異世界転生先が赤ずきん…?


昔昔ある所に赤ずきんと呼ばれるとても可愛い女の子がいました。特におばあちゃんはとても赤ずきんを可愛がっており、赤の頭巾を被せたのがこのおばあちゃんです。そのおばあちゃんにワインとケーキを持っていきなさいとお母さんにいわれて家を出るところからスタートです。では、ただの女の子ではないこの赤ずきんちゃん。どうぞご覧あれ。


「え、何ここどこ」

おかしい。俺はさっきまで道路を歩いてたはず。んで、トラックが突っ込んできて…え?

『おやおや、やっと気づいたね』

「誰だ」

『誰だとは失礼だね。私は神だよ。君さっき死んだでしょ。可哀想だったからさぁ〜助けてあげたのよ』

「おっしゃ異世界転生きたぁ!」

『えぇ何も説明してないのに異世界転生当てるのやめてもらえる?』

どうやら俺はこのベタな展開で異世界転生をしたようだ。男子学生誰もが夢見るこのムーブメント。俺は運がいいらしい。さてと、魔法とか魔術とかどんなことができるのかな。

「おい、神様。これはどんな異世界転生系ですかぁぁ!」

『テンション高いね君。とりあえず私から言えるのは物語を遂行してね♡ってことだけだよ』

なるほど。ストーリー系か。仲間とか率いれて冒険とかすんのかな。ワクワクするぞ。

『勘違いしてるっぽいけど君ただの人だよ』

「え」

魔法は?獣人は?あんなことやこんなことは?

『君今赤ずきんちゃん』

「は?」

『だから、君赤ずきんちゃん。頑張って物語遂行してよ。バイバーイ』

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!なんでだ!異世界転生でハズレを引いてしまった。嘘だろ、童謡の世界に突っ込まれたのか。てことは、俺の思い描いてたハーレムとかそういったムフフなことは無い…てか、説明無さすぎだろ。クソッタレ…どんな異世界転生かと思って覗いた読者がここで見るの辞めてくだろうが。作品を分かれよあのクソ神が」

まさかのハズレ転生ではあるが、異世界転生には変わりはない。悲観するが、少しでも楽しみたいものである。所持品の確認はした方がいい。絵本の通りバッグを1つ持っている。

手持ちバッグの中にはワインとケーキ。あと、手鏡。手鏡にはこう書いてあった。

『前世ブスだったんだから、美貌に酔いなby神様』

「うわ、腹立つぅぅ。何これ新手のイジメですか。フリーダイヤルに電話しますよ。訴えますよ」

……電話とかは無い。逃げ道もない。

こうなったらやるしかない。にしても、確かによく見ると可愛いことがわかる。赤ずきんが本当に似合ういい女だ。現世なら陽キャ共に狙われる一軍女になれるほどの美貌。俺には一生ご縁の無い感じの風貌だということだ。悲しい話である。

まぁいい。とりあえずとっとと終わらすか。


俺は冷静になって赤ずきんちゃんの話を思い出すことにした。

「確か赤ずきんちゃんっておばあちゃんに物を届けにいってそれがオオカミだったとかそういった話だったはず。てことは、おばあちゃんの家に行けばいいのだろう。といっても場所なんてわからないがどうしたらいいのか」

答えはすぐに判明した。俺がいるこの道1本道なのである。そう、つまりこの道をひたすらに進めばおばあちゃんの家に着くだろうということがわかる。こんなにイージーで大丈夫なのだろうか。でも、道はここしかないので進む以外の選択肢は無い。


ちゃんと道に沿って歩いているけども、道を進むとどうなっていくのかは残念ながら俺は覚えていない。というよりは、昔話や童謡ってのは最初と最後は覚えているが真ん中の部分は基本的に記憶が曖昧な場合は多いのではないだろうか。少なくとも俺は前世見た昔話でストーリーを間違いのなく覚えているものはほとんどない。

「てか、長いなこの道どこまで続いてるんだ」

そんな独り言を発していると、前から灰色っぽい何かが近づいて来ていることが確認できる。灰色っぽい何かということだが、なんせ察しのいい男、いや察しのいい女なのでその正体がオオカミであることはすぐに推理できた。こんな序盤にオオカミに会うことは知らなかった。何を言われるのだろうか。警戒は怠らない。

「お嬢さん可愛らしいね。何しに行くんだい」

オオカミが喋ることに若干の驚きと怖さを覚えたが、物語遂行のための強制イベントだろう。仕方ない、話すとしよう。

「おばあちゃんに届け物を」

「おおそうかそうか偉いね」

気持ち悪。本当に気持ち悪いこのオオカミ。もう既にヨダレを垂らしているので食べようとしてるのが丸わかり。

「じゃじゃあ私はこの辺で」

「待ちな、この横にいいお花畑があるよ。そのお花畑でお花を摘んでから行くといい」

「あ、大丈夫です。間に合ってます」


時間停止


おかしい。俺の体が動かない。目の前のオオカミも動いてない。何事なのだこれは。

『間に合ってないわよ。何してんのよ。行きなさいよお花畑』

「あ、クソ神!てめぇ大した説明無しに消えやがって」

『なんだい、察しのいい君のことなんだから分かってくれると思ったのよ。現に成功してるじゃないか』

ガイド役がここまでプレイヤー本願なことあるのだろうか。俺にはわからん。

「んで、お花畑行けってどういうことよ」

『お花畑行かなかったら先におばあちゃんの家着いちゃうかもじゃない。オオカミが食べる期間与えないと気まずい雰囲気の中に突入することになるよ』

要するにおばあちゃんが食べられるのを待てと言うのかこの神様は。中々な外道な様で。

「あんたの警告無視したらどうなるんだ」

これが1番気になる。選択肢ゲームなら別のエンドが待ってたりゲームオーバーになったり様々な形が存在する。この異世界ゲームは果たして。

『え?従ってくれるまで何回でもやり直させるわよ』

戻る系かぁぁぁ。まさかのアタリを当てるまで同じことをループするという初心者設計。ありがたいサービスなことだ。

「エンドループすると…いうこと?」

『そうよ!』

従うしかない。しょうがない。

「分かりましたよ。従います従います」

『いい諦めよぉ。はい、リスタート』


再開


神が消えたと同時に再び世界は動き出した。目の前のオオカミももちろん。


「待ちな、この横にいいお花畑があるよ。そのお花畑でお花を摘んでから行くといい」

しっかりとセリフも直前のものからリスタートするという優しい設定。おばあちゃんには申し訳ないのだがお花畑に行くしかないのだ。

「わかったよ行くよ」

「お嬢さんなんで少しキレてるの」

赤ずきんちゃんバージョンの口調ではなく、普通の俺の口調で言ってしまった。完全に気を抜いた俺のミス。すぐに訂正を。

「そ、そんなことないわ。オホホ。では、失礼〜」

いきなり女の子っぽく話すのは難しい。逆パターンでも難しいのだろうか。そんなことは今どうでもいい。オオカミに言われたお花畑は結構近くにあった。かなり広い敷地で素晴らしいお花畑だ。生憎お花に興味はないし、お花を摘む気はないのでそこら辺に寝そべることにしますか。


鼻腔を刺激する華やかな香りで頭が安らぐのとは裏腹に、頭の端の方では

「おばあちゃん今頃食べられてんのかな」

といった雑念…失礼。心配事がよぎって仕方がない。現実世界なら殺人現場に事後突入するから殺されるの待っててということと同等のことである。あまりにも惨い。


『タッタラー🎵 ただいまおばあちゃんが食べられました。赤ずきんちゃんどうぞ行ってらっしゃーい』

「うわ、なんだ」

急に変な声が聞こえたが、正体はあいつしかいない。

『脳内へ直接喋りかけてま〜す。あ、自動音声だから返答しても無駄よ。じゃあね〜』

「クソ神が!」

オオカミの仕事はやけに早いようだ。俺だってここに来てそんなには経ってないぞ。これはつまり、おばあちゃんは近いという解釈でいいのだろうか。行きたくないものだ、殺人現場へ。


確かに元の道に戻りそこまで歩かずに1軒の家が出現した。自動的にここが目的地ということだろう。さっさとオオカミと対面してこの物語を終えた…い…

「あれ、俺ここ入ったら食われるのでは」

ボソッと呟いたがこれは事実ではなかろうか。昔話をそんなに知らなくとも赤ずきんがオオカミに食べられることは周知の事実。物語を遂行する上では避けられないこれまた強制イベント。

もしかしたら俺の知っている最後とは違った最後という粋な計らいに期待して大人しく入るべきだろうか。どっちにしろ入らないと確認はできない。

「おばあちゃん、いるかしら?」

俺はノックしてそう問いかけた。

「入っておいで」

もうおばあちゃんではないことは確定した。声が明らかにもうオオカミ。

俺は大人しく入るとベッドにおばあちゃんらしき者が寝ていた。何故これで騙せると思ったのか。

「赤ずきんこっちへおいで」

俺は近づいてガン見してあげた。

「おい、こら、てめぇ」


時間停止


『何よ上手くやってると思ったのに。そこは、どうしてお耳が大きいのって聞くとこでしょ!』

「馬鹿野郎!その流れでどうしてお口が大きいのって聞いたら食われるんだよ!嫌だよ」

無様に食われろと言われて普通の人は素直には従わない。

『何よ折角異世界転生させてあげたのに、あんた現実世界ではニートとかじゃなくて普通にバスケ部に入ってた普通の学生でしょ。こんなに前設定面白くないやつを特別待遇させてあげたんだから素直になりなさいよ』

確かに。俺は勘違いしていた。異世界転生ものは基本ニートや冴えない奴が「俺TUEEEE」ってやるもの、現実世界でのスキルを活かして無双していくものなど前世の設定は特殊なやつが多い。ここまでの没個性が異世界転生するのは有り得ない。俺だったらそんなラノベは見ない。

「…たしかに物語としてはつまらない」

『でしょ?あんたを普通の異世界転生に突っ込んだら面白味無いのよ。仕方なく昔話の中に突っ込んで差別化図ったんだからね。破格の待遇なんだからやりなさいよ』

ぐぅのねも出ない。物分りのいい俺だ。これ以上の議論は無駄と判断できる。というか、この物分りのよくて察しのいい性格も異世界転生やってく上では必要ないスキルだ。むしろ邪魔なのでは。とことんその手のラノベには適さない人格であることが顕にされる。

「かしこまりました…」

『はい!わかってくれたところで再開するよ〜無様に食べられるところしっかりと見させて頂くわ〜』


再開


俺はドアを開けたところまで巻き戻された。

「赤ずきんこっちへおいで」

俺はすぐに近づいてこう話しかけた。

「なんでそんなにお耳が大きいの」

心臓がバクバクだ。

「それは赤ずきんの声をよく聞くためだよ」

わかっていた返答だ。

「なんでそんなに目が大きいの」

「赤ずきんをよく見るためだよ」

等々これを言わなくてはならない。言いたくない食われたくない。しんどい。きつい。つらい。

「なんでそんなにお口が大きいの」

「それはお前を食うためだ!」

「ですよねぇーーーー。知ってましたすみませーーん」

「さぁ食われろ!」

「ア゛ァ゛ア゛!!!!」

えぇしっかりと食われました。しかも丸呑み。不幸中の幸いなのか分かりませんが噛み砕かれなかったので痛みはありません。ただ、オオカミの腹の中は狭いです。そして、前居者がここにはいます。おばあちゃんです。

「あら、赤ずきん。よく来たねぇ」

おばあちゃんそんなこと言ってる暇はないですよ。食べられてるので呑気なこと言わないでくれ。

「おばあちゃんも食べられてたんだね」

「住めば都ねここも」

ボケてるのであろうか。それともこの世界のジョークなのだろうか。どっちにしても嫌いになりそうだ。食べられてから思い出したのだが、確かここから猟師が助けにくるというのが物語の最後だったはz

「オオカミめ!死ね!」

もう来てた。

「ぐわぁあぁぁあああぁあぁぁあぁぁあぁあぁぁ!」

叫びすぎだろ。この家に入ってから物語の終盤まで早過ぎないか。普通の物語よりも早いんじゃないか。

「今出してやるぞ」

俺とおばあちゃんはオオカミの腹から助け出されたのですが、はて…

「あれ、物語ではオオカミって銃で撃たずにお腹切って、私達を出したらそこに石を入れるはずだったのでは…」

俺は疑問に思った。でも、時間停止されてないしこれで正解だったのか。

「あぁ本当に死んでるよこのオオカミ」

猟師らしくない一言であった。そして俺は1つ質問をした。

「どうして猟師さんは食べられた瞬間に私達の家に来れたんですか」

「え、あ、その」

いくらなんでも早いだろ食われてすぐ来たもんだ。

「その?」

「なんか、まぁ、とある誰かさんにね言われたというか来させられたというか」

あれ、これなんか共感できる部分あるのだけど。まさか

「変な神様にですか」

「!?え」

驚いた顔だ。

「てことは、ここに異世界転生してきて、変な神様に指示されるがままに導かれて、私達が食べられるまでスタンバイしてましたね」

「あぁうん。そうだね」

まさかの同じ世界線に異世界転生2人するとはどういうことだ。そんなことあるのか。そんなことよりも俺は胸ぐらを掴んだ。

「てめぇ!こちとら怖い思いしとるんだぞ。何を呑気に観戦してるんだよ。どうにかしてくれよ」


時間停止


『ちょっとちょっと彼には罪はないわよ。仕方がないじゃない物語的にこうなるんだもん』

「あ、クソ神てめぇ!」

『結局ちゃんとできたじゃない。最後ちょっと違ったけどまぁいいわ。面白かったわよ私は』

お前は面白かったかもしれんがこっちは怖い思いをしたのだ。すると猟師の彼も話し出した。

「えっと、終わりましたけど僕達はどうなるんでしょうか」

『あ、そうねぇ。このまま殺してもいいんだけど、折角だしそちらの世界で少し楽しみな』

え、どういうことだ

『あんた達特別に生き返らせてあげるけど、肉体がめちゃくちゃだからさ。それの修復に時間かかるのよ。それまで待っててね。じゃあね〜』

相変わらず説明がほぼない。


再開


「嘘だぁ!ここにまだいろってか」

「赤ずきんよ。まぁ生き返れるんだから」

あの神様のことだ、元の体には返してくれないだろう。

「ほれほれ、お2人ケーキ食べようじゃないか」

ババア!空気読め!

「どうしたらいいんだぁーー!」


こんなことを叫んでから1ヶ月後こちらの世界に慣れてきた頃、急にあの神が現れて元の世界に返された。

まさかの、元の俺に。

「なんでだァ!!オチが面白くない!!物語を考えろや!!あのクソ神が!」


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