かなざくらの古屋敷
中岡いち
プロローグ (修正版)
夕暮れの始まり。
微かに空の色が沈み始め、夜の訪れを告げる時間。
そんな時間が、私は一日の中で一番好きだった。
細かな砂じゃりの道。
まあ、車二台ですれ違えなくもないような幅。
道端の雑草の不規則な広がり方が、不思議と嫌いではない。
排水路の鉄の網にも砂が被り、決して常に誰かが管理しているような所でもない。
もっともスカートやヒールを滅多に履くことのない私にはあまり関係ないが。
昼間でも人通りなどほとんどない山沿いの集落だ。集落とは言っても転々と建物がある程度。
小さな街灯がそんな集落の道路を照らしているが、そんな淡い照明など必要ないくらいに、今夜は月明かりの主張が激しい。
まだ空は水色とオレンジ色が混ざり合う頃。それなのにすでに月明かりの存在を感じる。
いつも無駄に大きな屋根の家の前を通るが、その家に暮らす人の顔を見たことはない。小さな窓から灯りが漏れていた。もちろん誰かは暮らしているのだろう。しかしあまり興味はない。
各家と家には結構な距離がある。短くても歩いて五分。隣の家の騒音には縁のない人たちが暮らしているエリア。街中の住宅地とは違う。何せこうして家の敷地から外に出ている私ですら人に会うことがない。三日に一度はこうして散歩していても、だ。
大きな屋根の家の向かいには、道路を挟んでなぜか孤立したような大きな木。飾り付けをすればクリスマスツリーにちょうど良さげな木だといつも思っていた。
別に急ぐ必要もない、いつもの夕暮れ。
この近辺を毎日のように散歩しているが、思えばアスファルトに舗装された道路をしばらく歩いていない。
砂利、土、草の上。
歩きやすくはないはずなのに、なぜか足に優しく感じるのはなぜだろう。
不思議と歩いていて楽だ。
以前暮らしていた所では、運動不足のせいか、少し歩いただけですぐに息を切らした。
しばらく歩き、周りに建物が無くなった頃に現れる私の家は、残念なくらいに古い。
しかし私にとっては新しい我が家だ。
裏の竹林も含め、土地自体は広いようだけど、明確な範囲は私自身把握してはいない。
買ったのは春。
いい季節だった。
土地と建物込みで四五万円。諸々諸経費も入れても八〇万くらいだったけど。
安いのも当然の古さ。しかもしばらく放置されていたんだろうと思う。全てに於いて荒れ放題という言葉がしっくりきた。正直、掃除が大変だった。初日は寝る場所を確保するのがやっと。しかも寝袋だった。
それでもワクワクしたのを覚えてる。
台風でも来たら簡単に飛ばされてしまいそうな屋根と壁。いや、ただの強風でも危うい。壁の板に雨が染み込んだらどうなるのか。脆くなるのか、もしくは重くなるのか。古い一軒家に暮らすようになって、まさかそんなことを考えるようになるとは想像もしなかった。
断熱材入りの壁などであるはずがない。ただの板だ。大黒柱など、どれのことなのかも分からない。雨の降る日は、雨音よりも雨樋が揺れる音の方がうるさい。その内に外れてしまわないか心配だ。
唯一立派と思えるのは屋根の瓦だろうか。安っぽいトタン屋根ではない。そこだけはしっかりとしているようだ。もっとも瓦に詳しいわけではないし、何より屋根に登ってじっくりと眺めてみたわけではないが。見たところで分かるわけでもないので、なんとなく放っておいているのが実情だった。
雨漏りがない限りは居住スペースの整備が優先だ。
平家とは言っても一人で暮らすにはかなり広い。もちろん古い日本家屋だけあって、襖で仕切ることも出来ながら大部屋にすることも出来た。ユーラシア文化とは対局を成す文化の一部。
リビングと言える広い部屋から庭へと続く縁側は自慢の場所だ。
とりあえず防腐剤なるものを塗ってから塗装。楽しかったが、自分で手をかけたリフォームと言える部分はまだそこだけ。
春に決して小さくはない庭の雑草整備から始め、夏には様々な花を咲かせてくれた。一応敷地の前にある道路との境に竹で組まれた柵があったのでそのまま流用したが、あまり目隠しにはなっていない。それでもここに来るのは宅配便の中型トラックくらいなものだ。例え夜でも不便に感じたことはない。
三二才のうら若き乙女が言うのだから嘘ではない。
庭に隣接する門替わりの二本の木はそのままだ。木の種類も分からずにそのままにしていたが、枝幅も狭く、この季節でもそれほど葉の数を変えない。常緑樹というものなのだろうか。
庭には虫除けにミントでも植えてみようかと考えたが、繁殖力が高そうなのでやめた。今は庭に薄めた木酢液を撒くことで凌いでいる。まだ効果の程はよく分からないが、どうやら殺虫剤のように即効性のある物でもないらしい。おかげで今年の夏は蚊取り線香の香りが妙に気持ちを落ち着けた。夜に明々と電気を点けるのが苦手なのでそれほど困らないが、古い日本家屋に網戸と蚊取り線香はワンセットであることを学んだ。他にも色々と虫除け対策はしてみたが、風通しのいい我が家でどれだけ効果があるのか微妙なまま、今年だけで消え去りそうなものがほとんどだ。とりあえず木酢液だけは大量に買い込んだ。
そして今は秋。
しだいに気温が下がりつつあるところに、一末の不安を覚える。
いや、一末どころではない。夏にエアコンの必要性を感じないほどに風通しを考えて作られた建物。メリットは床下を含めて湿度が籠らないこと。これは重要なことだ。それがこの家を何十年も家として存続させてきた理由なのはよく分かる。
しかし同時に、冬の寒さに対してはどうなのか。豪雪地帯というわけではないが、ここにもそれなりに雪は降る。さらにそれなりに積もるらしい。気温も朝晩は氷点下。
二一世紀になって三二才が凍死の心配をするとは、国会で居眠りをするだけの政治家には想像も出来ないことだろう。そんなわけで、最近はアウトドア用品の冬キャンプ特集をネット通販で眺めるのが楽しい。
大きな仕事でも舞い込めばリフォームでもするのだが…………せめて憧れの薪ストーブを設置するくらいでいいから稼ぎたいものだ。残念ながら安くはないようだが。家の裏の林にはいくらでも枯れ枝が転がっているので、薪ストーブの火に困ることはないだろう。しかし肝心の薪ストーブは無い。
そろそろ仕事が来ないだろうか…………この山の中に引っ越してから半年近く。未だ相棒は仕事を持ってきてくれない…………自分で探せる仕事なら良かったのだが…………。
☆
「ここはやはり真剣に聞いてもらう必要があると思う」
テーブルを挟んでいるとは言っても、反射的に体を仰け反らした
「……大体想像出来るけど…………何をよ」
「最近は月に一回くらいでしょ? 私はもう少し
身を乗り出したままの
自分にもその気持ちが無いわけではない。こんな遠くの山の中の一軒家まで来る自分に、全く下心が無いと言い切れないことも自分で分かっている。だからこそ月に一度程度は押しに負けて体を許してしまってしまっていたのは事実。毎回後悔と安堵が繰り返す。
「…………あなたが……自分でこんな山の中に逃げたんでしょ…………」
「でも
「……そうだけど…………」
堂々巡りな会話であることはお互いに分かっていた。
未だに公私共にパートナーであることは事実だ。
両親共、幼い頃に亡くしていた。子供の頃から強い霊感体質だった
二才年上の
それでもお互いの気持ちだけは離れることが出来ないまま、
「今日はさ」
そう声を張り上げて話題を強引に切り替えたのはもちろん
「仕事持ってきた。久しぶりに」
「へー、やったじゃん」
そう言って体を戻す
だからこそ
「久しぶりに稼ぎたいねえ。この家もリフォームしたいしさ。もうすぐ冬だし」
すると
「店の若い子なんだけどさ…………結構最近困ってるみたいでさ…………あんまり寝てないって言うしさ」
「つまり、安い仕事だけどなんとか受けて欲しいと?」
「まあ…………そんなとこかな」
すると、
「今夜泊まってく?」
「だめ」
しかしその言葉が本心でないことを
「分かりやすい嘘つかないで」
「明日も仕事だし」
「夕方からでしょ?」
「…………ズルいよ」
「あれ?」
突然そう切り返した
「
「ちょっと────」
声のトーンを上げた
「店の子に手出さないでよ。ちゃんと相手いる子なんだから」
店がLGBTの客をターゲットにしているだけあって従業員ももちろん同性愛者。それなりに過去のあるメンツばかりだった。
「だって
そう言いながら、
そしてその言葉が続いていく。
「……私の総てを見たのはあなただけ…………」
「…………見せられるのは…………
☆
水の中。
ぬるま湯と言ったほうが正しいかもしれない。
決して暖かくはなかった。
全身にまとわりつくような、そのぬるま湯。
視界は歪んだまま、透明のぬるま湯が絶えず
首には絶えず圧迫感。
しかし苦しさは無い。
意識も無い。
☆
二人が目を覚ました時、すでに時間は一一時を回っていた。
「いつもより早起き?」
ベッドの上で上半身を起こした
その声にいつも勝てないと思いながらも、
「……大丈夫…………早い時はいつもこのくらい…………」
「やっぱり……まだ見えるの?」
「
そう応えた
しかし
「ご飯は? 昨日のカレーでいい?」
唇に
「
いつもより甘えた声になっている自分を少し恥ずかしく感じながらも、その言葉は嘘ではない。料理好きの
「分かった。温めてくるね」
それは〝火の玉〟と呼ばれ、対になる〝水の玉〟と共に、とある神社では御神体として
──……リフォームかあ…………そうだよねえ…………
──……久しぶりに大きな仕事欲しいな…………
「ねえ」
リビングの隣の台所から、カレーの香りと共に
「今日、店に行く前に会う?」
それを聞いた
「そうだね……大丈夫?」
言いながら
「困ってるなら早いほうがいいんじゃない? 私もたまにお買い物したいし」
鍋をかき混ぜながら
「一緒に行けば今夜は
「どうせ店で酔い潰れて終わりでしょ? お金なんか取らないからたまには呑んでってよ」
畳の上のクッションに腰を降ろした
──……何かしてないと……寂しいよね…………
「レタスとかも育てたいね。キュウリとか」
そう言いながら、
オリジナルのドレッシングをサラダにかけながら
「庭も広いし、来年は畑を耕してみようかな、なんて思ってるんだけど」
「分かった。仕事見つけてくるよ。お姉さんに任せなさい」
「頼りになるねえ。ベッドの上では子猫みたいなのに」
「猫、好きでしょ」
「うん……大好き」
そう言って
しかし、裏の仕事がある。
それは〝心霊相談〟を受けること。
もちろん事業として正式に登記されたものではない。
二年前、
少し会話をしただけで、すぐに
一人で通うようになって、少しずつ
やがて二人で会うようになり、お互いのことを話すようになると、
それ以来、
そして自分の能力を恨んだ。
離れたくないのに、常に一緒にいることが出来ない。それでも
最初にスナックの常連客から相談を持ちかけられたのが最初だった。もちろん店では霊感体質であることは秘密。店のママですら知らない。怖がられることを知っていたからだ。
誰か相談出来る人を知っていたら教えて欲しいとの常連客の話に、
そして、
しかも
除霊などという安っぽい形ではない。
それは
感動した常連客の話に乗る形で、
裏の仕事ではあったが、それはしだいに二人の懐を暖めていった。
とは言っても頻繁にある仕事でもない。しばらく依頼は途絶えたまま。
まだ貯蓄はあったが、
まだ明るい内に買い物と言っても、買い物のほとんどをネット通販で済ませる
現在の時間は一六時。
「ごめんね
そう言いながら
「だって前からあの店のクレープ食べてみたくてさ。ネット通販じゃ買えないからねえ」
そこに店のマスターが近付いてくる。白髪の初老の男性だ。新人でもない限り、この街で夜に働いている人間なら知らない者はいないだろう。時としてご意見番のような立場にもなる重鎮だった。
「久しぶりだね
いつもの気さくなマスターの声に
「元気そうだねマスター……また白髪増えたんじゃない?」
「何年も前から真っ白だよ。二人ともコーヒーかい?」
それに
「うん……いつものお願い」
「はいよ。毎度」
マスターがカウンターに戻ると、再び
「で…………こっちが
「…………はい……よろしくお願いします」
少し驚いた
そのせいもあるのか、若くは見えるが
そして
「よろしく
そして、
「あの…………もう一ヶ月くらいになるんですけど、毎日……金縛りに会うんです…………」
「ああ……金縛りかあ……」
「金縛りが心霊現象じゃないって話は知ってます。でも…………必ず前の彼女が出てくるんです…………いつもベッドの横で私を見下ろして…………」
「で、気が付いたら朝なんでしょ?」
「…………はい」
その横顔を
──……この感覚、久しぶりだな…………
マスターがその目の前にコーヒーカップを置くと、途端に三人の間にコーヒーの香りが広がっていく。まるで湯気までも香りを伴っているかのよう。
「相変わらずいい香りだねえ」
その
「俺は飽きたよ」
そしてマスターは
「あ……すいません」
咄嗟の
「いいよ。これはサービス」
マスターがカウンターに戻ったのを確認したかのように、
「少し考えて欲しいんだけど、今、
少し困惑したような目で、
「…………そうですね……やっぱり怖いと思います」
「それだよ」
「人間の想像力を侮っちゃダメだよ…………怖いから……そう思った時に怖いものを想像しちゃうの……
それに
「じゃあ、何回かに一回…………幽体離脱っていうんですか? 上から自分を見下ろしてて…………」
「これ」
「耳から入ってくる音の情報って凄いよ。視覚が遮られると特にね。頭の中で映像を作り出せるくらい……臨死体験したっていう人に多いみたいだけど、必ず
「でも…………浮遊感っていうか…………浮いた感じがあって────」
「空中で体が浮いた経験ある? 宇宙飛行士でもない限り経験はないよね。水に浮くのは水の抵抗を感じるだろうし…………それにどうしてみんな〝気が付いたら朝〟なんだろう。怖い経験をしたから気を失うって言うなら、金縛り以外でも怖い経験をしたら必ず気を失うことになる。でもなぜかそうはならない。絶対って言えるものではないけどさ」
「以前に私が経験した金縛りで変わったのがあってね…………一〇才くらいの女の子が出てくるんだけど…………その子、この世には存在しない子なの」
横の
それに気付かずに
「100%私が想像した女の子。大体の人はすぐに水子じゃないかって言うんだけど、残念ながら私…………子供作れない体なんだよね…………しかもあの子は私の想像の中だけの子…………前から知ってた…………でも金縛りの最中に現れた…………私の体に抱きついて…………お腹に乗った頭も触った…………嬉しかったよ…………今でも髪の毛の感触を思い出せる…………」
そう言って
「幽霊が現れるなら想像も出来るけど…………あの子は私の想像上の人物…………それが実体化した…………頭だけが覚醒した状態で、恐怖を感じたまま、現実の光景と夢がオーバーラップしたのが金縛り…………だからいつの間にか眠りに落ちて、気が付いたら朝…………それが答え」
「
戸惑いながらも、
「…………そっか……隣の県から来たんだね」
「え⁉︎ だって
それに応えたのは
「みんな、触れられたくない過去ってあるんじゃない? 年齢は関係ないよ。私たちも一緒」
そして
「大丈夫だよ…………そんなことで
「それは、まあね…………」
視線を上に向けてのその
「……分かった…………怖かったんだね…………それで前の彼女から逃げてきたのか…………そんなに暴力振われちゃ無理もないよ…………」
目から溢れる涙を拭おうともしない。
「恋愛対象が異性でも同性でも、自分の感情を暴力でしか表現出来ない人がいるのは同じ…………今の彼女はいい人みたいだね。
すると、いつの間にか
「……はい…………でも私と違って日中に働いてるから…………時間が合わなくて……日曜日しか会えなくて…………」
「寂しかったんだね…………じゃ、
その
「は⁉︎」
「いいじゃん。今は忙しい時期でもないでしょ。今は
「シフトだってあるし────」
「私が代わりに入ればいいじゃん」
「…………え」
「そんなわけで私も一週間
「……そうきたか」
そして
「すいません…………これしかなくて…………」
「コーヒー代だけもらうよ」
「でも────」
「私は99.9%幽霊を信じていない能力者。しかも今日は大したことなんてしてないし…………マスター! これで足りる?」
千円札をヒラヒラと振る
「ウチのコーヒーはそんなに安くねえよ」
「長い付き合いなのに冷たいねえ」
「でもまあ…………不思議なことって確かにあるけどね」
そう言って
☆
「誰の子なの?」
妻の
「……俺たちには子供がいない…………養子をもらう話は前にもしたと思うけど…………」
「あなたが一人で決めることなの? いきなりそんな赤ちゃん連れてくるなんて…………どうせ誰かにあなたが産ませた子供なんでしょ。ずっと浮気してたくせに…………女に押し付けられたんじゃないの⁉︎」
玄関で靴を脱ぐことも出来ないまま、両腕でまだ一才の赤ん坊を抱き、浴びせかけられる
「違うんだ…………事故で死んだんだ」
「だったらどっかの施設にでも入れたらいいじゃない。私たちの子じゃないんだから」
「……この子は俺の子でもある」
「あなたの子でも私の子じゃないのよ!」
結婚して五年。なかなか子供が出来ないまま、
──……妻との間に子供が出来ないのは俺のせいじゃない…………
──…………悪いのは
そして自分の遺伝子を受け継いだ子供がいる。
女は一人で育てると言った。その時、
地元の政治家も輩出した財閥の次男。財閥のグループ会社に転がり込み、結婚して家を出ているとは言っても、世間体的に下手なことが出来ない人生でもある。ほんの遊びのつもりの浮気相手を妊娠させてしまったことは
まさかその一年後に女が事故死するとは思っていなかった。
しかも身寄りのない女だった。
自殺の可能性もあって警察が動いたが、結果として
女が携帯のメールの中身を第三者でも見られるようにしていたのは、
警察に詰め寄られるまま、引き取ることを承諾するしかなかった。仮にも自分の子。妻も世間体を考えたら首を縦に振るしかないだろうと甘く考えていたのは事実。
「どこの馬の骨かも分からない女の子供を……私に育てろって言うの? しかも私に隠れて女遊びをしてたあなたの子供なんて…………育てると思う?」
「……お前には……本当にすまないと────」
「私がどんな気持ちで病院に通ってたかなんて考えたこともないんでしょ⁉︎ そうよね。あなたはその間に他の女と裸で抱き合ってたんだから‼︎」
溢れ出す
それでも離婚の出来ない理由。それは
総ては世間体。
それだけでその世界は動いていた。
「…………例え育てたとしたら…………あなたは私に弱みを握られるのよ……この先ずっと…………それでもいいのね」
こんな時に、男が考えるのは〝逃げる〟ことだけ。
「ああ…………それでもいい…………この家の養子として育ててほしい」
「分かった」
その
やがて、
「女の子? 名前は?」
「…………
「かなざくらの古屋敷」
〜 「プロローグ」終 〜
第一部「妖艶の宴」へつづく
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