15「事情聴取」
💭 🔁 ❤×?179
年配と若い人の、二人組だった。
生徒指導室の真ん中で、長机で以て対面して座る。部屋の隅では、【担任】古井戸先生が、所在無さげにしている。
僕が座るや否や、年配の刑事さんが不機嫌そうにタバコ臭い息を吐いて、
「それで? 君も、三人を殺したのはTwittooの呪いだ、とでも言うのかな?」
大叔父とあまり関係が良くなかった僕は、それだけで委縮してしまう。
「ごめんね」若い方が優しく微笑む。ちらりと手元の書類に視線を落としてから、「物部かるたくん。まず、相曽恵美さんがお亡くなりになる前の出来事を、聞かせてもらえるかな?」
「はい」何処から話したものやら。おおむねの話は既に聞かされているようだ。が、僕と星狩さんが『呪い』に2年4組を『登録』したことは秘密にしておこう。「2日前、急に『いいね❤ × 1時間 = 余命』というアカウントにクラス全員のアカウントが乗っ取られました」
「クラス全員が乗っ取られた……って、君ねぇ」不機嫌な年配と、
「まぁまぁ、田中さん」なだめる若手。「悪いけど、その乗っ取ったっていうアカウントを見せてもらえるかな?」
「はい」言って、Twittooを開いて見せる。「ここ、ヘッダの右肩に余命代わりのいいねの数があって」下へスワイプし、「『favo_min』アカウントによる『ルール説明』というツイートがリツイートされているんです。これは、リツイを削除しても――」実践して見せるも、
ムーッムムッ
即座にスマホが振動。
「こんな風に、勝手にリツイし直されてしまうんです」
「それは、何度も視た」年配が不機嫌そうに言う。「が、肝心のそのアカウントが存在しないそうじゃないか」
「――えッ!?」
「そうなんだよ」若手が自身のスマホを見せてくる。「『favo_min』だったよね?」
「なっ――――……」
ユーザ欄で『favo_min』の検索結果を見せられるも、確かに『favo_min』アカウントが見当たらない。
「で、でも――」僕は『ルール説明』のリツイから辿って、『いいね❤ × 58分 = 余命』アカウントにアクセスする。「ほ、ほら! 存在してます!」
「そんなバカな話が――」
続けて僕は、自分のスマホで『favo_min』アカウントを検索すると、「ほら、ちゃんと出て来ます!」
「決まりだ。やっぱりこりゃ悪質な悪戯だ」年配が、ばんっと机を叩いた。「子供の遊びに付き合ってる暇はないんだ! いいから相曽恵美に関する事だけを喋れ!」
「だ、だって、関係あるんです!」
「何だと!?」
「まーぁまぁまぁまぁ田中さんってば。――ごめんね。話してもらえるかな?」
「はい……昨日の1限目、天晴さんが、残り2つしかない相曽さんのいいねを2つとも外したんです。その途端、相曽さんは元気を失って、自分の席で突っ伏してしまって。天晴さんがどんなに体を揺らしても起き上がらなくって。でも天晴さん曰く、脈はあるとの事でした」
「うん、うん」若手さんが物凄い速さでメモを取りながら、続きを促してくる。
「でも、その数分後――――……相曽さんが、痙攣して」
「どんな風に?」
「直接は見てませんけど、1度だけ、大きく、机が音を立てました。その時に僕、左目に激痛を感じて」
「……左目?」
言うべきか、言わざるべきか。
いや、既に頼々子さんにSOSは出したんだ。捜査には僕の目も必要になるだろうし、学校やクラスにバレるのも、叔父叔母に知られるのも、時間の問題。
安寧の地を失うのは悲しいけれど、命あっての物種だ。
「左目から出血しまして。でも、そういうの、良くあるんです」
「ど、どういう事だい!? 何かの病気!?」
「いえ。それで、僕は相曽さんの方を見ました。そしたら――――……相曽さんが立って、天晴さんを見下ろしていたんです」
「待ってくれ。相曽さんは突っ伏したままだったんだよね?」
「ええ。ですから――」
「死にたての幽霊が、立っていたとでも?」
「……そう言う事です」
「おいおい」
「ぷっ……」
二人同時に噴き出した。
一方の古井戸先生は良く分かっていないのか、茫洋とした顔をしている。
「じゃあ何か? 君には幽霊が見えるっていうのか?」年配と、
「物部くん。悪いけど、今のは流石にふざけ過ぎと言うかさ――」若手。
「それで、インスタ女子――すみません、天晴さんを中心とするグループのスマホが一斉に鳴って。多分、相曽さんのTwittooアカウントをプッシュ通知にしてたんだと思うんですけど、それで相曽さんのTwittooに1分間の動画がUPされていたんです」
「ちょっと物部くん……まぁいいか」若手さんがスマホで動画を再生して見せてくれる。「これのことだね。これは、誰が撮った物なんだい? 君のクラスの男子たちは、誰が撮った物でもない、とか何とか言っていたけど」
「それは本当です」
「悪いけどこればっかりは君たちによる狂言で、相曽さんのスマホから撮影・投稿したと考えるのが自然だ」
「本当なんです! あの場にいた全員が、撮影しているはずの場所に誰も居ない、何も無い事を見ています。本当に、ただ壁と掲示板があるだけでした」
「じゃあ、壁に穴が開いていたのかも」
「だったら出目さんの動画はどう説明すればいいんですか!」
「それこそ、スマホかビデオを屋上から落としたとか? 急なズームなんかでも表現出来るかもしれない」
「
「はぁ?」理解を放棄した顔の年配刑事と、
「――――……え?」理解したのか、明確に恐怖の表情を浮かべた若手。
「ほら、ここ!」出目さんの動画を、画面の上半分が白っぽい物――晴天の下での瞼――で覆われた瞬間で制止させて見せる。「目の中に潜り込んで撮影出来るような機材が、存在するんですか!?」
「いや、後付けで編集したのかも――」
「この動画が投稿されたのは、出目さんが自殺した直後なんですよ!?」
「……い、いや、でも、まさかそんな――」わずかに声が震えている若手と、
「バカバカしい。時間の無駄だぜ。先生、次の生徒さんを連れて来てもらえるかい?」取り付く島も無い年配。
「どうして信じてもらえないんですか!?」僕は怒り心頭だ。こんな無意味な問答で時間を無駄にしている場合ではないのに。少しでもいいねを稼ぐ為に、執筆しなければならないのに。「捜査4課から、話、聞いてないんですか!?」
「はぁ? 何だってマル暴が出て来るんだ?」と年配。
警察庁で刑事部捜査4課と言えば、対暴力団の組織。
「違います! 警視庁の方です!」
警視庁では同課が組織犯罪対策部第4課と名前を変えており、一方、表向きには存在しない事になっている警視庁刑事部捜査4課――通称『死課』は、全国の怪異現象を一手に引き受ける、対怪異組織。
「警視庁にゃ捜査4課は存在しねぇ――――……いや、もしかして、まさか」年配刑事さんお顔色が、見る見るうちに悪くなっていく。
どうやらこの人は、『死課』の存在を知っているらしい。
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