのでしょうか?』

「なんとかするしかないにゃあ。でもアリーシャにゃんはあちしの勝利を信じてほしいにゃね。勝利の女神様にゃんから」


 それは照れる。ちょっと照れ照れしながら受け答えし、宿に戻る。二人組には事前に打ち合わせをし、仕事の分担を持ちかけた。


「貴女、あたし達を手足のように扱うつもり?」

「そうではないにゃ。これは役割分担にゃ。別にモンスターの駆除には参加しても良いニャンけど、大物はあちしが受け持つと言う話にゃ。其方二人でやるには苦労もすれば防具の維持費も馬鹿にならないと心配しての事にゃよ。誰だって命は惜しいにゃん。男憎しで動くのは良いけど、それにあちしを巻き込まないでほしいかにゃ」

「う……それは」

「こらファル。せっかくこちらの方が好条件を出してくれてるんだからありがたく受け取りましょう。普通だったらダブルブッキングなんてしようものなら追い出されておしまいよ? 買い足した食費も全部パーなんてザラなんだから。仕事くれるだけ良いじゃないの」


 ファルにイーシャならぬリーシャが咎める。

 普段物静かなリーシャは怒ると怖いのだ。

 前の世界線ではどちらかと言えばミーニャに対して憤りをためてたリーシャだが、あたしやミーニャに出会わなければその矛先は当然のようにファルに向かうのが道理。

 ファルは唇を尖らせながら仕方なくといった口調でミーニャの提案を受け止めた。

 そして諦め悪く腕前を見せて欲しいと提案してくる。


 相変わらず負けん気が強いと言うか、まぁミーニャは見た目から強そうに見えないから仕方ない。

 もしかして前のあたしもそう思われていたのか?


「お話は終わりにゃん? じゃあそう言う事であちしは寝るにゃ。腕前の件は後日にして欲しいにゃ。あちしだってふたつのことを同時にやるのは難しいからにゃ。偶然落ち合った時でいいかにゃ?」

「それで構わないわ。実力がわからないうちからヘコヘコするのが苦手なの」

「ごめんなさい、うちの跳ねっ返りが」

「ちょっとリーシャ、跳ねっ返りとは何よ、跳ねっ返りとは!」

「本当のことじゃない。自覚なかったの?」


 相変わらずだな、この二人は。

 かつて一緒に旅した仲間を思い出して懐かしい気持ちになる。

 今は袂を分かってしまったが、一緒にやれるならやっていきたいよ。

 でも今のあたしには無理からぬこと。


 クトゥーラの分体としての役割を持つ以上、人類の敵だもん。

 ミーニャは亜人だから協力してるけど、二人を巻き込むには違うもんな。

 

『そんなに気になるんだったらこの二人も仲間に引き込んでしまえば? 亜人て要は侵食体の成れの果てだし』


 クトゥーラがあたしの意識に割り込んでくる。

 そんな簡単なカラクリだったのか、亜人て。

 思えば人の肉体から獣の特徴が出るなんて普通はないものな。

 よし、仲間に引き込もう。

 もう彼女達をあんな目に遭わせなくて済むなら私は悪魔に魂を売るよ。


『体の方は悪魔も真っ青な私の肉体よ。逆に向こうが跪くわ』


 そりゃそうだ。ってモノの例えじゃんか。

 いちいち思考に割り込むなよー。


『ごめんなさいね。王子の件がひと段落着いたから暇だったの。王国は貴族含めて私の支配下になったわ。国民の方はこれから処理していくわね』


 ニコニコとした声色でぶっ飛んだ内容を話し始める。

 はて? クトゥーラの自由に扱える肉体は男限定だった気がするが。

 なんせロザリンヌは聖堂から出れない。あたしも同様。

 で、動かせる王子とその取り巻き達は男。

 男が男を襲うのか。

 何その地獄絵図。


『あら、薔薇はお嫌い? 今貴族の間で空前のムーブメントになっているのよ? これによって性犯罪も駆逐されていくわね。これで女性が被害に遭わなくて済むわよ』


 そう言う問題じゃない!


『あら、貴女の事だから気に入ってくれると思ったのに。その事を気にかけていたでしょう? 搾取されるのが女だけなのは納得いかないと』


 だからって手を下すのがそもそも間違ってるんだよなぁ。

 相変わらずこの人こっちの話を曲解して自分の都合の良い方にねじ曲げるから厄介だ。

 そう思えばミリーもベルウッドもそうだったな?


『あら、眷属の話?』


 ん? ベルウッドは分かるがミリーもそうなのか?


『あの子は豚人族の過食の呪いを受けてるわ。見た目こそ人だけど、ふくよかな肉体はその証拠ね』


 ふーん。じゃああたしの祝福で一時的に治るのは?


『内側にいる分体が大人しくなるからじゃない? 呪いとされてるのは大体眷属達の侵食活動って相場は決まってるから』


 とんでもねー爆弾発言投げてよこすんじゃねぇ!

 じゃあ何か?

 今その手の問題が上がらないのって……


『私の復活が大きく関わっているわね。潜伏していた眷属達が馬鹿な真似をせずに私に従ってくれた証拠よ』


 あ、はい。

 やっぱりこいつ悪神だわ。

 世の中の流行り病や呪いの類の原因こいつじゃんか!


『だからそう言ってるじゃないの。私は存在そのものが悪だって』


 イメージ的な問題だと思ってたんだよ。

 まさか人類に今まさに起こってる問題そのものの起源とか思わないじゃんか!


『見通しが甘い貴女の責任を私にぶつけないでよ。わーん聖女様がお怒りよー。シスター達に慰めてもらわなきゃ!』


 全然凹んでない口調で、クトゥーラは逃げ帰った。

 あいつ、またあたしの体でシスターとにゃんにゃんする気だな?

 またシスター達に変な目で見られるのか。

 勘弁してほしいぜ!



 クトゥーラとの会話を打ち切ってから翌日。

 街のお偉いさんと今後の方針を話して、協力者として二人組を傘下に加えるとミーニャは打ち明ける。

 支払う金額は変わらないので街のお偉いさんとしては問題解決が早まるなら万々歳だ。

 人が増え、街に止まれば止まるほど街に使われる金額は増えるからな。


 この街のお偉いさんの食えないところは報酬金額を街で使わせようと狙っている魂胆なところだ。

 普通この手の依頼は食事の負担金も街から出るのだが、それはせずに高い報酬を用意する事で人を集める算段だったらしい。

 もしかしなくてもミーニャ一人だけしかこなかったからアテが外れて他のも呼んだ?

 そう思えばダブルブッキングどころかトリプルブッキングも見越した方が良さそうだ。

 前金は十日街に滞在するだけで消し飛ぶ算段だからな。

 本当に食えない依頼主だ。


 この依頼、どこから何処まで本当のことが書かれているか怪しい限りだぜ。


『あ、極力モンスターの方は倒さないでちょうだいね。その街、イカロスの支配地の一つだそうよ』


 再度クトゥーラの横槍が飛ぶ。

 はいはい、そうだと思ったよ。

 って言うか、イカロスの支配地はどれだけあるんだよ。

 ミーニャの郷だけじゃないとは思ってたけどさ。

 これ、とんでもねーマッチポンプじゃんか。

 じゃああの二人を仲間に引き込めば被害は負わないんだな?


『ほどほどに暴れて間引きするだけでいいわ。要は厄介な冒険者の間引きも兼ねてるから』


 とんでもねー発言が出てきた。

 これ、対応するランクによって大物が出てくる感じなのか?


『一応ね。セヴァール程極端じゃないけど、ここも重要な一部よ』


 待て、その言い方じゃセヴァールも既に陥落してるって聞こえるが?


『してるわよ。前の世界みたいに貴女をオルファンに封じ込めてるからやりたい放題よ? というか貴女を私の器としたから眷属達がはしゃいでしまってね。脅威が払拭されて悲願が達成されたら無理もないけどね。オフィーリアの方も教会にとどめてるし、プルミエールも何もできやしないわよ』


 そっかー。

 あたしが詰んだ時点で世界征服は完了してたかー。

 じゃあ人類はどうなんの?


『どうにもしないわよ? ただちょっと面白おかしい実験材料になるくらいかしら? 私達は人類の内側に潜むモノ。表舞台にはそもそも出ていかないのよ。ノーデンスが復活するまで待つとするわ』


 ほんとお前ノーデンス一筋だよな。


『今から彼女をどんな目に遭わせてやろうか考えるだけで背筋が震えるほどよ? 貴女も一緒に可愛がってあげるから覚悟なさい』


 セクハラはほどほどにな?


『んもー、私の愛情表現なのにー』


 それが過剰だっつってんだよ。

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