Dual-Duet ~気高き魔女の二重奏~
小本 由卯
第0話 魔女と人間
「魔女って本当にいたの?」
開館を控えている資料館の中で、そんな問いが発せられた。
その言葉は、近場にある学園の制服を纏う少女のものであった。
「ええ、本当にいましたよ」
そして、その問いに答えた1人の女性がいた。
彼女はこの資料館の館長である。
「もっと詳しく聞いても良い?」
「構いませんが、どうして突然魔女の話を?」
「実は学園の課題で、魔女の歴史でも調べようかなぁ……なんて思って……」
はにかんでそう答える少女に対し、女性は苦い表情で口を開く。
「それは止めておいた方が良いと思います」
「え? 何かまずいことでも?」
「魔女と人間の間には、穏やかじゃない事情がありましてね……」
「え? 事情?」
困惑の表情を浮かべる少女に、女性は静かに説明を始める。
「この地域ではあまり魔女について悪い印象は聞きませんが、人によっては魔女を
恐怖や憎悪の対象にしている事だってあるのですよ」
「魔女ってそんなに嫌な存在だったの?」
「人間と同じく、魔女だって必ずしも善い人ばかりではなかったようです
地域によっては酷い争いにもなったりして……しかも魔女狩りを生業と
した人たちまで出してしまったくらいですから」
「まさか、それで魔女たちは皆やられてしまったの……?」
辛い顔をする少女に対し、女性は冷静に言葉を続ける。
「確かにそれで絶滅してしまったのが一般の説ではありますが、他説では
何処かの大陸に隠れて住んでいるとか、あるいは……」
「既に我々に紛れて暮らしている、なんて説もありますね」
「え? なら私の友達やお姉さんも実は魔女だったりってことも……?」
「私が魔女だったらこんな話はしませんよ、それに私には血の繋がった弟だって
いますから」
少女の冗談交じりな問いに女性は明るく言葉を返すと、再び冷静な声で話を
戻した。
「そんな事もあるので、魔女についてはあまり触れないのが一番だと思います」
「そっかぁ……魔女って複雑なんだね」
「ちなみにお姉さんは魔女についてどう思う? 例えば目の前に魔女が現れたら?」
「そうですね、もし会えたら……って、そろそろ行った方が良いのでは?」
「あ! ごめん! 行かないと!」
女性が置かれていた時計を差すと、それを見た少女が驚きの声を上げた。
「ありがとう! また続きを聞かせて!」
「ええ、行ってらっしゃい」
少女は手にしていた鞄を背負い直し、慌てた足取りで資料館の外へと
駆けていった。
そんな少女の背中を見つめながら、女性は考える。
(目の前に魔女が現れたら、か……考えたこともなかったな……)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます