57、花火は見て楽しみましょう



「ニア殿そうです! それが魔力の流れですぞ!」


「なるほど」


 魔法の修行2日目。

 頭の悪い俺は、魔法を簡単には諦めてません。


「こんなに早く魔力の循環ができる者はおりませんぞ!」


 初級魔法すら頭の悪さゆえに使えない俺。

 昨日は丸一日必死に考えてみたが、今のところ全く理解出来ず。

 頭を抱える黒ローブのシャラサードさん。

 ‥‥‥なんか申し訳ない。

 こうなったら頭を使わない魔法の修行はないかと聞いたところ、魔力を身体に循環させるこの修行を教えてもらった。

 魔力量、つまりMPを上げる修行らしいのだが、何かのきっかけになればと、とりあえずやってます。


「かなり熟練の魔法使いでも出来ない者が多いのですぞ。やはりニア殿の素質はとんでもないと思うのですが‥‥‥」


 これは正直簡単。

 体中の血管に魔力を流すイメージ。

 物凄い勢いでMPが減っていってるのがわかる。

 俺にないのは『賢さ』だけ。

 身体の感覚を使うこの修行は余裕みたいだ。

 それにしても、この世界に来て初めてMPが使えました。

 なんか前進した気分。



「この流れてる魔力、なんかに使えないんですかね?」


 身体があったかくなってきた。


「魔力はあくまで身体の中の秘めた力ですので、何かを形成しなくては外に出す事ができないです」


「そうなんですね」


 俺は魔力を使えるが、外に出すために火や氷に変換する頭を使った演算ができない訳だ。


「身体がポカポカしてきたので、寒い時に役立つかも」


「それはニア殿の流す魔力がとんでもなく多い為でしょうな。そんなに一気に魔力を循環させたら、他の者ならすでに魔力切れか身体がおかしくなっておりますぞ」


「もっと大量に流して身体を熱くしたら、体当たりで敵にダメージとか与えられないかな?」


「‥‥‥その前にニア殿の身体もどうかしてしまいそうですがな」


「身体だけは丈夫なんです!」


 俺に無いのは頭だけなんだ。

 ‥‥‥いい加減、言ってて悲しくなってきたぞ。

 

「しかしあまり無茶はしない方がよろしいかと」


 まあ、身体を熱くして体当たりなんて本当にする気はない。

 出来てもなんかカッコ悪い。

 ‥‥‥魔力を手に集めて、熱々の拳で殴るなんてどうだろうか。

 まだましか?



「‥‥‥うわ、出ちゃった!」


「なんと!」


 身体を流れる魔力を手に集めた結果、行き場を失った魔力は手のひらから飛び出してしまっていた。

 ターボライターみたいな感じでボーボーと出てます。


「身体の秘めた力が勝手に外に出てくるな‥‥‥イタタタタッ!」

 

 勢いよく出続ける魔力に引っ張られ、地面を無様に転がる俺。

 まるでネズミ花火になった気分。

 

「ニア様、綺麗です!」


 後ろに座っていたレイラが、目をキラキラさせている。


「違うレイラ、狙ってやってない。‥‥‥誰か助けて」


 凄い勢いに抗う事ができず、回り続ける俺。

 目が回ってきた。


「ニア殿! 魔力の放出を止めて下され!」


 地面を転がる俺に近づく事が出来ないため、少し距離をとった場所から叫ぶシャラサードさん。


 ──あ、そうだね。


 今もMPは減少し続けているな。

 魔力の放出を止めたらゆっくりと回転が止まった。

 ボロボロになって地面に転がる俺。

 服はところどころ破れ、泥だらけだ。

 起き上がれない。

 凄く疲れた。


「ニア様‥‥‥大丈夫ですか?」


 ‥‥‥レイラそんな目で見ないで。

 

「身体は大丈夫だけど、精神をやられた」


 賢さが足りないため魔法が理解出来ず、魔力を使えば外に垂れ流す。

 ‥‥‥わかったぞ。

 俺に魔法は向いてない。


 地面に転がったまま、シャラサードさんをじっと見つめた。

 

「シャラサードさん、俺、魔法諦めます!」


 そう、俺はレベルを上げて石を投げてれば良いんだ。

 魔法なんて使えなくても生きていける!

 

 ──明日からまたレベル上げだ。


 どうしても使いたかった魔法だが、スッパリ諦めよう。

 引きずる男はカッコ悪い。

 

 

「‥‥‥ニア殿は選ばれた人間かもしれませんぞ」


 目をキラキラさせ、転がる俺を見下ろす黒ローブのシャラサードさん。


「もう少し魔法の修行を続けて下され。もしかしたら伝説の魔法が使えるかもしれませんぞ!」


「‥‥‥伝説の魔法だと!」



 男らしくスッパリ諦めると決めたばかりの誓いは、『伝説の魔法』というカッコいい響きに脆くも崩れ去っていた。

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