20、ただいま



「ただいま、部屋空いてます?」


 プリングの街に着いたのは、かなり夜の遅い時間。


「おかえり、ちょっと心配してた。いつもの部屋空いてるよ」


「アリスさんいつもこんな時間まで仕事してるの? いつ寝てるの?」


 実はかなり遅くなったので、宿に泊まるのは諦めていた。

 受付出来なければ泊まれない。

 日頃は朝出る時に予約してから出かけます。

 

「いつもは寝てる時間」


「夜遊びするとお肌に悪いよ」


「‥‥‥女心のわからない男はモテないよ」


「お腹空いた、何かある?」


「あんたは私の子供か? 一応、夕食用意してるよ」


「やったね」


「後で持って行くから風呂にでも入ってな」


 今日は色々あって疲れた。

 いっぱい食べていっぱい寝たい気分。






 ──トントンッ


 ドアをノックする音。


「失礼するよ」


「待ってました!」

 

「ちょ、あんたノックしたのに‥‥‥もう」


 足をモジモジさせながら、崩れ落ちるアリスさん。


「どうせ食べる時外しますし、慣れて下さい」


 風呂上がり、マスクせずに出迎えた。

 ヨロヨロとしながら、テーブルに夕食を置いてくれる。

 

「‥‥‥どうぞ」


「いただきます!」


「‥‥‥あんた、わざといじめてる?」


「ご飯が美味しい!」


 今日の献立はパンと白身魚のフライ。それに野菜のスープです。

 空腹にスープが沁みます。


「スープはサービス。‥‥‥急いで作った」


「心と身体がポカポカするね」


「そう、よかったね」


 テーブルの反対の椅子に座り、嬉しそうなアリスさん。



「ごちそうさま!」


「じゃあ今日はゆっくり休みなよ」


「アリスさん、魔王って知ってますか?」


 食器を片付けて、出て行こうとするアリスさんを呼び止めた。


「‥‥‥あんた知らなかったの?」


「有名人? 悪い人? 勇者って知ってる?」


「‥‥‥質問が多いね。まだ寝なくて大丈夫?」


「大丈夫」


 アリスさんは、いそいそとまた席に着いた。


「魔王は半年くらい前に復活したらしいよ。物凄く悪い人で、隣の国は滅ぼされたって話だね」


「滅ぼされた?」


「‥‥‥皆、殺されたらしい」


 思ってたより魔王は悪い人。


「魔王と戦えるのは、さっき言ってた勇者だけらしくてね。異世界から来る凄く美しい人なんだって。うちの国は血眼になって探してるって噂だよ」


 街の人でも知ってるんだな。

 そこまで言うとアリスさんは少し黙って、俺の顔を見ている。


「‥‥‥ねえ、聞いても良い?」


 アリスさんは俺に顔を近づけて真剣な顔。

 

「その前に俺から最後の質問良いですか? これが一番聞きたかった」


「どうぞ」


「アリスさんは魔王嫌い?」


「‥‥‥」


 黙った。


「嫌い?」


「‥‥‥それ答えなきゃ駄目?」


「ぬいぐるみ大好きアリスさんは、もしかして魔王派?!」


「そんな訳ないでしょ」


「じゃあやっぱり嫌いなんだ」


「‥‥‥ねえ、私が嫌いって言ったら‥‥どうなるの?」


「やっぱり魔王は悪い人なんだなって、再認識します」


 また黙った。


「ねえ‥‥‥あんた異世界から来たの?」


「うん」



 眠れな〜い夜は続く。

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