消えたサンタクロース

朝凪千代

課題

 「なぁ、サンタさんっていると思う?」

頬杖ほおづえをついて、英太えいたは言った。

「さぁ。いつの間にか、それどころじゃなくなった」

 店内のBGMはアップテンポな曲に変わるが、ペンを動かす速度は変わらない。

 xにさっきのを代入して……、でも、条件が合わないから……。

りょうの言う通り。口じゃなくて、手を動かしな」

れいは目の奥を光らせて言った。英太はふっくらとした顔をさらに膨らませ、シャーペンを置いた。

「ちょっと休憩しよう」

ぐっと背伸びをして、英太は立ち上がった。

「なにか一緒に持ってこようか」

英太が空のコップを持って、言った。

「頼む。俺、コーラがいい」

「僕は大丈夫」

首を横にふった零は、ドリンクバーに行った英太が見えなくると、肩を落とした。

「一時間しか経ってないんだけど」

「それでもだいぶ進んだ。これなら明日の締め切りに間に合うかも……。でも、ここが分からなくて」

赤ペンで真っ赤になった俺のワークをそろりと零に見せる。

「これはね、まず右辺を移項するとね…」

零の小さな文字がスラスラと並んでいった。学校のものを何倍も噛み砕いてくれた零のプチ授業だけは寝ない。


 外では、落ち葉が軽やかに円を描き、舞っている。イルミネーションを巻きつけられた街路樹は、それでも細い枝をめいっぱい伸ばしていた。大通りの人通りは途切れることをしらない。皆、手に紙袋や、ケーキの箱を持っている。


「明日も補講か…」

吐き出すように呟いた俺の言葉を、戻ってきた英太がひろった。

「それを言うなよ。クリスマスも学校とかありえん。用事は無いけどさ。ほい、コーラ」

「おう、ありがとう」

置かれたコップの中で、コーラは波うった。

「そういえば、さっき言ってたのはなんだったの。サンタさんが何とか」

零が、コーヒーカップを手に取って、首を傾げた。英太はいたずらっ子のような笑顔を浮かべて言った。

「サンタさんを信じるか、って話。ちなみに俺は信じてるんだけど」

零が苦く笑った。

「それは、どうして」

「高校生になってまだ信じてんのかよ。やるじゃん」

俺はくすぐったい思いを隠しきれない。

「いや、俺の話を聴いてくれ。確か、アレは小学5年生の時…」


 こうなる事はわかっていた。結局、課題は終わらない。





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