59、パーティー行かなあかんねん



「‥‥‥流石にその服装のままでは、まずいでしょう」


 城に用意された俺の部屋。

 俺の服を見ながら、シャラサードさんの一言。

 ねずみ花火により致命傷を与えられてボロボロだ。

 

「別に構わんでしょ。俺は勇者の付き人みたいなもんですし、誰も見てないですよ」

 

 魔法王国アルフォード主催、勇者との親睦パーティーにお呼ばれした俺、嫌々ながらも出席の準備を進めている。

 まあ、特にすることがないのだが。

 王から用意されたドレスを着るために、レイラは別室で準備中。

 

「後はマスク問題だな‥‥‥」

 

 第一王子スパミュールによりマスクを禁止されてしまっているので、何か別のもので顔を隠す必要があった。


「どうですかシャラサードさん、似合います?」


「‥‥‥ニア殿、勘弁して下され」


 俺の考えたマスク禁止令に抗う手段。

 そう鉄仮面だ。

 マスクは禁止と聞いているが、鉄仮面は禁止と聞いていない。

 ボロボロの服を着た鉄仮面の男。

 我ながら怪しすぎるコーディネートです。


「俺は用意出来ました。レイラが来たら行きましょうか」


「‥‥‥本当にその格好で行かれるつもりですか?」


「もちろん」


 頭を抱えるシャラサードさん。






「‥‥‥ニア様、どうですか?」


 頬の赤いレイラ。

 肩口から胸元まで大きく開いた、薄い水色のドレス。

 顔を隠す為のレースのベールを頭から付けていた。

 ベール越しに見える顔は、妖艶な雰囲気さえ漂わせている。


「レイラ、凄く綺麗!」


「良かったです」


 ニコニコと嬉しそうな顔のレイラ。

 なるほどベールとは王様も考えたな。

 これなら近づかないと顔はしっかり見れないだろうが、顔の美しさは遠目からでもなんとなくわかる。 



「さて用意もできたし、さっさと行くか」


 部屋から出ようとする、俺たちを止めたのは、シャラサードさん。


「‥‥‥ニア殿、その格好ではあまりにもレイラ殿が不憫だと思いませんか? ニア殿が顔を出したらおそらく騒ぎになるでしょう。しかし女性に恥をかかす男は、ワシは最低だと思いますぞ」

 

 そう言うと、シャラサードさんは手に持っていた黒いタキシードを差し出してきた。

 こんな服着たことないぞ。


「‥‥‥レイラ、着た方が嬉しい?」


「‥‥‥せっかく綺麗にしてもらったので、出来ればニア様もカッコいい方が嬉しくはありますよ‥‥‥ごめんなさい」


 ペコリと頭を下げるレイラ。

 ‥‥‥そうか。

 俺の配慮が足りませんでした。


「シャラサードさんありがとうございます。レイラを悲しませるところでした。服、お借りしますね」


「この服はワシの若い頃着てた物です。お譲りしますので、今後もこういった時にお使いください」


 俺はニコニコと笑うシャラサードさんに深くお辞儀をして、服を受け取った。


「何から何まですいません」


「いえいえ。後はレイラ殿に近づく悪い虫に『俺の女に手を出すな!』とでも言ってやればよろしいのです」


 その悪い虫はあなたの国の王と、王子なんですけど?


「では先に会場に行っておりますので、ちゃんとレイラ殿をエスコートするのですぞ!」


 そう言うとシャラサードさんは、部屋を出て行ったのであった。






 華やかなパーティー会場。

 優雅な音楽が流れ、皆煌びやかな服装に身を包んでいた。


「レイラ君、なんて美しいんだ! 僕のためにドレスアップしてくれたんだね。なんて素晴らしいんだ。さあ一緒に踊ろう、たっぷり可愛がってあげるよ」


 レイラに纏わりつく、悪い虫一号ことスパミュール。


「いえ、私はニア様と踊りますので」


「恥ずかしがる姿も美しい。あんなボロ雑巾は放っておいて、僕の胸に飛び込んでおいで」


「スパミュール君、僕の連れに気安く話しかけないでくれたまえ」


「ぐっ‥‥‥君は、だ、誰だ?」


 レイラの後ろに立つ俺を見て、スパミュールは腰を抜かしてひっくり返った。

 今日のレイラは物凄く綺麗だが、正装した素顔の俺も捨てたもんじゃないだろ?


「ボロ雑巾のニアでございます。以後お見知り置きを。今後もレイラにちょっかいを出すようなら、国ごと叩き潰しますのでよろしく!」


 何故かスパミュールの後ろで親指を立て、サムズアップポーズをしているシャラサードさん。

 ‥‥‥後で怒られても知りませんよ。


「ニア様、踊りませんか?」


 崩れ落ち呆然とするスパミュールを置いて、俺たちはパーティー会場の真ん中へ。


 




「ニア様、ダンスもできるんですね! 素敵です!」


 もちろん初体験。


「レイラも上手」


「見様見真似です」


 軽いステップなら即興でなんとかなる。

 今の俺たちの身体能力を侮ってはいけない。


「物凄く注目されてるな‥‥‥まあ、そりゃそうか」


 会場中の人が崩れ落ちつつも、キラキラした目で俺たちを見ている。

 遠目からで顔が鮮明に見えないとはいえ、ぶっ飛んだ魅力の二人による美しすぎるダンス。

 その神々しさに失神する者が多数いたようだ。

 ‥‥‥なんか申し訳ない。



「私、今凄く幸せです!」


 俺の素顔を間近で見てるせいか、顔が真っ赤なレイラは凄く可愛かった。

 



 たまにはこんな日があってもいいかな。

 明日からまた本気出す。

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