少年期編 1話
中学に上がる頃、俺は新たな人生を始めるべく名前を変えた。すでに事情は理解していた。元々の名前から今の名前に家庭裁判所で変更手続きをしてくる。
体もだんだん大きくなり強くなっていった。
その頃にはいじめも沈静化していた。いつだったかいじめっ子にハイキックが綺麗に決まったことがあった。習ったことのない技だが、他流派の技も形だけなら見て覚えることができるという。もちろん手加減はしていた。
一方的に虐められる側だった俺が反撃する力を得ていた。
幼い頃から受け身や護身術を少しずつ教わっていた。それが実を結んでいたのだ、体の成長とともに。
俺は怖くなった。
互いに体も大きくなりいじめる側もいじめられる側も遊びでは済まなくなっていく。さすがに分別ができた。わかりやすい暴力的ないじめは少なくなっていった。
本当に良かった。
高校に入った後、元いじめっ子と和解した。
俺は知っている、元いじめっ子は複雑な家庭環境にいた。ある日元いじめっ子の父親がいじめっ子に対して背中に思いっきり蹴りを入れていた。強い力を持つ者もより強い力に組み敷かれる、幼いながらも無常を感じた。
相手に事情があるから許せ、だなんて他人には絶対言えない。怒る権利も許す権利も、奪えない。
俺はお人好しすぎるのか。自分が痛い時も、相手の事情がチラつくのだ。
馬鹿だよな、いつまで貧乏くじ引くつもりだろう。他人にもっと攻撃できる性格なら、ここまで攻撃されなかっただろう。
「私不満です!!!!」オーラ出して生きてく方がトラブルを避けられるのに。
自分が不幸だからって八つ当たりができない。不満を他人にぶつけられない。勇気がないから、強い言葉で押し切られ負け続ける。傷つくのも、傷つけられるのも嫌なのに。
中学は、暴力教師が支配する場所だった。体育教官室と言う謎の部屋があり、専用の個室になっていた。そこに少年漫画を持ち込み適当に過ごしている暴力教師。
当時学校は荒れていたから暴力教師が力ずくでも押さえつける必要があったのかもしれない。しかし力に対してより強い力で押さえつけるというやり方を幼い頃から刷り込まれていたのだ。どうなるか? 俺の出身校から暴力団関係者が出るのも頷けるというもの。
「このまま人に笑われながら一生過ごせよ」
教師とはなんだ? よくこんなクソ吐けるよな?
当時、台風が来ると立て付けの悪い実家の雨戸をよっこらせと閉める必要があった。父が持病で入院しているときは、身体の大きくなっていた、俺の仕事だ。
母は父が家にいないことを「不用心だから外で言ってはいけない」と言っていた。雨戸がなかなか閉まらず遅刻した日があった。理由はあったが口止めされている。他の生徒の前では言えない。大人しく殴られるしかなかった。理不尽だった。
「大人になったら絶対やり返してやるぞ」残念ながら実現はしていない。
「何も悩みなんてなさそう」
「ヘラヘラ笑って人生舐めてる」
幼い頃から何度も言われてきた。見た目だけで人生の何がわかるのだろう。神様にでもなったつもりなんだろうか。
おそらく俺は不幸な境遇なんだろう。だからといって負け犬として暗い表情のまま生きていかねばならないのだろうか?
周囲を不快にしたくない。楽しいから笑ってるんじゃない。
自分のせいで他人を不快にしたくない。そこまで考える必要があるのかはわからない。幼いころから周囲の顔色を伺って生活していた、臆病な人間なのだ。
俺が何もかも背負う必要はないのに。
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