始まりは、君と見た秋空。1ページ
教会の隣にある集団墓地の片隅に座り、ミイラ男のクリスは秋の空を眺めていた。ほつれた包帯の切れ端がハタハタと風になびく。
ドラキュラ
「……何か、絵になるな。」
ミイラ男
「…………?」
クリスの背中から話し掛け、彼の隣に並んで腰を下ろした。「はぁ~あ。」あくびをしながら大きく伸びをする。所々色付き始めている木々の葉が、丘一面に広がる林を綺麗に染め上げている。長い間眠っていたせいで体の節々が固まっている。手首を上下に曲げ筋を伸ばすジョシュアに、クリスが隣から言った。
ミイラ男
「お前、平気なの?ヴァンパイアは朝日に弱いって言うじゃん。」
驚いた顔でジョシュアを見つめるクリス。もうその質問には何度答えてきただろう、どこぞの者が書いたおとぎ話が世界中に広めた固定観念のせいで、今やヴァンパイアはマントを広げ空を飛び、どんな生き物にも変身でき、獲物が屍になるまで血を吸い尽くす。そんなイメージを持たれているのだ。「やれやれ…」と思いながらも返答をした。
ドラキュラ
「え…何それ、童話?まぁ夜の方が視界はいいけどな。昼間も普通に出歩けるよ。」
ミイラ男
「じゃあニンニクは?」
ドラキュラ
「何この尋問……。俺を退治しようとしてんの?ニンニクも普通に食えるけど、別にそこまで好きでも無いかな……。」
ミイラ男
「空飛べる??」
ドラキュラ
「飛べる訳ないじゃん鳥じゃないんだから。」
草むらの上で伸ばした両足を左右に揺らしながら、クリスからの質問に淡々と答えていく。ミイラ男という割に全身をしっかりと包帯で包んでいる訳でもなく、所々素肌を見せているクリス。他のミイラとは少し違った見た目をしているとは前から思っていた。……それは聞いてもいいのだろうか?
ドラキュラ
「てかお前ってさ、あんまりミイラ男っぽくないよね。体中がっつり包帯に巻かれてる訳でも無いじゃん。」
ミイラ男
「あぁ、俺はハーフだからね。」
雑草をブチっと引き抜き、葉の先を丸めながらクリスは簡潔にそう答えた。気に障るかもしれないと思っていたが、その質問をそこまで気にしてはなさそうだ。
ドラキュラ
「ハーフ……?」
ミイラ男
「うん、純血のミイラじゃないから。親戚の奴らは皆もっとミイラっぽいよ。」
ドラキュラ
「ミイラにも混血とかあるんだ……。」
亀やそこいらに生えている古木よりも長く生きているジョシュアにも、この世界にはまだまだ知らない事が沢山あるということだ。彼の見た目からして、きっと半分は人間の血だろう。あの怪物として有名なミイラ男というより、どちらかと言うと重傷を負った人間のように見える。……これはさすがに言うべきでは無いだろう。
ミイラ男
「お前は?純のヴァンパイアなの?」
ドラキュラ
「うん、うちは代々ずっとヴァンパイア一家だよ。」
ミイラ男
「何かカッコいいね!」
自分を真っ直ぐに見つめ、目を輝かせそう言ったクリスをジョシュアは一瞬見入ってしまった。彼から漂う甘い匂いが妙に鼻に残る……何とも不思議な少年だ。
それから何度か街であの少年を見かける事があった。声を掛けると気さくにこちらに来て話し掛けてくれる。丸太やら部品が沢山詰まった袋やら、重たそうなものをせっせと運んで爽やかに汗を流して働いている。それにしてもあんなに包帯に巻かれた身体で動き回って暑くないのだろうか?可愛らしい年頃の娘は街にいくらでもいるのに、視線がいつも彼の方にいってしまう。
ミイラ男
「……あ、ジョシュ!また会ったね!」
手を振ってこちらに掛けて来るクリスに、なぜか胸が躍る。「………?」それはまるで誰かに恋をした時のように、胸が温まり、少しキュっときつくなる。「どういうことだ?」自分自身に疑問が湧く。戸惑った表情で顎を抑えるジョシュアを不思議そうに見つめる。
ミイラ男
「どうしたのお前?腹でも痛いの?」
ドラキュラ
「クリス……お前って男だよね?」
ミイラ男
「なっ……ええ、そうですけども!(怒)」
高身長とは言えない背丈とその大きな瞳のせいで性別を間違えられることはよくあった。男らしくありたいクリスにとって、それはかなりのコンプレックス。出来るだけその見た目を隠すために顔は左目以外しっかりと包帯で覆っている。
ドラキュラ
「そうだよね。ごめん、何でもない。」
そう言って「じゃあな。」と坂を上って行くジョシュアを見送り、ムスっとした顔で仕事に戻ると運び途中だった木の板を再び肩に担いだ。
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