第12話 支配せし者
「どうなってんだ……!?」
バラバラになり崩れ落ちるゴーレムと、いきなり現れた謎の少年。
想定外の事態に勇者は戸惑う。
そんな彼のことをジロリとアルデウスは睨みつける。
「俺のものを随分可愛がってくれたみたいだな、利子つけてお返ししてやるよ」
「……誰が来たのかと思えば、ただのガキじゃないか! どうやってゴーレムを倒したのかは知らないが、俺にはまだたくさんの戦力があるんだよ!」
勇者は
十体のゴーレムを起動し、アルデウスのもとに差し向ける。
一対十。その戦力差は歴然だがアルデウスに焦りは見られなかった。
それどころか後ろに下がらせたクロエを案じる余裕すらあった。
「俺がやる。少し休んでろ」
「はい……♡」
まるでヒーローの如く現れた主人の背中に、クロエは熱い視線を送る。それを知ってか知らずか、アルデウスはいつもより素早く的確に魔法を構築していく。
「術式展開、
現れたるは五枚の光剣。
迷いなく発射されたそれらはゴーレムに一直線に飛んでいく。
「無駄無駄ァ! そんなチンケな剣で何ができる!」
ゴーレムは、硬い。
特殊な土を魔力によって固めることにより、ゴーレムの体は岩以上の硬度を持っている。生半可な剣では斬るどころか剣の方が折れてしまうだろう。
しかしそんなこと、アルデウスは百も承知であった。
「ここに来る途中、置いてあったゴーレムを調べさせて貰った。確かによく出来てはいたが……俺から言わせればまだまだ杜撰だったぜ」
アルデウスは光剣を操作し、ゴーレムのある場所を狙う。
その場所とは、膝関節部。正確に膝を突き刺した光剣はその硬いボディを容易く両断し、ゴーレムたちを続々と歩行不能に追いやる。
「確かにゴーレムは硬い、
アルデウスの分析は当たっており、ゴーレムは関節部に大きな欠陥を抱えていた。
勇者もそのことには気づいていたが、ゴーレムの力を過信し、欠点を改善することよりも量産することを優先してしまった。
その結果、弱点を突かれ十体のゴーレムはあっという間にただの土の山へと変貌してしまう。
「ほい、一丁あがりと」
「馬鹿な……!?」
重なる想定外に勇者の心は大きく揺らぐ……が、まだ彼は諦めてはいなかった。
(まだだ、まだゴーレムはたくさん残っている!)
勇者は気を取り直すと、指先から魔力の糸を出し、アルデウスの後ろにいる起動してないゴーレムに向けて伸ばす。
(背後から襲って女を奪う! そうすればあいつも攻撃できないだろう!)
アルデウスのすぐ横を通過する不可視の糸。
勝ちを確信する勇者。しかし
「ん? なんだこの糸」
アルデウスはむんずとその糸を掴んでしまった。
「は、はああっ!?!!??」
驚愕する勇者。
それもそのはず、その糸は目視できないほど細く、魔力探知が効かないほど少ない魔力で動く。とても常人では観測できない。
しかし魔法を愛し、研究し続けることで魔法への理解、感知能力が鍛えられたアルデウスの眼を誤魔化すことは出来なかった。
「ぐぎぎ、返せ……!」
勇者は糸を手元に戻そうとするが、アルデウスはそれをしっかり握って離さない。勇者は綱引きのように両手で糸を持つが、糸はビクともしなかった。
「なんだかよく分からないけど、この糸がお前の能力の肝みたいだな。解析させてもらうぞ」
握った糸に魔力を流し、アルデウスは解析を始める。
「ふむふむ……へえ。これがお前の
「貴様、何でそれを!?」
「
「な、何を言ってんだお前……」
アルデウスの言っている意味がわからず、勇者は困惑の表情を浮かべる。
魔法への理解が浅い彼ではアルデウスの言葉の意味を理解することは出来なかった。
そんなことを言っている内にアルデウスは
「くく、これはいい魔法だな。実に俺
邪悪な笑みを浮かべたアルデウスは空いてる方の手でグラムナイフを握ると、勇者と繋がってる側の糸を斬る。
――――そして残った糸に自分の魔力を流し込む。
「魔力波長同期開始。解析済構造式参照。
相手の魔法を乗っ取り、自分の物にするなど普通は出来ない。
智王と呼ばれる最強の魔導士ネムですら容易ではないだろう。
しかし現実世界での知識が、異世界での努力と情熱が、彼にそれを可能にさせた。
「
「うん……いい具合だ。それじゃあお披露目といこうか」
そう呟き、アルデウスは早速その術式を発動する。
「術式発動、
指先から高速で不可視の糸が発射され、ゴーレムたちに突き刺さる。
そしてその糸を通して流れる魔力によりゴーレムたちは起動する。新たな主人の命令に従うため。
「ば、馬鹿な!? なんでゴーレムが俺以外の言うことを聞くんだ!?」
「くく、セキュリティがザルなんだよ。パスもかけずにいたらそりゃ乗っ取り被害にあうだろ」
アルデウスは勇者を嘲笑する。
能力の強さにに胡座をかいていた奴に負けはしないと言うように。
「さあて行くぜ
新たな力を手にしたアルデウスは、邪悪な笑みを浮かべながらその力を振るうのだった。
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