第12話 二回戦


1回戦突破した天才投手東奈光率いる福岡城西高校。



最終回に色々なトラブルがあったが、セカンドの西さんの超ファインプレーによって何はともあれ1回戦を突破できた。



「あのファインプレーで安心出来たのか笑いも止まったし、よかった…。」




いつの間にか壊れた人形みたいに永遠に笑い続けていた光も、いつも通りに戻っていた。



全員で一礼してグランドを後にした。



クールダウンをかなり丁寧に行った後、試合後のインタビューを受けていた。




「今日の試合6回まで完璧な投球で、7回に味方のエラーから1失点した後、笑っている様に見えたのですが精神的ショックなどはありましたか?」




「いえ、一切そういう事はありませんでした。笑っていたのは事実です。私の完全試合のせいで1年生達がガチガチになって、ドタバタしてるのを見ていたら、ツボに入ってしまい笑いが止まらなくなってしまったという感じでした。」




「女子甲子園が開催されてからまだノーヒットノーランを達成した投手は居ないですが、達成出来なかった事に何か思うことはありますか?」




「それも一切ありません。

ノーヒットノーランや完全試合は結果的に達成されるものであって、投手の独りよがりで達成できるものではないと思っています。エラーによって達成されなかったと残念がる人がいると思います。

ここまで頑張ってくれたチームメイトのお陰で、そのチャンスを得られたこと自体がとてもありがたいことだと思います。

一戦一戦チーム一丸となって全力で挑んでいこうと思います。

これからも応援よろしくお願い致します。」




光はあんまり質問を受けずに、1回1回の質問に対してしっかりと回答をして時間を稼いで、インタビューの時間が終わったらさっさとその場を後にした。




甲子園大会はトーナメント制で負けた時点で即敗退となり、3年生はほぼそこで高校野球引退となり、全国大会優勝をするには5回勝利することが絶対条件となる。



城西高校は光が打者としても投手として相変わらず大活躍、1年生達も勢いに乗って調子を上げてきた。




二回戦。



福岡代表城西高校 対 広島代表呉商業高校



1回から城西高校の打線が爆発、天見さんに高校初ホームランが飛び出すなど1回に7得点を奪う。




前回の試合はアウトの半分三振を取っていたが、この試合は初回にかなりの援護点を貰って、いつものピッチングから省エネ投球に直ぐに切り替えた。




この試合は被安打はある程度増えたが、内外野が守備を頑張り5回まで1失点に抑えれていた。



5回終了時の点差は、13-1のほぼ試合の勝敗が決まったレベルの点差となった。



光は6回にマウンドを降りてサードのポジションにつき、公式戦初登板の1年生がかなり緊張した面持ちでマウンドに上がった。



公式戦初登板が甲子園のマウンドという場面に、元々緊張しない選手でも緊張せざるを得ない状況になっている。



四球を2つ出しながらもピンチをどうにかこうにか抑えて6回を1失点で切り抜けた。



この試合目立っていないと思われた光だったが、7回にツーランホームランを放ち5打数4安打1本塁打4打点と打者として大活躍だった。



最終回には控えのもう1人の投手が登板した。



城西は野手ベンチ1人だけを残し、野手4人が変わっている状況だった。



内野は光以外みんな変わってしまい、光が変わっていないのは、もし投手にアクシデントや大乱調した時の為の火消しとしてサードのポジションにいた。



14-2の大差でそんなことを気にすることもく、光は物珍しい左投げのサードととして今か今かと打球が飛んでくるをうずうずと待っていた。





14-8。




まさかの四死球5つの大乱調と連打で6失点で、しかも1アウト満塁のピンチで打順も2番というかなりシビアな状況だった。



ピッチャーはかなり精神的にも体力的にも疲弊していた。


先発投手は100球近く投げるが、ぶっ続けで100球投げるわけではない。



1回当たりの球数は平均すれば15球くらい。


それを6.7回続ければ丁度100球くらいの先発投手の交代の目安になる。



1回に投げる球数は20球で多いと言われ、自分の最大のパフォーマンスが出せるのは精々30球くらいだろう。





だが、この回48球となり緊張でテンポも早くなり自分の間合いで投げれずに完全にノックアウトされている状態だった。



『ここはもう仕方ないよね。光さんにマウンドに上がってもらって…。』



ここまでピッチャーに対してアドバイスもなにもせず、傍観を貫いていた光がマウンドに近寄って行った。



「すいません…。交代ですよね…。」



「ん?違うよ?このまま行くと後6点くらいは取られそうだね。」



また追い込むようなことを言ってると、マウンドに集まってきた内野陣は思っていた。




「もし逆転されそうになったら私が全員三振にとってあげよう!だから、ど真ん中にボール投げてみ?」



と思っていたが、光は攻めるのでは無く投手にアドバイスを始めた。




「バッターなんてど真ん中にストレート投げ続けても半分くらいしか打たれないし、そう考えたら6点取られるまでにはツーアウト取って試合も終了してるはずさー。」



頼もしいか無責任か分かりずらいようなことを伝え、サードのポジションへ戻って行った。



ピッチャーはコントロールも変化球も良くないと気づいていたからこそ、打たれる覚悟で天見さんはど真ん中のストレートのサインを出し続けた。




カキィィーン!




三塁線に強烈な打球が飛んできたが、野球のセオリーで守るはずのない左利きの光が飛びついた。



右手を精一杯伸ばし、ダイビングキャッチで何とか打球を好捕。



すぐ立ち上がり、送球の動作と同時にサードベースを踏んでアウト。



1塁へ140キロ近く出てる矢のような送球に、ファーストはビビりながらもなんとかキャッチしてゲッツーで試合終了した。




14-8で呉商業高校を下して、準々決勝へ進出した。



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