90、それが生きてるって事だ!



 辺りは暗い。

 夜の森で人を探すのはあまりにも無謀。


「トシゾウさーん!」


 叫んでみたが返事はない。


「‥‥‥やっぱりフラれたのかな」


 デリカシーはまるでないが、アリスさんに聞いといたら良かったかな‥‥‥。

 俺は魔力を込めて真上に飛び、森を抜けて空へ。

 空の上からの方が探しやすいかもしれない。


「‥‥‥あれは?」


 空から見る森も真っ暗で、はっきり言って視界は悪い。

 ほとんど何も見えなかった。

 ただ、ある一箇所。

 そんなに遠くない場所に、空からゾロゾロと何かが降りて来てるのが見えた。

 森の中からじゃ見えなかっただろう。


「嫌な予感がするな‥‥‥」


 空から降りて来てる物体は暗くてはっきりとは見えないが、かなりの数が居るように見える。


「‥‥‥トシゾウさん」


 俺は飛ぶのをやめ、森の中に降りるとその場所に向かって歩き出した。






 森の中、少し開けた場所にトシゾウは居た。


「‥‥‥ニア殿、来たでござるか」


「来ました」


 トシゾウの後ろには、空から舞い降りて来た集団。

 皆、大きな白い羽根に黒いゴスロリファッション、金髪ショートカットの幼い女性。

 まだ空からゾロゾロと舞い降り続けている。

 すでに数百はいるだろう。


「天使ちゃん達、呼んだんですね」


「ニア殿、世話になったでござる。短い期間であったが、拙者は本当に楽しかったでござる」


「‥‥‥そうですか」

 

「ただ、それはそれ。これはこれでござる!」


「‥‥‥これとは?」


「ニア殿に決闘を申し込むでござる!」


 俺の方を指差して大声を出すトシゾウ。


「‥‥‥なんで?」


 やはりフラれたのか?

 ‥‥‥いや、トシゾウはフラれる覚悟が出来ていたはずだ。


「やはり拙者は、ニア殿を倒さなくてはいけなくなったでござる!」


 答えになってない。

 アリスさん、一体なんて言ったんだろう‥‥‥。


「絶対ですか?」


「拙者が戦うと言ったら、この世界では抗えんでござるぞ」


 俺には、創造主としての効力はないんだけどね‥‥‥。

 しかし断っても、また逃げまわる日々に逆戻りだな。


「‥‥‥わかりました。お受けしましょう」


「良い心がけでござる」


 ニヤリと笑うトシゾウ。


「では始めますか‥‥‥」


 俺は袋から石を出し構えた。

 天使ちゃん達は未だに増え続けていた。

 一体一体が魔王並みの力をもっている。

 全部で1,000体いるって誰かが言ってたっけ。


 ──これは死んだかな‥‥‥。


「ニア殿、はやる気持ちはわかるでござるが、日を改めるでござる」


 別に、全くはやっちゃいない。


「‥‥‥いつですか?」


「そうでござるな、10日後そこの祠でまた会おう」


「10日後ですね」


 少し長生きができました。


「拙者は、拙者の持てる力全てをぶつけるでござる。ニア殿も、そのつもりで覚悟しておくでござる!」

 

「わかりました」


「では10日後に会おうでござる」


 トシゾウは数体の天使ちゃんに抱えられ、空へ昇っていった。

 手を大きく広げ、まるで飛んでいるかのような姿で。

 

 ──なんか物凄くダサい!


 後を追うように、天使ちゃん達も一斉に空へと舞い上がった。

 風圧で飛ばされそうになるのを、必死に堪える俺。

 木々の隙間から見える空が、天使ちゃんで埋め尽くされ、真っ黒になっていた。

 物凄い威圧感。


「‥‥‥いくらなんでも多いな‥‥‥」




 俺は誰も居なくなった森の中、一人ポツンと佇んでいた。


 ──俺は一体何やってんだろうか?


 創造主トシゾウに命を狙われて祠に逃げ込んだ。

 そこでトシゾウと仲良くなった気がして、女神様の命令に逆らい、今度は女神様に命を狙われた。

 そしてまた創造主トシゾウに命を狙われると‥‥‥。


 ──もしかして俺は、物凄く『アホの子』かもしれない?!


「‥‥‥もう良い! 疲れたから帰る!」



 ぐーっ!



 お腹が鳴った。

 こんな時にも腹が減るのか?


 ──やっぱり俺は絶望的に『賢さ』が足りないのかもな。



 ニヤリと自虐的に笑うと、俺は両手に魔力を込めた。

 

「目的地は祠の美味しいご飯だ!」

 

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