防衛戦

 大陸北部が魔物の襲撃を受けて大混乱に陥る中。

 大陸北部とアテナ共和国といった神聖同盟主要国を結ぶ海上交通の要を担うアヴディラ王国にも魔物の大群が押し寄せてきていた。


 ここを魔物に陥落させられると、神聖同盟全体の経済に大きな影響を与えてしまう。


 そこで最高司祭パトリアルケータは、修道騎士テセウスとミカエルの二人をアヴディラへと派遣する事を決定した。


 現地にやって来たテセウスとミカエルは、早速アヴディラ王国ティロン王に謁見した。


「いや~よく来てくれた、修道騎士様! 我が国の兵士達もよく戦ってくれているが、魔物のあまりの多さに城壁はいつ突破されてもおかしくない状態なのだ」

 ティロン王は歓喜の声を上げて、テセウスとミカエルを出迎える。


「ここへ来る途中、辺りの様子を確認しましたが、都市の周辺は魔物に完全に取り囲まれているわね」

 一国の王を前にしても、ミカエルは最高司祭パトリアルケータの時のようにへりくだることはせずに、いつものように自然体で話す。


「そうなのです。残念な事に……」


「そういえば、ドラゴンでここへ降りるときに公共広場アゴラに黒い塔が見えたけど、あれはいつからあそこにあるの?」


「あぁ、あれは数日前、朝になったらいつの間にか建てられていたのです。あのような物を一体誰が何の目的で建てたのかは分かりませんが、今はそれよりも魔物への対応に追われていますので」


「分かるわ。でも、あれと同じ物が大陸北部の諸都市に建っている。魔物の攻勢が始まったのは、ちょうどその頃からなの」


「そ、そうなのですか!? では、あの塔は一体?」


「分からないけど、魔導術師が絡んでいる可能性が高いわ」


“魔導術師”

 その名を聞いた途端、ティロン王は目の色を変えて声を上げる。

「で、では、すぐにもあの塔を破壊しなくては! 一体どんな災厄がこの国に降りかかるか、分かったものではない!」


 王直々の要請を受けて、ミカエルは早速黒い塔の破壊に着手しようとした。


 しかしその時だった。

 一人の兵士が慌てた様子で玉座の間へと駆け込んだ。

「報告します! 北部より魔物の大群が襲来! 北門が突破されました!」


「な、何だと!?」

 遂に城壁が突破されて、魔物が都市内部へと雪崩れ込んできた。

 この知らせにティロン王は血相を変える。


「魔物は大通りを通って、まっすぐ都市の中心部へ向かって進軍中です!」


「私達が出るわ! 行くわよ、テセウス!」


「はい、師匠!」


 テセウスとミカエルは、塔の破壊を後回しにして、すぐに都市部へ侵入した魔物の応戦に向かった。



 ◆◇◆◇◆



 魔物の侵入を許してしまった都市北部は正に地獄絵図という状況だった。

 逃げ遅れた民が次々と魔物に食い殺されていく。

 武器を持った兵士達、そして教会の聖霊術師達が必死に魔物を食い止めようとするも、圧倒的な数の前に全滅は時間の問題だった。


「……」


 ミカエルの操るドラゴンの背に乗るテセウスは、その光景を見て思い出さずにはいられなかった。

 かつてトルジナ村にいた頃、自分が守れなかった友達の事を。

 しかし、今はあの時とはもう違う。

 そう。己を言い聞かせて、術式を唱えた。


聖句ミステリオンコード! 火炎弾ファイアーボール!!」


 テセウスの放った三つの炎の塊が最前線で市民を食らおうとしている魔物三体を一瞬にして焼き払う。


聖句ミステリオンコード! 氷水壁ウォーターウォール!!」


 テセウスが魔物の勢いを削いだ瞬間、透かさずにミカエルが魔物と市民の間に水の壁を形成した。

 これで逃げ遅れた市民が魔物に襲われる心配は無い。


「ここから先へは行かせないわよ!」

 ミカエルが剣を構え直して宣言する。


 聖剣の力は相変わらず発動できないミカエルは、それでも巧みな剣技と高度な聖霊術を駆使して魔物を次々と倒していく。

 彼女の隣で戦うテセウスは、どういうわけかミカエルと違って聖なる魔剣ダンタリオンの力が発動できるので、そのポテンシャルを活かして黒い霧で押し寄せる魔物を切り伏せていく。


 しかし、二人の修道騎士の力を以てしても、抑えきれないほど魔物の数は多かった。

 次第に二人は、氷水壁ウォーターウォールを背に背水の陣のような様相を呈していく。


「……テセウス、ここは一時後退しましょう」


「で、でも、師匠!」

 ここで退いたら、目の前にいる


公共広場アゴラまで魔物を引き込んで、あなたの魔剣の力で連中を一網打尽にするのよ!」

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