無属性少女の英雄譚~英雄に導かれ、いずれ憧れに至る~

すうぃりーむ

第一章 憧れへの一歩

第1話 プロローグ

昔から英雄譚が好きだった。

きっかけはお父様の部屋に忍び込んだ時に読んだ一冊の本。

『水嵐』の魔女様の活躍を絵付きで子供にもわかりやすくした絵本のような英雄譚。

かっこいい魔法を操り、魔物に立ち向かって人々を守るその姿に憧れた。

自分も強くなって困っている人々を助けられるようになりたい、そう何十回も考えた。


私が住んでいるイレーヌ王国では、十歳になると魔力検査を受けることとされている。

魔法には火、水、風、土、光、闇の六大属性があり、適性を見つけ、伸ばせるようにするのが目的らしい。


二年前の今日、私も魔力検査を受けにいった。

秋風が吹き少し肌寒く、いよいよ秋本番、というような天気だったのを覚えている。

少し緊張して、でも楽しみで。

お気に入りの服を着てドキドキしながら会場に向かった。


魔力検査はいつでも行われているわけではなく、年に数回といったペースで行われる。

時間より少し早く来たが、それでも会場となっているホールには既に多くの人で賑わっていた。

受付をすましてから、十分程度そわそわとしながら待っていると、係員の人に呼ばれた。

今日で適性がわかって、その属性を伸ばしていこう。

今日が憧れへの第一歩だ。


魔力検査は属性を測る水晶玉に手を置くことで適性属性を判断できる。

火属性だったら赤色、水属性だったら青色になるように、その属性に適した色に水晶玉が変化する。

火属性もかっこいいなぁ。でも風属性も捨てがたいしなぁ。どの属性にも魅力があって選べないなぁ。

水晶玉に手を置いた。

水晶玉は何の反応も示さなかった。

壊れているのかな、それなら仕方ないよね。

それでも、十秒ほど経過しても何の変化もなかった。

何かおかしい、そう思い始めた頃、


「あなたは──無属性ですね」


頭が真っ白になった。

よく絶望した時などに言われるが、本当なんだなとまで感じた。

それほどまでに信じられなかった。

自分は心のどこかで、英雄になれると思っていたから。

それからの記憶はあまり覚えていない。

その場で泣き喚いたかもしれないし、またはもう理解すらできず虚無感に襲われていたかもしれない。

そのあとはびしょ濡れになりながら家に帰った。

傘は持っていたが、さす気にもならなかった。

家に着くと、お父様が出迎えてくれていて、びしょ濡れになった私を見てすぐにお風呂に入れてくれた。

泣きじゃくる私の話を急かさずにゆっくり聞いてくれ、話終わった後に優しく抱きしめてくれたのを今でもうっすら覚えている。


今日までの二年間、無気力に過ごしてきた。

いや、最初のうちは無気力じゃなかった。

無属性でも魔法を使えるかも、と自分でお父様の書庫に入ったりして本を読み漁った。

だけど、何も見つからなかった。

あったのはかっこいい英雄の姿だけ。


魔法なんかなくても魔物と戦える、そう思って魔物と戦うために街の外に出たこともある。

スライムに手こずり、ゴブリンからは怖くて逃げた。

家に泣きながら帰るとお父様とお母様にこっぴどく怒られた。

魔法は今では殆どの人が初級魔法程度なら使える。

冒険者なら更に上の魔法を扱い、凶暴な魔物を倒して困っている人を助けているのだろう。

では自分はどうか?

何もできない役立たずじゃないか。

今更嘆いたって何も変わらないじゃないか。

あの絶望から二年、私はすべてを諦めた。

生きる希望がないってこういうことなんだと思った。

何をするのも無気力で、やる気がなかった。


そんなある日、屋敷に一人の女性が訪れた。

お父様の知り合いだそうだ。

お父様は昔、ある方面で活躍していたそうで、その功績を称えられ子爵になったそうだ。

そのため顔が広く、今でもたまに知り合いが屋敷に訪れることがある。

貴族として挨拶は大切だ、と小さい頃から言われてきており、今までも客人が来たら挨拶をするようにしている。


お父様は基本的に客人はお父様の部屋に招く。

今日もそこかな、と思い、メイドさんに確認を取ると合っていたようだ。

お父様の部屋のドアを叩く。


「失礼します。挨拶に参りました」


「アルネか。入れ」


お父様の声がした後にドアを開ける。

その瞬間、目を奪われた。

御伽噺に出てくる魔女のような格好。

帽子からのぞく薄い青色の長い髪。

普通の人が着ていたら間違いなく変だろう。

だけど、何故か様になっていた。

女性がこちらを振り向き、私と目が合う。


「おや、君がアルネ君かい?」


このとき、歯車が動き始めた。

何故だか分からないけど、そう確信せざるを得なかった。

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