第4話

「さて……何作ろうかな」


まだまだ甘やかし足りないが、美味しいものを作ってやると約束した手前、料理をしない訳にもいかず俺はキッチンで唸っていた。


「子供が好きで肉を使った料理と言えば………アレしか無いよな!」


西洋が舞台とも言えるこの世界の食は、その世界観に似合わず日本食が多く流通している。


大抵の物は病院食扱いだが、平民から貴族果には大族の食事としても親しまれている。


勿論米も多くの人々に親しまれており、この世界でもホカホカの白米が食べれることに全俺が歓喜した。


しかも前世では高級だったり日常生活の中では中々手を付けることのなかった肉や魚が、こうして簡単に手に取れてしまう。


この肉四百グラムでカップラーメンめっちゃ買える……。


「何を作るんですか?」


「んー?ハンバーグ」


「はんばーぐ?」


だが日本食が流通していると言っても、俺が慣れ親しんだものは余り知られていない。


不思議だね?


まぁゲームの世界だからということで納得しておこう。


玉ねぎを細かく賽の目状に切り、油をひいて熱したフライパンに入れる。


そこに軽く塩胡椒を振り入れ、玉ねぎがしんなりとした飴色になるまで炒める。


「二人共〜、そっちは準備できたか?」


「はい!卵と牛肉、豚肉、パン粉、牛乳、片栗粉で良いんですよね?」


「あってるぞ〜、ありがとなルーチェ」


「兄様!ボウル持ってきました!」


「アルバもありがとう」


自分達もやると手伝いを申し出てくれた二人に頬が緩む。


何が出来るのかと楽しそうに話し合っている二人がこんなにも可愛い。


用意してもらったボウルに牛肉と豚肉、それぞれのひき肉を入れ卵と牛乳でふやかしたパン粉を入れる。


「じゃあ混ぜ合わせてくれるか?手袋したな。手が冷たくなったらそこにあるお湯で手を暖めるんだぞ?」


「「はーい!」」


ひき肉や卵といった普段手では触ることのないそれにはしゃぎながら仲良く捏ねる二人がこんなにも可愛い。


土鍋で炊いた米の様子を確認しつつ、鍋に水を入れ人参やジャガイモ、ベーコンをそれぞれ切り入れ煮出す。


灰汁を取りつつ二人が混ぜ終わるのを待つ。


串を指し、しっかりと野菜に火が通った事を確認してコンソメを入れ、塩胡椒で味付けをする。


「混ぜ終わったか〜?」


「終わりました!」


「よし、ならそれをこうやって空気を抜いて形を整えるんだ」


混ぜ合わされたハンバーグのタネを一掴みし掌でお手玉させ空気を抜く。


最後に丸く形を整え真ん中にくぼみを作る。


俺が作るのを見ていた二人が見様見真似で作るのを見守る。


そして出来上がったそれに内心悶ていた。


だってさ?俺の作ったタネより一回り以上小さいんだよ?


しかも好きな形にしていいよって言ったらハート型にしてそれだけでも可愛いのに「これは兄様の」「これはお兄様に」なんて言って作ってたんだよ??


うちの子可愛過ぎない?可愛いがカンストしてるよ?


何とか二人の可愛さに堪えながら出来上がったタネの両面に片栗粉をまぶし、フライパンに再度油をひいて焼き上げる。


片栗粉をまぶす前に小一時間程冷ました方が良いらしいが、食べるのを楽しみにしている二人にここまで来て待っててなんて言える奴がいるなら俺の目の前に来てほしい。


殴りはしない。ただ二人の可愛さという可愛さを語るだけだから。


キッチンにジュージューと腹を刺激する音と肉の焼ける香ばしい香りが充満している。


「いい匂い…」


「あ、お腹がなっちゃった」


「もう少しだぞ〜」


焼き上がったハンバーグを皿に盛り付け、残りも次々焼いていく。


最後の一つを焼き上げ、フライパン残った肉汁にケチャップや酒、中濃ソース、砂糖と醤油をいれ温めながら混ぜ合わせる。


沸騰し始めたら火を止め皿に盛り付けたハンバーグの上からたっぷりと掛ける。


「さぁ出来たぞ!ご飯にしようか!」


「「わーい!」」


スープやご飯も皿に盛り付け、食堂へ移動する。


これだけ日本食が浸透しているにも関わらず何故か無い箸の代わりにスプーンとナイフ、フォークを用意し席に付けば


「お腹も空いたし早速食べようか」


いただきますと言えば二人もいただきますと言ってハンバーグをナイフとフォークを使い切り分ける。


ナイフで切り込みを入れた途端溢れ出す肉汁


ソースをたっぷりと絡めて口に運べば、濃厚なソースと肉の甘味と肉汁が口の中で合わさる。


噛めば噛むほど旨味が溢れ出すハンバーグを飲み込み、口の中に残った旨味が消える前にご飯を食べる。


土鍋で炊いたからかふっくらと柔らかな食感にわずかな粘り気と米本来の甘味。


それらを楽しんだ後にスープを流し込めば、野菜の旨みが閉じ込められたスープが喉を伝い暖かくホッとする味が口や胃を落ち着かせる。


「美味しい…」


「うん……すごく美味しい」


「二人が手伝ってくれたからこんなに美味しいハンバーグが作れたんだよ。


このハート型も凄く美味しいよ。作ってくれてありがとう」


カメラが無いのが物凄く悔しくて恨めしい。


写真撮りたかったっっっ!!!


リスのように頬を膨らませて食べる姿を撮れないことを悔みつつその微笑ましい姿を目に焼き付ける。


このままずっと見ていたいが、それも難しいようだ。


「飲み物を取ってくるから、二人はそのまま食べててくれ」


「分かりました」


「うん」


………食堂の扉を締め廊下に出れば、少し先に二人の人物が見えた。


来るのは予想していたが、もう少し遅く来てほしかったな。


「こんにちは」


こちらに向かって歩いてきたのは、今世の両親だった。

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