打上花火

漆目人鳥

第1話 祭り

「私の名前はコオリノマコト」


 女がそう名乗るのを聞いて俺は、はっとして「俺は大山ユウジ」と名乗り返す。

 するとコオリノさんは、幽玄さすら漂う白い肌をした小首を小さく傾けながら、知的に赤い唇の口角を少し上げた。


「どうですか?ユウジさん。この浴衣。似合いますか」


 そういって彼女は、俺に浴衣を披露するようにくるりと回ってみせてくれた。

 黒髪のベリーショートボブが、さらりと揺れる。

 浴衣は、黒地に大輪の白百合の花がいくつも踊る柄で、その有様はまるで、漆黒の中でコオリノさんを称え崇め咲き誇っているようだった。 

「お祭りだというので着替えてきました」


 そんなコオリノさんの言葉に、俺は再びはっとなり、自分が彼女の姿に見とれていた事に気づく。

 まわりからは、賑やかな祭り囃子と太鼓の音が聞こえていた。

 コオリノさんの後方、少し先には露店の賑やかしい明かりの一帯が見える。

 暫く、事の状況を把握しようとしてぼんやりまわりを眺めていた俺は、自分の姿に目を落とし、次の瞬間、声が出せないほどぎょっとしていた。

 ナゼ、俺は上下黒のジャージ姿なのだ?

 さっきコオリノさんは、わざわざ浴衣に着替えてきてくれたと言っていた。

 しかも、めちゃくちゃ気合い入っているじゃないか。

 なんか、チェーンのたくさん付いた銀のタッセルピアスまでつけてるし。

 なのに、俺は上下黒のおっさんジャージ。

 いや、おっさんであることに間違いは無いのだが、それにしても。

 今日日、いや、かなり前から、高校生だって女連れで祭りにジャージでなんか来ないぞ。

 知らんけど。

 とにかく、変な汗が出てくるくらい恥ずかしかった。

 せめてもの救いは、履いていた靴がつい最近買ったばかりの、もの凄く高いウォーキングシューズって事だった。

 

 「そろそろ行きませんか?花火、始まっちゃいますよ?」

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