シーン 7

 今夜は夕食を済ませて、子供たちはそれぞれの部屋にこもってしまった。食卓ではお父さんが独りプレートで肉を焼きながらビールを飲んでいる。お母さんは風呂にでも入っているんだろうか。俺はその光景を少し離れてなんとなく見つめていた。

 つまらないので、かまいたくなったのか、肉のかけらをこちらに差し出して、「ほいっプチ」と言って珍しく触れ合ってきた。俺はもちろんミャーとお愛想を言いながら足元に駆け寄ってむしゃむしゃと食べた。うまかった。この人は普段俺が何を食べているのか知っているんだろうか。とか思いつつ。


「うまいか」と言いながらもうひとかけくれた。次にくれたのはにんじんのひとかけだった。それもとりあえず食べた。肉の匂いもしたし柔らかいし、まあまあかな。すると次もにんじんだった。我慢して食べて、もうこれ以上はたまらんと思って、その場を離れた。「そうか、お前もにんじん食べるんだ」とか勝手なこと言いながらビールを楽し気に飲んでいた。


 その時、お母さんが頭からタオルをかぶって部屋に入ってきた。すぐさま、「臭いこもるから窓開けてよね」といいながら、ベランダ側の窓を開けて、「ああいい風が入ってくるわー」と夜空の月を見ていた。するとお父さんがその場しのぎかもしれないが、「プチがにんじん食べるんだぞっー」と・・・なんてこと言うんだ。そんなこと、植え付けたら次の日からの俺のご飯がにんじんになってしまうかもしれないんだぞ。じょうだんじゃぁないよう。俺は肉が好きなんだよぅ・・・。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る