第5話
その言葉の通り、翌日にはもう、話を進めてほしいと言う返事がきたと、河村から電話があった。
父は喜びながらも、嫁入りに持たせる拵えに悩んでいた。父母は、家を買うために貯金を全部はたき、ローンも組んでいた。河村は、拵えに悩んでいるこちらの事情を先方に伝えたようだった。
「先方さんは、お道具は、先代、先先代からの物が沢山あるので、箪笥の一つも要りません。どうぞ、身一つで来て下さいと言っております。御着物も結婚してから買っていけばいいことですし、ご自分の若い時のが沢山あるので、仕立て直せば困りませんとおっしゃいました。当座着るものだけお持ちくださいということですから、この際、お言葉に甘えてそうされたらどうでしょう」
父母は悩んだ末に、借金を重ねることもできず、結納金だけは辞退させていただいてという条件で交渉してもらった。先方は結納金なしというのは、あまりにも寂しいので、百万円だけは受け取ってほしいといい、お受けすることになった。母は留袖と喪服だけ用意するにとどめ、百万円を郵便貯金にしてミモザに持たせた。
母はあまりにも早い結婚に何の準備もしていないことを、ミモザにわびた。
「ほんとうにすまない。進学もさせず、お勤めもできず、私の犠牲になったうえに、何の拵えもできなくて。でも、家にじっといたことが、金のように得がたい宝だと見られたのだから、お母さんにはそれが、唯一のなぐさめだわ。ミモザへの罪滅ぼしができたように感じるの。ミモザが普通の子のようにボーイフレンドを連れてきたりしないのが、私の病気のためと可哀想だったけれど、これでよかったんだわ。あんな立派なおうちにもらってもらえるし、あなたも、なんの引け目もなく、隠すことの一つもなく、勲さんのしてくれることを、黙って受け入れていれば、きっと幸せになれると思うの。初めてのことで、びっくりするかもしれないけど、そこは勲さんがなさることにじっと身を任せていればいいのよ。男の方は優しいから、信頼して貴女はじっと男さんのなさることを、受け入れていればいいのよ」と言った。
ミモザはその言葉が恥ずかしく、話をそらすように、
「私お母さんの犠牲になったなんて全然思っていないから、気にしないで・・・。あんなにお父さんが電話で自慢そうに私のことを岩手の伯父さんにしゃべってるの、聞いたことないもの。私お父さんの期待に添うように、勲さんに好かれるようにするわ」
身分違いの格式の高い家に貰われたことを、ミモザの結婚以来二十年以上も誇りにしていた父が、今どのように落胆しているかと思うと、熱に浮かされたように竜道と愛をむさぼり合っていた気持に水をさされたようになって、ミモザは竜道から遠ざかるように、部屋の隅のソファーに一人で坐った。竜道はそんなミモザの心に気づかず、
「明日は、後楽園によって、それからミモザの好きそうな夢二美術館を見て、それから淡路島に渡ろう。そうと決まれば、さあ、二人でシャワーを浴びようよ」
と、手を引くのだった。屈託のない、ミモザ欲しさ一筋の強引な竜道の誘いに、父への心配が小さくなり、竜道に引かれるまま、浴室で体を寄せ合いシャワーを浴びた。『竜道さんは、日本一の男よ』と、はしたなく思考をめぐらせ、笑いかけた。
竜道はミモザの気持を何処まで理解しているのか解らないが、
「ほら、こうしてパンツは捨てればいい。ミモザは洗って干してるみたいだけど、こうやって捨てていいんだよ。また買ってやるさ」
といいながら、パンツをぐるぐる巻きにして、ビニール袋を鞄から探し出し、屑篭にぽんと投げ入れるのだった。
はしたない竜道の行為に遭遇したミモザだったけれど、自分も少し前「日本一の男よ」などと蓮っ葉なことを思ったのだから、同罪だなあと考えている。イーコール、イーヴン、ふさわしい女、などとという言葉が頭の中を渦のようにまわっていると、竜道はミモザをベッドの中に引きずりこみ、
「今何か考えているね。何考えているか教えてよ」
と言いながら、抱きしめてくる。
「何も考えてないのよ」
「嘘だ。陽一君のことが心配なんじゃないか?」
「大丈夫よ。じゃ、白状するわ。竜道さんが日本一の男だって思っていた」
「ミモザは可愛い奴だ」
二人は互いに見つめ合って、ふふふと含み笑いし、深い深い世界に陥っていった。
ミモザは、深い肉体の快感に満足して竜道のそばに横たわっていた。
あの時、竜道が自分を誘ってくれなければ、きっとあのままの生活を続けていただろうと思っていた。
若奥さんとして近所の人には一目置かれながらも、その実、うちのなかでは実権が姑にあって、子供のようにお金も自由にならず、使用人よりかは一寸高い地位という位の所で、陽一の成長を楽しみに一生を終えていたにちがいない。
陽一を身ごもった時、姑は、ミモザにさりげなく注意した。
「ミモザさん、安定期に入るまで、セックスというのですか、そういうのは慎んだ方が・・・。私がそれで最初の子を流産してから、流産ぐせがついて、勲をお腹にとめておくことに、とても苦労したのです。あの時、お父さんをとめられなかった私が悪かったのだと、あとでずっと後悔しました。勲にもこのことは、言い聞かせておきますが・・・」
ミモザは恥ずかしさで一杯になり、返事もせずにその場を離れた。
勲は流産を恐れてか、陽一が生れるまでミモザに近づかなかった。陽一が生れてからは、ミモザの肥立ちが悪く、なんとなく間遠になって月日が過ぎていった。ミモザはお茶やお花の助手を務め、陽一の養育は姑が取り仕切っていた。とはいえ、学校までは祖母が母を差し置いて出るわけにはいかず、PTAの活動などで社会に出た気分になり、自分の充たされていない性には気づかずにいた。
竜道と学校で一緒に仕事をしていたとき、竜道の白いスーツ姿にうっとりとなった。上下真白の夏のスーツをこんなに粋に着こなせる人がいるのかと、そのかっこ良さに目を見張ったのが、竜道に引かれ始めた最初だった。ミモザは若い娘が、手の届かない歌手などに憧れるように、竜道に憧れていった。竜道はいつも、若い母親に取り囲まれて、お茶をしている。その時のお金の払いっぷりの良さもミモザを惹きつける要因だった。竜道はお茶に必ずケーキをつけ、それも一つといわず、二つくらいはお食べなさいと勧めるのだった。
容姿と金使いの気風のよさ、この二つに惹かれていった心の奥底に、充たされない女の性というのが、うごめいていたとは、ミモザにはわかっていなかった。再会してメールのアドレスを教え、しばらくは喫茶店で雑談するだけの日々が続いていたが、ある時誘われてホテルについて行ったときから、ミモザの身も心も一変してしまった。父や母や勲や、陽一までもが、ミモザの心から転げ落ちてしまった。
すまない、申し訳ない、許して下さい、と心で叫びながら、ミモザは竜道の胸に顔を埋めて行くのだった。
翌朝、ミモザは倉敷のブティックで竜道に買ってもらった淡い空色のツーピースを着て、ベンツに乗り込んだ。家を出る時に着ていたピンクの洋服を脱ぎ捨て、ブルーの洋服に替えたのは、汚れてきたからでもあったが、竜道が、有馬で泊まった最初の日に窓から見た淡いブルーの空を心に留めていて、記念のためにミモザにその色の洋服を着てもらいたいと言い出したからであった。ショーウインドウに思い通りの空色の洋服を見つけて、竜道はミモザを促した。値札に九万八千円という数字を見たとき、ミモザはしりごみした。
「これは思い出なんだから安いものよ。初めて夜を共にすることができた最初の日の空の色なんだから。さあ、入ろう」
竜道に肩を押されて店に入った。ミモザが試着している間、竜道が店員に、
「この帽子もあの服にマッチするよね」
と話している。
ミモザは勲と見合いする為に母に連れられて、デパートに洋服を買いに行った遠い昔を思い出した。母はミモザの若さと美貌だけが相手に気に入ってもらえるよすがだと必死で子供っぽく美しくみえる洋服を探した。ミモザもまだ見ない相手であったけれども、想像したこともないような大きなお寺の息子さんというだけで、夢がふくらみ、両親の期待に浮かされるようにして、相手に気にいられたいと思っていた。年が違いおじさんのように見えても、自分を選んでもらえたら、愛されるように持っていきたいと希望で胸がいっぱいだった。試着室の戸をあけて外に出ると、
「まあ、可愛い」
という店員の驚きの声があがった。母も満足し、ミモザも得意だった。勲もお人形のようにかわいかったといい、ミモザはその洋服をずっととっている。
陽一が四歳になったとき、姑はもう一人孫が欲しいと言い出し、
「陽一は私と一緒に寝かせるから、ミモザさんは勲とゆっくり寝てくださいね」
と言ってミモザから陽一を取り上げた。ミモザは昼間はほとんど姑が世話をしている息子だから、夜だけは自分のところに帰ってきて欲しかった。
「あなた、お姑さんに、陽一を返してくださいってお願いして」
と勲に頼んだけれど、勲はあいまいな返事しかしない。
「ねえ、あなた、私とお見合いした時、ほんとに可愛くて少女みたいで、一目で気に入ったって言ってくださったでしょう。でも、あの時、もしお姑様が反対なさったら、私と結婚してくださらなかったんでしょう」
と言っても、反応がないので、
「ねえ、答えて。きっと結婚してくれなかったわよね」と詰め寄ると、
「いや」
と一言言って、本堂の方に行ってしまった。
あれから二十五年近い歳月が流れて、同じことを繰り返している。勲に気に入られる為に洋服を選び、今度は竜道に愛されようと、竜道の気に入った洋服を買ってもらおうとしている。いずれのときも、嬉しさで胸が膨らんでいる。ミモザはフィッティングルームの鏡の前で姿を整え、ドアをあけてポーズをとって、竜道に見てもらおうとした。
「ワォッ」
とまるで外人のような歎声を竜道があげた。
「まあ、奥様よくお似合いですわ。先ほどのピンクもよくお似合いでしたけど、このブルーも、とても清楚な感じですわ」
とすかさず、店員がほめた。
「な、よく似合ってるよな。さっきの帽子、あれを渡してみて」
と、竜道は店員に得意げに話しかけ、ミモザに帽子を被らせた。帽子を被ったミモザを見て、
「気品がございますよね」
と店員はほめ、竜道は帽子も買った。ミモザは洋服の高いのにも後込みしたのに、帽子にさらに三万円も払っている。それもキャッシュでぽんと払った。大丈夫なのかしらこの人と心配しながらも、竜道の愛を素直に受けなければ、嫌われてしまうような気がして、大きな買物袋を提げて、竜道と歩いた。
その淡い空色の洋服に身を包み、助手席に乗り込んだミモザの膝を撫でながら、竜道は、
「夢二美術館に先に行ってから、後楽園に行こうね」
と言った。ミモザはその竜道の手をとってキスし、
「あなたの言う通りでいいわ」
と答えて、竜道の手を押し返した。
ベンツは滑るように走り出した。
『竹久夢二郷土美術館』で車を降りて、こじんまりした洒落た大正風の建物を見たとき、お寺の重苦しい屋根の下で暮らしてきた二十数年から解放されて、今、自由で行動的な生活が始まるのだという思いが湧いてきた。竜道はミモザ中心に動いてくれる。ミモザが手を伸ばすのも、脚を伸ばすのも、伸ばした両手を竜道の首にかけて甘えてみるのも、全部嬉しそうにして受け入れてくれるのだ。夢二が描いている美人画の数々を眺めながら、竜道にずっと愛してもらうためには、今のほっそりとした体型を保って、涼しげに清潔に装っていかなければならないとミモザは思うのだった。
館を出て後楽園へと運転しながら、竜道は、
「夢二って、艶福家だったんだね」
と、話してくる。
「エンプクカ?」
「ほら、ドンファンさ。女をいっぱいものにしてよ」
「あら、そんなふうに言ってしまったら、いやらしい男になるわ。恋多き方だったのよ」
「恋多きか・・・。おれはミモザ一辺倒だ」
「今にも先にも?」
「うーん?うんうん。今までだって、これからだって」
「竜道さんはもてるタイプだから、今までって言うのは信じないわ」
「だったら、ミモザだって、可愛くて綺麗で、花にたとえれば、白百合でありながら、牡丹の派手さ豪華さをも持っている素晴らしい女じゃないか。その上女らしくてやさしいし、こんな素敵な女が、旦那だけに独占されていたのかい?妬ましいよ」
ミモザは、その言葉に触発されて、勲が自分をあまり可愛がってくれなかったことを、思い返していた。陽一を生んだ後、乳腺炎で、痛んだり熱が出たり、出血もいつまでも止まらなかったり、気持もブルーになって、姑がミルクを飲ませてくれるのをいいことに、寝たり起きたりしていた一年間で、勲はすっかり遠ざかって行った。それでもまだ第二子が期待できる四十前までは、姑の希望もあって、間遠だが触れてきた。だが勲が五十の半ばになってからは、同じ部屋で眠っているミモザのことは忘れてしまったらしい。夜遅くまでライフワークの経典の研究をして、一時ごろ寝室に戻ってくると、すぐ寝てしまっていた。
ミモザはそのことが、異常なのか、普通なのかわからないし、自分に欠けたものがあるというようにも感じないで、日常の雑事をこなして、これでいいのだと感じていた。けれど、竜道の真白の夏のスーツ姿に魅せられ、憧れを覚えたのを起点として、あっさりと竜道の誘いに自ら進んで付いて行った経過を考えあわせると、ミモザの体の奥深いところで、求めるものがあったにちがいない。だが、ミモザはそのことをはっきりと認識しているわけではなく、竜道さんはかけがえのない人だわ、姿を見ているだけで惚れ惚れするし、自分のためにお金を惜しまず使ってくれるのも、自分を愛している証拠なのだと、竜道に愛されようと一心なのであった。
後楽園の駐車場を出ると、竜道は三五〇ミリリットルのビールの缶をひと缶とノンアルコールビールを2缶買い、おにぎりと「柿の種」も買った。
そして、
「ゆっくりお花見しようよ。天気もいいし。この季節はいつも忙しくてね。転勤や新入の大学生が多いから、お花見をしている暇がなかったんだよ」
と竜道は言う。
「そんな忙しい時季に、奥様怒っているでしょう」
「もうワイフのことは、諦めている。『ろくでなし。出て行け。これはお父さんが一代で作り上げた店なんだ』って、箒を振り上げたんだから・・・」
「まあ、強い方」
そう呟きながら、ミモザは自分のためにそんな屈辱までうけた竜道に申し訳ないと思った。同時に、こんなに大切な竜道に箒を振り上げて、「出て行け」と言える妻の確乎とした立場に強い嫉妬を感じた。ミモザは竜道を絶対に妻の元に返さないと、竜道の腕にそっと自分の手を通し、腕を組んで歩いた。
竜道の妻が竜道をたたき出してくれたら、竜道は自分のものになる。勲は自分をどうするだろうか?姑は面子を大切にする人だから、自分をたたき出すだろう。八十歳を過ぎた今も姑は頭もしっかりしているし、気力体力も衰えていない。ミモザなしでも、近所の奥さんに掃除や洗濯を手伝ってもらいながらやっていくだろう。
陽一は? 陽一は? どうしている?
ミモザは後楽園の池の端を歩いていた足を止めてしまった。
「どうした?ミモザ」
と、組んでいた腕をほどいて竜道も立ち止まった。
「ああ! きれいじゃないの。この池と青い芝生。深呼吸して、存分に空気を吸いたかったの」
と、竜道を傷つけないように、ごまかした。
「じゃ、ここで大きく深呼吸しよう」
竜道はビールの入ったビニール袋を石のベンチの上に置くと、池に向かって、ラジオ体操のように大きく手を上げて深呼吸した。
「ミモザ、君も。ほれ、大きく大きく」
どこまでも子供っぽい竜道の様子に、笑いが戻ってきて、ミモザも竜道と同じように深呼吸した。
竜道は遠く真っ盛りの桜の花を指さして、
「あの辺で、空いた桜の木の下を探して、ビールを飲もう」
と誘った。桜の花に吸い寄せられるように、大勢の人々が、木の下に集っている。青い池の水、芝生の緑、桜のピンク、広く開けた視界。ミモザは屈託を忘れて、竜道の腕に手をかけて、寄り添って歩いた。
土曜日ということもあって、木の下はほとんど家族や仲間の集団で、陣取られていて、空いている所が見つけにくかった。竜道は、一つだけ空いた所を見つけて、売店で余分に貰ってきたビニールの袋を敷いて、木の下でお花見をしようとした。ミモザは水色の洋服が汚れるからと、ベンチに腰をおろした。
「竜道さんが折角買ってくださったのに、大切に着なければ。私とても気にいってるの」
「よく似合ってるよ。淡い色が似合うってのは、品がある証拠だ。ワイフなんか色黒なので、紺やらダークブラウンばかり着ているよ」
「奥様にも買ってあげるの?」
「とんでもない。あなたと私のセンスは正反対ですって、怒られてしまうのだ」
「竜道さんはセンスがいいと思ってるわ。いつか着ていた夏の真白のスーツ、私の大好きな服だわ」
「ああ、あれ。あれなんか、きざだって、ワイフにさんざん怒られたよ」
「この夏、あれを着て、二人で外出してみたいわあ。でも、もう、持って来れないわね」
「今度はミモザに選んでもらって買うよ」
竜道もベンチに坐って、ビールの缶を開けてミモザに渡し、自分の分の缶も開けた。
「桜のように美しいミモザに乾杯」
「あら」
ミモザと竜道は、ふざけ合いながら乾杯した。
ミモザは竜道が美しい美しいと言ってくれるのが、心の底から嬉しかった。勲も「可愛いよ」と新婚の時は言ってくれたが、いつのころからか、言わなくなった。でも、心の中では可愛いと思ってくれている、昔風の環境で育って、いい年をしてそんなことを言うのははしたないし、言わなくても通じているのだと思っているんだと考えていたけれど、竜道がずっと可愛いと言いつづけて、有馬以来ずっと触れつづけていてくれるのと比較してみた時、勲は何故だか知らないが自分が欲求を感じなくなった時点で、ミモザのすべてに興味を無くしてしまったのだと思えてしまうのだった。私は私としてなんら変りはないのだけれど、勲にとっては私はもう魅力のある女ではないのだ、と思った。ミモザが嫁いだ時には、姑は五十七歳であったけれど、体型もくずれていず、整った顔からはまだ華やかさが匂っていて、色白で品があり、活花で鋏を使う時の、細っそりとした指など、見とれてしまうような美しさだった。勲にとっては母を超える女性はいなかったに違いない。父親のいかつい顔とずんぐりした体つきを受けついでいたから、母は理想の存在であったのかもしれない。
竜道は大学出の気の強い妻の所に婿入りし、ひょっとしたら、夜も、妻に弾き飛ばされているから、こんなに私を可愛がってくれるのかもしれない。妻にとって竜道さんがどんなに駄目な存在でも、私にとっては竜道さんは、いつもちやほやしてくれて、私を放したくないというようにいつも身近に引き寄せていてくれる大切な人なんだわと、ミモザは少し酔った頭で考え、竜道から目を放さない。
二人の耳から、花のしたの人々のざわめきは消えて、花の精がミモザに降りて来たように、静かに華やかにミモザは竜道とビールを酌み交わしている。しばらくすると酔いがまわってきて、ミモザは竜道の胸に顔を預けて短い時間まどろんだ。
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