第20話 再会

 あの営業Mさんが上司と共にやってきた。こちらとしては、本人はどう考えてこうなってしまったのか分からないところを確認して、あとは、その営業さんが最初に頑張ってくれなかったら、我々はそのハウスメーカーで家を建ててないと思うし、その点は感謝していると伝えたかったのです。

 

 我が家のトラブル発生から本人は全く顔を出さず、その後に違う部署に転属になったと聞いていた。新たに担当になった上司のKさんは、もう、アイツのことはいいんです!気にしないでください!と、なんか会わせたくない感じで、頑なに我々の前には出さなかった。事務所に居る気配でも一切顔を合わせなかった。なんかそうしたほうがいいセオリーがあるのかしら?とか頭の端で思いながら、それどころじゃなく、打ち合わせを進めてた。

 

 久々の対面で、Mさんやつれたり痩せちゃってたら…と心配してたら、逆にちょっと太った?と思えるくらいだった。最初は堅い雰囲気ながらも、会話のやりとりをしていくなかで、その時はこうだったと思います、こう考えてしまいました、と言葉を選びつつ答えていたMさん。

 うちの方の伝え方などで希望や真意が伝わらなかった部分があるのかどうか確認したところ、それは全くないですとのこと。

 そーなんだ…我々にも悪い点があれば反省をと思ったけど、それはないんだ。なんでこんなことになってしまったのかハッキリはしないままである。 

 少し離れて隣に座り、口を挟まず静かに見守る上司のKさん。その表情も窺っていると、きっと喋ってはいけない会社の内情とかもあるのかなと勘ぐるナマケモノ。真相解明は全部すっきりとはならなそう。結局、やはり、Kさんが言っていたように、店舗兼住宅を甘く見て、キャパを超えてしまい、こんなことになってしまったという説明だった。最終的な変更契約をしないまま発注を出したのは、うっかりしたとのことだったが、何かがありそうな答え方だった気がする。

 深く掘りすぎて突き抜けちゃうことが多々あるナマケモノの、許せないポイントは、たぶん普通とちょっとズレている。一番気になったことが、Mさんのしょーもない嘘。地鎮祭をした時に、分譲地の別の区画に建売住宅が既に建っていて、外壁とか屋根とかを見ながら、「コレうちの外壁と一緒ですね」とMさんに聞いたら、いいえ、違います!と食い気味に答えた。結果的には全く同じ外壁だった。別に外壁の色が一緒でもわたしは気にならなかったけど、なんで嘘ついたの?ってところが気になっちゃって。自社建売とかぶるのがヤバイと思ったのかなんなのか、その場で、あれ?とかヤバっ!とか思っても後でちゃんと調べればわかるし、一緒でした!すみません!とか言ってくれればいいのに。その後なんの説明もなく。嘘とか、ごまかすとかが許せなくて。その場を借りて、それを本人に確認したら、その件は全く覚えてません!とまた食い気味に答えられた…。マジか。もういい。ナマケモノの心のシャッター閉まりました。この人は信用ならないと判定。それだけで?と自分でも思うのですが、勝手にシャッターは閉まってしまった。ナマケモノは、自分が不必要と思うことには脳みそを使いたくないので、ここは掘らずに埋めて土に還すこととする。

 一応、わたしからも、当初のMさんのがんばりを感謝して、話し合いは終わったものの、なんかスッキリしない。

 夫は、やはり悪い人じゃないと、話し合い後も、以前のように気さくに立ち話をしていたが、ナマケモノの中の薄らモヤッと感は晴れない。基本的な間取りなどを考えてくれたのはMさんなので、完成した家を見ますか?と夫が声をかけて、家の中を見て回った。所々、腕を組みうんうんと頷きなが歩き回るMさんの姿を、少し離れて目で追いながら、またモヤっとする。悪気はないのだろうが、その態度になんか引っかかる。わたしは、きっとこの人とは、どんなに話してもスッキリわかり合うことはないのだと思う。ならば、もう忘れよう!家もなんとか建ったし、不満は多々あるけど、この先のことを考えよう!と切り替える。

 この家に暮らす以上、ちょいちょいMさんやハウスメーカーのことは頭をよぎるに違いない。今後の未来のために一度話してスッキリしようと思って会ったものの、結局完全にはスッキリはしない結末に。なので、わたしの中でMさんの件は整理ではなく削除することにしたのでした。

 風の噂で、しばらくして、Mさんが会社を辞めたと聞いた。

 我が家を建てる過程で1人の人の人生が変わってしまった。削除をしたつもりが、なんだか心に重い欠片が沈んだ気分。

 でもね、我が家の人生もかかっているのだから、仕方がない。そう自分に言い聞かせるナマケモノであった。 

 家を建てる中で、本当にたくさんの感情が駆け巡った。もちろんウキウキしたり楽しかったり嬉しい感情も含めて。

 そうしてなんとか完成させて引き渡された我が家だけれど、まだまだ「家を建てる」は、終わりではなかったのです。

 

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