裸の付き合い
修道騎士団では、新たな騎士が選ばれた場合、先輩騎士の一人が師匠となって修道剣術を指南したり、騎士のあり方を教授する事になる。
「さてと。テセウスの師は誰に務めてもらおうかしらね?」
最高司祭パトリアルケータは、静かな動作で顎に手を当てる。
「はいはーい! 私がやるわ!」
ミカエルが真っ先に名乗り出た。
「め、珍しいね。ミカエル卿はいつも面倒がって嫌がるのに」
ミカエルの隣に立つラファエルは不思議そうに言う。
「何を言うのよ! テセウスはこんなに可愛いのよ! 可愛いは正義! そして正義を守り貫くのが修道騎士の責務! 私はただその責務を果たそうとしているだけよ!」
ミカエルの演説を聞いてラファエルは「なるほど」と言いながら溜息を吐く。
「つまりは可愛いテセウスと一緒に居たいんだね」
「ち、違うわよ! ラファエル、あなた一体何を聞いてたのよ!」
そう言いつつ、ミカエルは既にテセウスを両手でグッと自分の方へ引っ張り、力一杯抱き締める。
もう誰にも譲らない、と主張しているかのように。
その様を見て、パトリアルケータはクスリと笑う。
「良いわ。
「はッ! その命、謹んで拝命致します」
先ほどまでの態度が嘘のように豹変したミカエルは、騎士らしく凜々しい佇まいでその場に跪いて頭を垂れる。
「それじゃあ任せるわね」
「はい! ……それじゃあテセウス、まずは
「は、はい!」
◆◇◆◇◆
「さーてと、これで騎士団が主に使ってる階層の案内は終わったわね。どう? すごいでしょ!」
ミカエルはまるで自分の事のように得意げに語る。
「は、はい。今まで見たこともないようなすごい造りの空間ばかりで、こんなところに住むのかと思うと、今でも実感が湧かないです……」
「まあ、その辺はおいおい慣れるわよ。それよりも、これから私のお気に入りの所へ案内するわ!」
「お、お気に入りの所、ですか?」
テセウスはなぜか悪寒のようなものを感じる。
幸か不幸か。その悪寒は、これから起きる出来事を正確に予見していた。
ミカエルが“お気に入りの所”と言ってやって来た場所は、これまた見たこともないような大浴場だった。
「さーて入りましょうか!」
「え? ちょッ!」
ミカエルは問答無用でその場で鎧を脱ぎ、衣服を脱ぎ捨てると、あっという間に裸体を露わにして湯船へと飛び込んだ。
「ヤッホー!」
子供のような声を上げ、湯船へとダイブすると、湯船のお湯は空中へと巻き上げて、辺りの床をお湯で浸していく。
「ふー。気持ち良いわね」
湯船に身体を浮かべるミカエルは、その言葉通り実に気持ちよさそうである。
気付けば広い大浴場で、他に誰も居ないのを良いことに優雅に泳ぎ出してしまう始末だ。
しかし、ミカエルは急に泳ぐのを止める。
「どうしたの? あなたも入りなさいな」
「い、いや。その、ぼ、僕は遠慮します」
身体を反転させてミカエルの裸体を見ないようにするテセウス。
「ちょっと、何で後ろを向くのよ? 別に恥ずかしがる事は無いでしょ?」
「ぼ、僕は男で、ミカエル卿は女性なんですよ」
「……テセウス、あなたは分かってないわね」
「え?」
「私達は男女ある前に修道騎士なの。人としての生を全て教会と民に捧げた存在よ。男だからとか、女だからなんて考えは捨てなさい」
「……は、はい」
ミカエルの言う事は尤もだ。
そう思いつつも、テセウスは恥ずかしさを捨てられない。何せ女性の身体をまともに見るのは先ほどのダンタリオンの本体を除けば五年ぶりなのだから。
身体はすっかり思春期の男の子で、五年間も鉱山奴隷として女性に縁の無い日々。
テセウスの心も身体も女性への免疫をすっかりと失っていた。
「もう焦れったいわね! ここは師匠が手伝ってあげるわ~」
悪魔のような目をするミカエルは、湯船から飛び出してテセウスを押し倒す。
そしてテセウスの身体に馬乗りになり、そのままテセウスの来ている衣服を強引に脱がせ始める。
「ちょ、み、ミカエル、卿」
「大丈夫大丈夫。何も怖い事は無いから、安心して」
優しく言いつつも、ミカエルの表情は悪魔のような笑みを浮かべている。
テセウスを恐怖のどん底に追い落とすのに充分なほどに。
テセウスが恐怖で固まってしまう中、ミカエルは衣服を順調に脱がしていき、最後の砦である腰の下着を一気に引っ剥がす。
「え?」
「あら。やっぱりあそこはちゃんと付いてるのね」
「うぅッ。……キャアアアアアアアアアッ!」
女性のような悲鳴が大浴場に木霊する。
そして、
パチンッッ!
テセウスの右手が反射的に、ミカエルの頬にビンタをお見舞いするのだった。
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