17、勇者の証明



「して、どちらの名前でお呼びすればよろしいかな?」


「‥‥‥じゃあ、ニアの方で」


 まだ玉座の前です。


「娘は気を失ってしまったので、余から礼を言わせて貰うぞ」


 王様はペコリと頭を下げた。

 同時に周りの兵達も頭を下げる。

 この王様、悪い人ではなさそう。

 因みに姫は側近に抱えられ、退室しています。


「いえいえ、そんなそんな。では俺はこれで失礼します」


 お辞儀をして立ち上がる。


「ニア殿に頼みがある」


「嫌です」


 これが本題なんだろ?


「それは困った。内容だけでも聞いてくれんか?」


「ニア殿、お頼み申す!」


 ヒゲのおじさんが、切なそうに俺を見てる。


「‥‥‥聞くだけなら」


 王様が嬉しそうな顔で話し出した。


「実は余の一人娘バニラがニア殿を──」


「嫌です」


「‥‥‥まだ何も話しておらんぞ」


 少し寂しそうな王様。

 すいません、嫌な予感がしました。


「わかった、単刀直入に聞こう。ニア殿、王になる気はないか?」


「ないです」


「‥‥‥答えるのが早いぞ。少しは悩んでくれんか」


「こんな得体の知れない若造を、王にしたら国が潰れます」


 この王様大丈夫なのか。

 姫の下僕かペットか奴隷あたりに任命されると思っていたのだが、結婚させる気ですか?

 

「ニア殿は勇者をご存知かな?」


「ユウシャ‥‥‥それ美味しいんですか?」


 知ってます。

 勇者に任命されそうなんで、とぼけてるんですよ。


「ニア殿が勇者ではないのか?」


「はい?」


 なんか思ってた感じと違うな。

 王様に任命権はないのかな?


「『魔王が復活せし時、女神に選ばれし美しき勇者異世界より現れる』国に伝わる伝承じゃ。女神に啓示を受けたであろう?」

 

「受けてませんね」


「ニア殿がさっき言っていた『サトシ』という名は、異世界での名前ではないのか?」


「質問良いですか?」


 手を上げて話を折った。

 異世界から転移してきたと、思われたくない。


「うむ」


「勇者は女神から必ず啓示を受けるんですか?」


「‥‥‥その筈だが。女神が異世界から召喚するのだし、啓示がなければ目的がわからんであろう? 3ヶ月前に勇者を召喚したと余にも女神から啓示があった」


「女神に会ったんですか?!」


「夢に出る、割と頻繁に夢に出てくるぞ。『勇者を召喚したから良くしてあげてね』と言われた。ただ勇者は美しい女性だと聞いていたのだが‥‥‥」


 女神様の話し方、軽くないですか?


 俺は女神を知らない。

 しかも勇者は女性。

 てっきり自分が勇者だと思ってたんで、ちょっと恥ずかしいです。

 

 ──だがしかし、俺は勇者ではなかった!


「俺は男ですし、女神なんて知りません」


「そのようだが‥‥‥何かの手違いではないのか?」


 手違いって、どんな女神ですか。


「王様、勇者は他にいます。俺はただの村人です」

 

「‥‥‥どう見てもただの村人ではなかろう」


「もう帰って良いですか?!」


「‥‥‥ちょっと待って、考える時間を下さい」


 王様は俺に深々と頭を下げていた。



 

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