9「アカウント削除」

   💭   🔁   ❤×?027




 思い返せば、もとよりアカウント名は『favo_min』だった。


【インスタ組の金魚の糞その2】出目あゆ「そ、そんな……嫌、嫌ぁぁあッ!!」


【セミプロダンサー】舞姫「ちょっと、あゆったら日和り過ぎでしょ。1時間も59分も変わんないって」


【金魚の糞】出目「だって、減ったのよ!? !? これ、呪いなんでしょ? って事は、私たちを殺すのが呪いの目的なんでしょ!? だったらこの先、数字が減る事はあっても、増えるなんて事、あるわけないじゃない!!」狂ったように演説する。「そうよ、きっと1日経つ毎に1分ずつ減るんだわ。だとしたら、2ヵ月後には……あぁぁ、あぁあぁぁぁああああッ!!」米里くんを指差して、「アンタの所為よ! アンタが、あの子にあんな事言わなければ――」


【お料理YouTober】米里こめざと王斗おうと「あれは! お前らだってウザがってただろうが!」


【金魚の糞】出目「もう嫌ぁッ!! こんな、ゆっくりと殺されていくのなんて耐えられないッ!! そうよ、Twittooのアカウントを消しちゃえば――」


【セミプロダンサー】舞姫「ちょっと、あゆ、止めた方が――」


【金魚の糞】出目「うるさいうるさいうるさいッ! アンタと違って、私にはもういいねの余裕が無いの!!」震えながらスマホを操作し、「あぁ、もう! 上手く操作出来ない」スマホを取り落とす。「あぁ、イライラする――――……出来たッ!!」


 僕はすかさずTwittooを確認する。出目さんを検索しても、出て来ない。

 ……本当に、出目さんのアカウントが消えている。


【金魚の糞】出目「……あ、あははは……あははははッ! 生きてる! 私、生きてる!! ――うっ」急に口を押え、教室から出て行く。


【映えの権化】蝿塚「今の……大丈夫だったって事?」


【セミプロダンサー】舞姫「分かんないわよ、そんなの!」


 いいねの少ない人たちが口々に『アカウント消してみようかな』と言い合うも、踏ん切りが付かないでいるようだ。


【プロ棋士】正岡「先生」挙手する。「体調が悪いので、早退してもいいですか?」


【下種野郎】種田「全然悪そうに見えないんだけど?」


【プロ棋士】正岡「僕は授業を聴く為に学校に来ているのであって、無意味な議論に時間を割く為に学校に来ているのではない」


【下種野郎】種田「あぁん!?」机を蹴り飛ばし、正岡くんに掴みかかろうとするも、先生と蹴鞠くん、陽キャ男子組に押し返される。「てめぇはいいねをたくさん持ってるから余裕かも知れねぇが、こっちは生きるか死ぬかなんだぞ!?」


【プロ棋士】正岡「来週の対局で白星を取らなきゃ、今期の昇級の目が無くなる。僕にとっても、生きるか死ぬかだ。授業が無いのなら、僕は生きる為の研究に時間を使う」荷物をまとめ、颯爽と教室を出て行く。




   💭   🔁   ❤×?027




 議論は【クラス委員長】長々おさながくん主導で行われる。

 ひとまずは、1日につき1人1つ以上呟いて、それを相互にいいねし合うという事で話がまとまりかけたところに、


【下種野郎】種田「分かんねぇぞ? 出目の言う通り、明日には『58分』になってるかもよ」


【エロ垢】江口「やばぃ。それ、いずれウチら死ぬじゃんね。ぴえん超えてマジぱおん」


 無所属でガラの悪いカップルが、ゲラゲラと笑う。

 その笑い声が不快で、僕は窓の外へと視線を向ける。3階建て校舎の、ここは2階だ。


 ――その時、何かが落ちてきた。


 視界の片隅にちらりと映ったソレは、空から降って来るには不自然なほど大きかった。

 外から、一度だけ、重たい音。


【セミプロダンサー】舞姫「ねぇ、今何か降って来なかった?」



 テンテケテンテンテンテンテンテンテン♪



   パパーン♪



      ブーブーッ



         にゃーん!



            (流行のJポップ)♪



         パオーン!



『インスタ女子組』のスマホが一斉に鳴り始める。

 即座にスマホを覗き込む『インスタ女子組』。ただ1人、天晴さんだけは、相変わらず『あーしの所為じゃない』を繰り返している。


【映えの権化】蝿塚「これ、あゆのアカウント!」


 言われて僕も、Twittooを確認する。


 !!


 しかも、『いいね❤ × 59分 = 余命』の『ルール説明』がリツイートされていて、さらに――――……


「1分間の、動画」僕は震える指で、動画を再生させる。


 動画は、この街の風景を映した物だった。建物の屋上か何処かから撮影された映像が、淡々と流れ続ける。

 時折、一瞬だけ画面が真っ白になる。

 動画が50秒に達した時に、動きが生じた。


 カメラが緩やかに90度回転し、

 遠く建物の下――舗装された地面が映し出されて、

 その地面が物凄い勢いでぐんぐん迫って来て、


『どちゃッ』


 という、硬さと粘度を伴った音とともに、動画が終了する。


 僕は窓に駆け寄り、窓を開け、身を乗り出すようにして見下ろす。


 ――果たしてそこには、

 首をあり得ない方向に向けた、

 出目さんが、横たわっていた。


 ぱちんッという音とともに、眼帯の紐が弾けた。


「あっ――」


 眼帯が落ちていく。

 死体の周囲には黒いもやも人影も無い。


 ――――――――不意に、後頭部に強烈な視線を感じた。

 見上げると、すぐ目の前に、こちらを見下ろす顔があった。

 表情を失った出目さんと、目が合った。

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