コーヒー君とおしるこ君

つづれ しういち

第1話 おしるこ君

「あっ。俺、『おしるこ』だって」


 SNSでみんながよくやる、性格診断アプリ。

 いろいろ質問に答えることで、「あなたはこんな性格」って教えてくれるやつ。

 俺もちょっと好きで、フォロワーさんがやってるのを見つけると面白がっていろいろやっちゃう。いろんなタイプのがあって、「あなたをお菓子にたとえたら」とか「水族館の生き物にたとえたら」とか、いろいろある。

 前はたしか「あなたが悪役キャラになったら」とかだったな。


 今回は、冬にちなんでか「あなたの性格を温かい飲み物にたとえたら」みたいなやつだ。


「なになに……『おしるこ』は人懐っこくて愛嬌たっぷり。誰からも好かれる愛されキャラ……ワガママなのになぜか憎めないマスコットキャラだって! へー!」


 ところで「おしるこ」って飲み物か? ま、いいけど。


「お。『コーヒーの人と惹かれ合う』だって。なあなあ、お前もやってみてよ!」


 昼休み、大学のカフェテリア。

 俺はちょっと面倒くさそうな顔で隣に座っているやつのスマホに自分のそれをぐいぐい押し付けて大騒ぎする。


「うるっせえな。めんどくせえ」


 いつもながら、クールでかっけえ横顔。俺とは正反対みたいなこいつが、あれこれあって今はなぜか俺の隣にいる。それが今でもすんごく不思議で、ときどき「夢なんじゃねえかな、これ」って自分でも思う。


「なあなあ、いいじゃん。お前もやってみてよー」

「はあ? なんで俺まで」


 あからさまに面倒くさそうな顔になった恋人に、それでも俺はせがみ続けた。

 昼休みはあと二十分しか残っていない。

 あいつは「仕方ねえな」って顔でSNSの画面を出して、手早く性格診断の質問に答えた。

 出てきた結果を見て、一瞬、ほんのわずかに目を開く。


 ……なに? なになに?

 まさか、なんか変な結果に……??

 と思ってたら、ずいと画面を見せてきた。


「……ほらよ」

「あっ! やったあ! やっぱりコーヒーじゃん、やったね!……って、あれ?」


 コーヒーの人は沈着冷静。クールでドライ。でも大好きな人には甘えちゃう。

 つまりツンデレ……? マジかよ。

 で、よくよく文面を見たら、最後のところにこうあった。


『コーヒーの人と相思相愛』。


(え……)


 どきん。

 大袈裟じゃなく、いやな感じで胸が変な音をたてる。


「なんだ……おしるこじゃねえじゃん」


 隣から怪訝な視線が飛んできてるのに気づいて、俺はあわてて表情を取り繕った。にへっと笑って見せる。


「そ、そっか。別に俺のが『コーヒーと惹かれあう』でも、お前のがそうとは、限らないんだ……な」


 そう言ったら、あいつはちょっと肩をすくめてしれっと言った。


「悪いな。俺はつぶあん派だ。おしるこのお前とは付き合えない」

「えーっ! でも、もう付き合ってるしぃ! もう遅いしー!」


 ムキになって言ってるうちに、胸のところがどんどんへこんでくる。なんか目元があやしくなる。

 そんなこと、わざわざ言わなくてもいいじゃん。いや冗談だってわかってるけど。でもそれ、いい冗談じゃねえだろ、さすがに。

 無意識に、あいつから目をそらして立ち上がる。

 もちろん笑顔は貼り付けたままだ。


「あ、あの……俺っ。ちょっと講義の前に用事あるんだったわ。忘れてたー」

「おい。待てよ」


 呼び止める声は聞こえていた。でも、俺は足を止めなかった。

 いいんだよ。分かってる。

 だって、俺から先に好きになって、別に告白なんてするつもりもなくて。遠くで見てるだけで十分で。

 それでよかったのに。ちゃんと黙っているつもりだったのに。

 なのに、酒にまかせて告っちまって。

 翌朝あいつの部屋で目を覚まして、完全にテンパって土下座してたら「昨日のあれは覚えてるのか」って問い詰められて。

 ああ、なにもかもがカッコ悪い。俺の人生、いっつもこうだ。


 そのときはもう必死で「は? なんのこと?」って口ではとぼけて、でも顔が……顔が全開で真っ赤になって「はい覚えてます!」って勝手に返事しててさ。

 ああ、ほんとにカッコ悪い。

 それで、なんでそうなったのかはよく分かんないけど、なぜかあいつから「じゃあ付き合うか」って言ってきてこうなってて。


「ああ! こっずかしー!」


 気がついたら、俺は本当に口でそう叫びながら、キャンパスの廊下を脱兎の勢いで逃げ走っていた。

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