幼児期編 1話


 俺の実の両親は最低のクズだった。

 借金を作り消えた実父。子供を育てられないからと末っ子の俺を捨てていった実の母親。俺には確か姉が二人兄が一人いたそうな。


 幼く手がかかるからと捨てられたわけだがもう少し計画性というものはないのか?

 無計画に子供をポンポンと作り手に負えないからと捨てていく。後にわかることなのだが兄は知らないうちに死んでいた。


 さて俺は老夫婦に預けられるわけだが、血縁は一切ない。

 今の両親が、たまたま利用したタクシーの運転手が「かわいそうな子がおってな」と幼い俺の境遇を話した。「どうしても育てたい」と養子として育てることに決めた。

 めでたしめでたし、とはいかなかった。何と言っても俺と50才歳の差がある老夫婦だ。


 父も母も持病で何度も倒れた。

 そして問題は叔父の存在だ。叔父は重度重複心身障害1級、心身ともに重度の障害をおっていた。父の兄弟は8人だったか、その中で家族皆に見捨てられたおじさん。誰が引き取るかで揉めて我が家に来た。


 俺の最初の記憶は夕日に照らされたトイレに両脇を抱えられ向かう場面だった。おそらく3歳頃。次に強烈な記憶が残っているのはおじさんに対してだ。

 おじさんはこたつでタバコを吸っていた。こたつ布団にタバコから燃え移り軽いボヤになりかけていた。俺は5歳ぐらいだったと思う。ちょうど両親が留守にしていたので俺は必死にコップに水をため台所から運び消火活動をした。何度も何度も水をかけた 。幼い手足を伸ばして蛇口から水を出しっぱなしで、水をくんだ。


 このおじさんは1日の半分を正気で過ごした。正気のおじさんは難しい言葉や五目並べなどの遊びを教えてくれて、優しいおじさんだった。両親に厳しく叱られてる時もいつもかばってくれたのはおじさんだった。


 正気ではないおじさんは変な人だった。

「あそこの山のてっぺんの大きな木の根元に生えているキノコを煎じて飲めば俺の病気は一発で治るんや」

「俺はたぬきとばけくらべしたことあるんやぞ」


 専門用語で何と言うのか。体系的妄想というのだろうか。

 明らかに嘘だとわかっているので子供ながら聞き流しつつも面白いおじさんだなと思った。

 若い頃は高身長でそこそこの企業で働いていたそうで立派な人だったと聞いている。だがおじさんは大きな病気をして心身障害をおった。1日の半分をよだれや鼻水を垂らしながら首をガクガクと揺らしてわけのわからないことを言っている。病気とは怖いものなのだなあと幼いながら思った。それでもおじさんのことは好きだった。


 俺が5歳前後から11歳頃までおじさんは我が家で過ごした。

 ベットの上で「うんこうんこうんこうんこうんこうんこ」 とつぶやきながらうんこ漏らす。はたからみれば面白いかもしれないが、幼少期の俺にとっては 刺激が強かった。病気って怖いな、と思った。今ではヤングケアラーという名前がつくんだろうか。おむつを補充したり トイレットペーパーを用意したりできることは手伝った。

「 お前はそんなことやらんでええんやぞ」

  正気のおじさんは 幼い俺を思いやってくれた。

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